第317話 決戦に向けて

 一年以上前の崖崩れにより陸の孤島状態だった奥宇奈谷村。


 前田拓也は現代の工具を持ち込み、現地の青年集団「狩人集」の協力もあって隧道        (トンネル)を貫通させ、その村までの行き来を安全にした上、歩く距離も大幅に短縮させた。


 狩人集のリーダーはハグレという通り名の青年で、その正体は長老の息子である睦月だった。

 隧道事業には、松丸藩の助成もあったために、村を代表して長老の娘である如月、皐月の姉妹、そして二人の兄である睦月が藩主に謁見し、前田拓也の根回しもあって、現状の報告と御礼を述べるという願いを成就させた。


 その結果、松丸藩は奥宇奈谷に対するさらなる助成を約束し、今後、彼、彼女らと村の未来は明るいものになると思われた。


 三人は一度阿東藩にも寄って前田拓也の家族に会った後、今回の成果と土産話を持って奥宇奈谷に帰っていた。


 しかし、途中の川上村で盗賊団「山黒爺」の一派の襲撃を受け、三人が泊まっていた宿屋は全焼、睦月はおびき出された上で盗賊達に囲まれ、辛くも脱出したものの、崖から転落して負傷してしまう。


 如月、皐月の姉妹は、いとこで宿屋の娼婦だった弥生の機転でなんとか難を逃れるも、二人を守ったその弥生が、男達に身を差し出し、慰みものにされるところを見てしまう。

 そのショックで男性恐怖症になってしまった二人。

 弥生自身は娼婦だったこともあり、それほど気にはしていなかったが、まだ男性経験がない如月、皐月姉妹の精神的な落ち込みを心配していた。


「山黒爺」はその後もゲリラ的に周辺の村に出没、若き首領のシナドを中心に、やりたい放題の状態が続いていたが、それらは実は全て牽制であり、シナドの狙いは奥宇奈谷の陥落にあった。


「山黒爺」の傍若無人な振る舞い、そして弥生、如月、皐月達の心痛に怒りを覚えた前田拓也は、ついに「山黒爺」との対決を宣言する。


 その言葉に、ハグレ (睦月)、その幼なじみで右腕のクロウという名の青年も呼応する。

 しかし、「クロウ」には何か隠し事があることに、ハグレは気付いていた。


 また、睦月は拓也に話を切り出す。

「如月と、皐月の事で話したいことがある」と――。

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