第17話 全てを許される存在

 世話になったベルゲル将軍に何度も礼を言って、俺たちは彼の家を後にした。

 ベルゲルの子供がアミューさんとの別れを惜しんで泣いていたが、すまないお嬢ちゃん、彼女はウチのガイドなのだ。

 この仕事が終わったら、また会う機会もあるさ。


 しんみりした別れの後、キノシタの城へと向かう。

 馬車――いや、なんだか良く分からない、触手の生えたジャガイモの化け物みたいな生物が引いている車に乗って移動する事になった。

 このジャガイモみたいな化け物はディルアランでは割とよく見る家畜で、これの良し悪しで持ち主の格が分かるらしい。道中、こちらを見ている人が何人かいたが、きっと高級車を見るような感覚なのだろう。

 そんなジャガイモの背中から見るダーケスティア国の風景は、よくあるディストピアだ。

 家の前にはガイコツが並び、木から死体がぶらさげられ、道ばたで家畜を解体し、その血を道路にぶちまけている。


「なぁキノシタ。宗教的なものはともかく、衛生面は大丈夫なのか?」

「大丈夫です。死体から発せられるウィルス類や、それを分解するバクテリアがあっちの世界と違うんですよ」

「ほーん」


 そんな俺の心配をよそに、予防接種を受けていないJKはスマホで周囲の写真を撮りまくっている。俺はともかく、女の子のスマホに入ってたらマズいだろ……。


「さ、着きましたよ先輩」


 触手ジャガイモが運んでくれたのは、ダーケスティアの中心である魔王城。

 素材的に当然なのだが、石で作られている。さすがに人骨や魔界植物で作られている事はないか。中に人間が住んでるんだもんな。

 外観もダイアランと変わらない……というか中世ヨーロッパの建築方式だ。

 改めて思うのが、機能性を重視すればダイアランもディルアランも変わらないデザインになるようだ。外側は同じでも、中身で大きな差が付く。食べ物や乗り物、そしてこの建築物もそうだ。

 やはりどちらも、同じ人間が作ればそうなるんだな。


 多分、ライトノベルを書かせても同じだろう。

 趣味の違いはあれど、起承転結ははっきりした、人間にとって読みやすい物語が生まれるはずだ。


「ワー……本当に私も入っていいノ?」

「どうぞどうぞ。先輩のご友人はみんな招待しますよ」

「ワーイ!」


 嬉しそうに城に入っていくアミューさん。

 そうか、俺たちにとっては珍しくない城でも、この世界に住んでいる人にとっては非常に価値がある場所なのだ。

 アミューさんの立場で言うなら、外国の首相官邸みたいなものだよな。

 そりゃ入れると聞けば喜ぶだろう。しかもガイドの仕事をしているなら、案内の糧にもなるはずだ。


「ヤッター! ガイド仲間に自慢できるヨ! 魔王城なんてフツーの人は入れないんだヨ!」

「そりゃそうだろうなぁ。ダイアランでも同じだろうけど」

「センセーのガイドしてて良かったヨ! ありがとネ!」

「そりゃこっちの台詞だよ。アミューさんには迷惑かけっぱなしだからな」


 言ってみれば、後輩の家に連れて行っただけだ。

 それだけでこんなに喜んでくれるなら、こちらとしても申し訳ないくらいだ。

 さて、その後輩はというと――


「お帰りなさい、魔王様!」


 城門をくぐった時点で、三人の女性が駆け寄ってきた。

 そして一番背の高い、金髪の女性がキノシタをタックルするように抱きしめる。

 彼女に続いて、黒髪の女性、赤髪の女性が次々にキノシタにタックルした。

 全員、二〇代に届くか届かないか――とにかく美人だ。

 そして巨乳だ。

 F……いや、Gか。

 合計六つの巨乳に挟まれながら、キノシタは女性を抱きしめ返す。


「…………」

「なに、せんせー」

「いや、なんでもない」


 JKから目を逸らす。

 比べるのはいくらなんでも酷だ。


「ただいま。今日はお客さんを連れてきたよ」

「あら、そうなの?」


 そこで初めて彼女たちは俺たちを見る。


「どうも初めまして。私達、魔王様の妻です」

「ど、どうも……」


 金髪に握手を求められ、俺は優しく握り返す。

 おお……近づいただけでイイ匂いがする。どんな香水使ってるんだ。

 ベルゲルの奧さんも美人だったけど、この三人は別格だ。ダイアランにもこんな美人はいなかったぞ。

 いやアミューさんも美人だし、JKも小さくて可愛いと思う。だけど本当にレベルが違う。まるでCGのように整っているんだ。


「先輩、とりあえず中に入りましょう。ここじゃ話もしにくいでしょう」

「ああ、そうだな」

「今日は泊まってってください。城ですから、部屋はいくつもありますし」

「マジか。魔王城に宿泊なんて、楽しそうじゃねーか」

「何年も暮らしてると慣れますけどね、さ、君たちも行こうか」


 キノシタが妻達を城内へ促す。

 大げさに手を振り、中へ案内しようとすると――


「きゃっ」


 キノシタの手が金髪の胸にあたる。

 ぽよん、という擬音がふさわしいくらい大きく揺れていた。


「んもう、魔王様ったら」

「ハハハ、ごめんごめん。さあ行こう」

「はい」


 金髪の肩を組んで歩き出すキノシタ。


「おい、ちょっと待てキノシタ」

「どうしました先輩?」

「なんでお前、オッパイに触ってんのに許されてるんだ?」

「えっ?」

「だってオッパイに触るって、もの凄く失礼な行為だろ? なんで笑って許されてるんだよ」

「いや、それは……だって、僕の妻ですよ?」


 言っている意味が分からない。

 それになんだアイツ。他の妻ともやけに距離が近くないか。

 日本人のパーソナルスペース(心理的縄張り)って、五〇センチから一二〇センチくらいが平均だったはずだが。


「おいJK。アイツの言ってる事が分かるか?」

「分かるけど……」


 それにちょっと手を伸ばしたくらいで胸に触れるって、どんだけ巨乳なんだよ。

 JKを見ろ。このように、今のキノシタと同じように手を伸ばしても、服の前を手が通り抜けるだけじゃないか。


「何やってんだよアンタ……!」

「おお、すまん、ちょっとハーレムについての勉強と考察をしていた」

「小さくて悪かったな……!」

「待てJK。これはハーレムを形成する女性たちの身体的特徴を比べただけで、別にお前がハーレムに向いているとかそういう意味じゃ」

「そんなに触りたかったら、触ればいいだろっ!」


 JKが俺の手を掴み、強引に移動させる。

 その行き先は、アミューさんの胸。

 柔らかい感触。

 昔、高速道路で窓の外に手を伸ばした時と同じだ。


「アッハッハッハ、ダメだヨセンセー! エッチなのは料金に入ってないヨ!」


 視界が回転した。

 地面に引き倒され、ダイアラン大陸に伝わる古流格闘術の関節技を極められる。


「ア、アミュさ、アミューさん、なにこれ、痛、すみません、痛いっす! お願いしま、手、手だけは勘弁してください! すみません、手だけは!」


 な、フツーはこうなるんだよ。

 なんでキノシタは関節技かけられねぇんだよ。

 アミューさんすいません、本当に許してください。

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