第7話 生きるためのスキル

「まぁ、要するにだな」


 トスターの町の中央、噴水広場に常設されているベンチ。

 座って町を眺めると、NPC達が無言で歩いているのが見える。喧噪も聞こえるが、誰が喋っているのか分からない。おそらくBGMのようなものなのだろう。


「この世界にはたくさんのクリエイターが集まっている。KADOKAWAの息がかかっていれば誰でもいい。そこで何を求め、どう動くかにもセンスが表れる」


 ジロー先輩は帽子の鍔に振れながら、きざったらしく教えてくれる。


「そんなクリエイター連中が生き残るために、まず“クラン”を作った。クランって知ってるよな?」

「MMOの集まり……ギルドですよね? 互助会みたいな」

「そうだ。LINEグループのように登録して、所属する集まりだ」


 俺も普通のMMOで遊ぶ時は、そういうクランに所属する。

 クランの目的は様々だ。特定のコンテンツを攻略するためのガチなものもあれば、雑談するだけのものもある。他にも特定の種族だけが集まったり、社会人専用のクランとか。中にはラノベ愛好者が集うクランなんてのもあった。


「で、今このゲームの中には、二つの巨大クランがある。それが“王国”と“帝国”と呼ばれるものだ。プレイヤーが作り出したコミュニティだよ」

「へー、大半のプレイヤーがそこに所属してるんですか?」

「……いや、そういうわけではない」

「えっ」


 巨大クランっていうから、てっきり半分以上のプレイヤーがいるものかと。

 ていうか人がいないのに巨大クランなのか。


「どちらも君が知っている作家がリーダーをやっているクランだ。尋ねてみるといい。何かの参考になるだろう」

「ジロー先輩はどっちに入ってるんですか?」

「俺は……どっちでもないよ。俺にクランは必要ない。むしろ俺がクランのリーダーとして弟子を率いているからな」


 そういえば、元々この人は弟子に作劇を教えているんだっけ。

 大御所作家が専門学校の講師をやるというのは、わりとよくある話だ。

 未来の有望な作家を育てるのも、仕事のうちってわけだ。


「そういえば、君も弟子をとったのか」

「あ、いえ、こいつは――」

「あ、は、はじめまして!」


 さっきから緊張して黙っていたJKが会釈しながら名刺を差し出す。

 このくらいの大御所を相手にすれば、さすがのJKもガチガチになる。


「君は――ああ、そうか、最近デビューした女子高生作家の。なるほどねぇ……となると……“王国”の方は危険かもしれない」

「危険? JKだけが危険なんですか?」

「ん、まぁ、大丈夫かな。君もついてるし……手は出さないと思うが……」


 複雑な表情をして考え混むジロー先輩。

 なんだなんだ、“王国”とやらのリーダーは女子高生が好きなのか。

 条例に違反するような真似はイカンぞ。


「じゃあ、俺はそろそろ行くよ。君の新作も楽しみにしているよ」

「ありがとうございます、ジロー先輩」


 立ち上がったジロー先輩と、固く握手。

 がっしりした手からは年期を感じさせる何かがあった。ペンダコもないのに。


「あ、あの、すみません!」


 そしてJKがお約束のアレを言う。


「もしよかったら、スキルを見せてもらえませんか!? 参考にしたいんです!」

「スキル? ああ、そうだな、この世界でどうやって生きていくかの分かれ道だ」


 気前よく応じてくれるジロー先輩だったが――


「そんなに重要なんですか、スキル振りって?」

「ああ、俺も最初はゲームを楽に進めるための手段だと思っていたんだがな」


 そう言ってジロー先輩は銃を召喚する。


「俺は、このゲームのスキルは“作る事”に特化していると思っている」


 ジロー先輩が召喚した銃も、制作物のひとつという事か。

 その銃は敵を倒すためのものだ。

 どう見てもゲームを円滑に進めるためのものだが――


「武器だけじゃない。こういうものも作れる」


 次に取り出したのは、鍋。それからハンマーと金床。

 さらには薬のようなものも。


「これはクラフト――いわゆる武器や防具を作るスキルだ。MMOでもよくあるだろう」

「ですね、戦いよりもそっちの方が好きって人がいます」

「これをやりたがる者は、金儲けが好きな連中だ。バトルで経験値が溜まるように、金を溜める事が強さのバロメーターになっているわけだ」

 バトルに特化したスキルと、製作に特化したスキルがあるわけか。

 それでこの世界での生き方が変わるって事だな。


「その――“帝国”とか“王国”では、どういうスキルが流行ってるんです?」

「いい質問だ。俺はまさにその話をしようと思っていた」

「……なんですか? スキルと国が関係あるんですか?」

「ああ、そうだ。バトルでも製作でもない、もうひとつのMMOの楽しみ方がある」


 そう言ってジロー先輩が召喚したのは――

 何の変哲もない、直方体のブロック。

 ただの四角い石だ。


「戦いでも物作りでもない。人を集め、人との繋がりを重視し、自分が一番過ごしやすいコミュニティを作る。“国作り”が好きな連中がいるって事だよ」


 石が、雄弁に語っている。

 それが“国”を形作るひとつのピースなのだと。

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