第32話 夢の中の夢がない話

 俺は暗い場所にいた。

 光が全く届かない、一面の闇。

 だけど自分がそこにいる事は分かる。

 ゆらゆらと水に浮いているような、奇妙な浮遊感と共に。


 ――あー、死んだのか、俺。


 真っ先にそう感じた。

 死後の世界を取材したいと思っていたが、まさかこんな形で行く事になるとは。

 問題はそれを作品に生かせるかどうか。

 帰れるのかなぁ、俺。


 などと考えていると、闇の中に一条の光が輝く。

 眩しくて目を開けていられない。


「ようこそ……」


 光の中から声がする。


「誰だ?」

「私は――あなた方の概念で言うなら“神”と呼ばれる存在。二つの大陸の監視者にして、世界の行く末を案じる者」

「神?」

「ええ。あなたを連れてきたのも、私です」


 女性の声だ。

 若く透き通る声だが、顔が見えないので年齢が判別しづらい。


「本当に神様?」

「ええ」

「ドリフのコントとかじゃなく?」

「すみません、その概念は良く分からないのですが……」


 困ったような声の神様。

 だが、彼女の言葉が嘘でも本当でも、良い機会だ。

 神様にインタビューできるチャンスじゃないか。


「JKを転生させたのも、あんた?」

「はい。本来ならば、あの少女に役目を負わせる予定でしたが、わずかに狂いました」

「役目だと? 何させるつもりだったんだ?」

「この世界を救ってもらおうと思いました。長きにわたって続く戦争を終結させ、世界の守護者になってもらおうと」

「ああ、だから転生させてくれたのか」

「誰彼構わず無償で復活させていては、生命のバランスが崩れてしまいますから」


 なるほどね。

 生き返らせる代わりに、世界を救う“真の勇者”になれって事か。


「異世界って人材不足なのか……?」

「というより、特異な才能を持った方が、あなた方の世界にたくさんいたものですから」

「ああ、キノシタとかもそうか」

「彼も世界を救う力を持っていたのですが……残念ながら、ディルアラン大陸を救うだけに留まってしまいました」

「残念だったな、神様。そう思い通りにはいかねーよ」


 そもそも、なんでも神様の思惑通りに動くんだったら、こっちの世界の人間を転生させる必要なんかないんだよな。

 どうやらこの世界の神様は、万能ではないらしい。

 こう言ってはなんだが、ベテランラノベ作家の方が世界をどうこうできるんじゃないかと思えてくる。


「でも、あなたはやってくれました」

「俺?」


 はて、俺が何かしたか?

 キノシタをブン殴ったくらいだぞ?


「二つの大陸の者達に、良い心証を与えてくれました。あの戦いは、今後の二つの大陸の和平に繋がるでしょう」

「そうなの!? だって俺、何もしてないぜ!?」

「それはあなたの感想です。あなたと魔王の戦いを見て、双方の心に何かが生まれたようです。それは目には見えない傷のようなもの」

「……なるほど」

「ライトノベルでも、そういう事ってあるでしょう?」

「詳しいんスね」

「だって神様ですから」


 笑う神様。

 事実、彼女の言う通り。

 一冊の本が誰かの人生を変える事だってある。

 心の傷とは、そういうものだ。


「戦争を止めるほどのラノベ、俺にもいつか書けるかな」

「どうでしょうね。あなたの行動は素晴らしかったですが、ライトノベルに関しては二流ですし」

「なんだと」

「だってあなたの作品、女の子も少ないし、テーマに一貫性がないし、すぐ打ち切られますし……」

「知ってんのかよ神様!」


 怖っ!

 神様って本当に何でもお見通しなんだな。

 それだけ見通せるのに、なんで世界の未来は見通せないんだよ。

 見るだけかよ神様。


「改めて、お礼申し上げます。世界を“ほんの少しだけ”救ってくださって、本当にありがとうございました」

「……別に礼を言われるような事じゃないですって」

「そうなのですか? ささやかな礼として、肉体の修復と呪いの除去をしようと思っていたのですが――」

「ぜひお願いします。ガンガンお礼して下さい」

「かしこまりました。それでは、そろそろお目覚めになってください」

「目覚め……?」

「これは夢の中の話。目が覚めた時には、全部忘れていますよ」


 なんだ、もったいない。

 せっかく神様にインタビューできたのに。


「あ、じゃあ、どうせ忘れるなら、最後にひとついいスか」

「なんでしょう?」

「面白くて売れるラノベの書き方、神様なら知ってるんじゃないですか?」

「それは――」


 神様は少し悩んだ後、こう答えてくれた。


「私にも分かりません」

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