第22話 最悪の目覚め

「んぁ……」


 目が覚めて、すぐに時計を確認する。

 一時間くらい眠っていたようだ。

 俺に覆い被さるようにして、アミューさんも熟睡している。


「おいアミューさん、起きろ」

「ンー……もっと食べル……」

「アミューさん、しっかりしろ!」


 ほっぺたをつねっても起きる気配がない。

 アミューさんの強さからして、毒などの薬物に耐性があると思っていたが、そうでもないらしい。それともあのキノコの胞子は、獣人によく効くのだろうか。

 仕方ないのでその場にアミューさんを寝かし、すぐに部屋を出る。


「誰かいないのか!? キノシタ! JK! 奧さん!」

「あら、起きたんですか」


 すぐに現れたのは、黒髪の奧さん。

 外は明るいが、眠そうにしている。そういえばディルアランでは夜行性なんだっけ。

 だが、今は眠気など関係ない。


「奧さん、キノシタとJKは?」

「ええ、さっき出発しましたよ」

「マジかよ……! キノシタは俺たちの事、何て言ってた?」

「魔王様が言うには、あなた方は今後の予定を集中して考えたいから、誰も入れるなと……まずかったでしょうか」

「あいつ本人については?」

「い、いえ、特に……『すぐ帰る』とだけ」


 本当に誰にも何も告げずに行ったのか。

 この国を捨ててあっちの世界へ帰る気なのかよ。


「あの……魔王様がどうしたんですか?」

「あんた、心配はしてないのか?」

「していません。魔王様ならダイアラン大陸に行こうとも、必ず生還してきますわ」


 ああ、そうか。奧さんはそっちの心配をしていたのか。

 敵の巣窟であるダイアラン大陸は危険がいっぱいだ。

 だから、まさかそこを抜けて、自分だけ別の世界へ行くとは考えなかったのか。

 愛する人が自分を捨てるなんて、夢にも思わなかったのか。


 そりゃそうか。

 彼女にとって、キノシタは主人公なんだ。

 主人公がヒロインを裏切る展開なんてありえない。

 そんなストーリーは彼女の中に存在しないんだ。


「キノシタは――魔王は」


 真実を言いかけて、俺は努めて明るい顔を作った。


「あの野郎、大事なモン忘れていきやがったんだよ! そいつを忘れたら、ゲートに辿り着いても意味がないんだよ! ホンットにドジだよなー!」


 嘘は言っていない。

 大事なモンを忘れていったのは事実だから。


「まぁ、それじゃ追いかけないと」

「ああ、すぐにでも追いたい。だけどダイアラン大陸はあんた達にとって危険な場所だ。だから俺とアミューさんだけで行く。できるだけ速い移動手段が欲しい」

「そう言われましても……召喚魔法で呼び出したモンスターは、本人でないと操れないんです。あなたが召喚魔法を使えれば話は別ですが――あ、でも……」


 何かを思い出した奧さん。

 しかしすぐに首を横に振る。


「いえ、それはダメだわ。危険すぎる」

「何でもいい。教えてくれ。手段があるなら、すぐにでも使いたい」

「ですが、召喚魔法より危険です」

「いいから! 頼むよ! キノシタが危ないんだ!」


 気がつけば奧さんの肩に手を置き、顔を近づけていた。

 そんな俺の顔は彼女にどう映ったのか。

 いいや、気にしている場合ではない。本当にキノシタとJKと、この国のピンチなんだ。時間がないんだよ。


「……召喚魔法で呼び出したモンスターは使えません」

「それはさっき聞いた」

「ですが、召喚魔法で呼び出していない者なら……つまり、野生の動物を操れればいいんです」

「馬か? 馬なら乗れるけど、大陸を超えるとなると」

「はい。高速で海を渡れる生き物が、ディルアラン大陸にいます。もしもそれを手懐けて操る事ができれば、もしかしたら」

「なるほど……さすがディルアランだ。珍しい生き物がいっぱいいるんだな」


 絶対に操れないモンスターよりは、まだ可能性があるってわけか。

 動物の懐柔テイムか。

 昔、動物ものを書いた時に少し習ったことがあるが、俺はどうも動物に好かれない体質らしい。犬、猫、ウサギ、虫、あらゆる生き物に噛まれた経験があるぞ。


懐柔テイムなら任せテ!」


 バーン、と扉を開いて現れたのはアミューさん。


「絶対に追いついてみせるヨ! キノシタもJKも守るヨ!」

「アミューさん……!」

「動物を操る方法なら、ウチの部族に伝わる秘術がいっぱいあるヨ! どんな獣でも、大抵はなんとかなるハズだヨ!」

「おお、頼もしいぜ!」


 獣人族には俺が知らない特殊な技がいっぱいありそうだ。

 やっぱりガイドさん、頼りになるぅ!


「じゃあ奧さん、その生き物の住処を教えてくれないか? すぐに手懐けて、海を渡ってくるからよ」

「ええと、本当に大丈夫ですか?」

「大丈夫だって! アミューさんを信じろ!」

「は、はい……それでしたら、この城からもっとも近い生息地ですと、このあたりになるのですが……」


 奧さんが地図の一部分を指し示す。

 なんだ、割と近い場所にあるんだな。

 これは山かな? それとも森かな?


「その山は昔からドラゴンの生息地でして。野生のドラゴンがたくさんいるんです」

「……ドラゴン?」

「ええ」

「ドラゴンって、あの鱗があって火を噴いたりする、あのドラゴン?」

「はい」


 俺はアミューさんを見る。

 誰とも視線を合わせようとしない。


「アミューさん、いけるよな?」

「……えっと、ほら、ドラゴンは獣じゃないジャナイ?」

「時間がないんだ。行くぞアミューさん」

「ちょっと待っテ! 私、獣しか懐柔テイムできないヨ! 無理無理無理ッ!」

「無理でもなんとかしてもらうぞ。ガイドの意地、見せてもらおうか」

「ヒィーッ!」


 他に手段がないのだったら、こうするしかない。

 逆に考えれば、まだ手段が残されているんだ。その幸運を喜ぶべきだろう。

 竜を殺すのではなく、手懐ける。

 ラノベ作家としては、面白い展開じゃないか。

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