第8話 クエストのはじまり

 俺たちに色々と教えてくれたジロー先輩は早々に町を出ていった。

 なんでも彼はサバイバル生活が好きらしく、銃で狩猟をしながら魔物の生態を研究する生活らしい。アミューさんの異世界と同じような魔物が生息しているこのゲーム、基本いくら狩っても無限に湧くから、いくら殺しても楽しめるのだとか。

 バーチャルで生き物の生態を観察するという遊び方もあるんだな。


 そしてそんな先輩に別れを告げた俺達はというと、先輩とは別の目的で町を出た。

 広い街道をひた走るのは、JKが呼び出した四人乗りのジャガイモのようなもの。

 このゲームの乗り物ではない。

 以前JKが召喚魔法を見て呼び出し方を覚えた魔物である。


「アミューさん、この道でいいの?」

「オッケーだヨ! 北にまーっすぐ進めば、多分見えてくるヨ!」


 ジャガイモの背中に寝転がって、アミューさんは空を見上げている。

 彼女の視点では、このゲームの全てのマップが見えているのだそうだ。

 ガイドでありGMなのだから、どこに何があるのか全て把握していなければならない。

しかしそういう立場だからこそ、俺達にはガイド以上の事をしてはならない。

 ジロー先輩との会話の時も、ずっと黙っていたのはそのせいだ。

 あくまでガイドとして案内役に徹するようだ。

 ――少なくとも、俺達以外のプレイヤーの前では。


「しっかし、MMOって雰囲気じゃないな」


 周囲の景色を見て、俺は素直な感想を述べる。

 街道から見えるのは草原。そして遠くに森。見上げると山。

 のどかな良い景色だ。おそらくそういうエリアなのだろう。

 ゲームの最初の町の周辺って、たいてい草原だよな。

 で、弱い魔物が徘徊しているわけだが――


「どのへんがMMOじゃないの?」

「だって、誰もいないだろ」

「そういえばそうだね」


 これが普通の異世界ならまだ分かる。

 寂れた町の周囲を行き来する者は、そこまで多くない。

 ところがMMOの最初の町となると話は別だ。


「普通はレベル上げに来た新人プレイヤーとか、魔物を集めて狩りするRMT業者とか、スキルの試し打ちをする奴とかいるもんだけどな」

「全然いないね。プレイヤー一〇〇〇人なんだっけ?」

「みんなもう目的を見つけてるんだヨ。さっき言ってた“王国”や“帝国”に集まってるみたいダネ」

「一番栄えてる町に集まるのも、MMOの定石か」


 ただしサービス開始からかなり時間が経った円熟期のMMOの話だ。

 まだテストプレイ段階でこの寂れ方はないだろう。


「そういえばアミューさん、このゲームいつからテストしてんだ?」

「んーとね、私がガイドするずっと前から作ってたみたいだヨ? 二〇年くらい前から開発してたんだッテ」

「二〇年……!?」


 どんだけ前から作ってたんだ。

 その頃ってまだMMOってジャンルが生まれたばかりの頃だよな?


「あたし、てっきりSAOが流行ったからだと思ってた……」

「そんな最近じゃねーな。クリス・クロスの時代だぞ」

「仮想現実って、そんな昔からあったんだね……」


 当時からラノベ作家はいたからな。

 異世界に行くだけじゃ飽き足らず、異世界を作り出そうとした人間がいてもおかしくないって事だ。


「ま、そういう事なら人がいる場所に行くだけだ」

「センセーは人に会いたいノ?」

「ああ。俺がこの異世界で取材するのは“人間”、つまり“プレイヤー”だ。景色や生き物なんかは前回の取材と変わらないから、今さら見るまでもないし」

「人間が面白いノ?」

「逆に前回の取材じゃ、人間はあまり参考にならなかったんだ。なんつーか、考え方がこっちの世界の人間と変わらなかったからな。普通で素朴でいい人達で――みんなどこにでもいる人間だった」


 そう、今ここにいるアミューさんも同じだ。

 少しばかり姿が違うが、内面はこちらの世界の人間と変わらない。

 文化や風土の差はあるが、“人間”として生活しているんだ。


「ところが今回は閉じ込められた作家達が好き勝手やってやがる。ここはKADOKAWAの壮大な実験場ってところだ。だったらそこで面白い事やってる人間を見た方が楽しめるってわけだ」

「なるほどねー。あたしも作家さんがどんな行動するのか見てみたい」

「人間ウォッチングだね!」


 このゲームに限らず、MMOってのは突飛なプレイヤーがいるもんだ。

 大半がクソ野郎だが、中には面白い奴もいる。

 そしてごく稀に善悪や優劣を跳び越えた異次元の思考をする奴がいる。


「ゲームの世界で王になろうと考える奴がどんな事を考えてるのか――少しインタビューしに行ってみようぜ」


 ゲームを楽しむでもなく、原稿を書くわけでもなく、悲観するわけでもなく。

人を集めて王になる――そんな面白い取材対象、放ってはおけねぇよ。


「あ、それからJK」

「なに?」

「お前のそのチート能力、あまり人には見せるなよ」

「分かってるよ。あたしがこんな能力使えるって事は、他の人も何かしら変な能力持ってる可能性もあるしね」

「よく分かってるじゃねーか」


 異世界に取材に行くラノベ作家は、たいていハラに何か隠してやがるんだ。

 これだけは誰にも負けないという、自分だけの武器。


「しっかし、現実の能力もゲームに反映されるとはなぁ。どういう仕組みだ?」

「脳が関係してるッテ、開発の人が言ってたヨ?」

「脳で考えて使える力じゃないとダメって事なのか? 筋肉や血液は変わってなさそうだが……そのあたりの判断、どうなってんだか」

「ピンチになる前に、一通り試してみた方がいいね」


 JKの提案に頷く。

 それから俺達は、目的地に着くまで“自分達に何ができるか”を徹底的に洗い直した。

 ジャガイモの上で騒ぎながら、時間が過ぎてゆく。

 ひとつだけ分かった事があるが、この世界に夜はない。いや、正確にはあるのだが、あまり暗くないのだ。昼が日向だとすると、夜が日陰くらい。

 ゲームを円滑に進めるための設定なのだろうが……夜型の人間には辛いな。

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