第300話 デートの誘い?
奥宇奈谷に塩を持ち込んだこと、如月や皐月とある程度打ち解けたこと、そして彼女たちや長老の「人となりを見極める能力?」のようなもので、俺は善人、しかもこの村に利益をもたらす仙人と思われたようだった。
それにより、俺は重要な客人として扱われることとなった。
「貧しい村ですので、あまりおもてなしはできませんが……」
と言いながら、蕎麦の塊と山菜を煮込んだような郷土料理でもてなしてくれた。
その味はというと……正直、微妙だった。
「お口に合いませんか?」
と如月に尋ねられ、
「いや、とてもおいしいよ」
というと、悲しそうな目で見られてしまった。
そうか、彼女はウソが見抜けられるんだった……なんかやりにくい。
「いや、本当に、たとえばこの蕎麦を使った団子だけど、ふわっと蕎麦自体の香りが口の中に広がって、凄く新鮮に感じたんだ。ただ、俺の住んでいるところでは、もっと濃い味付けが普通だから、それに慣れている身としては、少々薄味に感じるっていうか……」
「えっ……そうなのですね。久しぶりにお塩が手に入ったから、かなり多めに塩を使ったつもりだったんですが……」
そうか、この村の人にとっては、これでも濃い味付けだったんだ。
あらためて、塩の偉大さを思い知った。
次に出されたのは、ヤマメの塩焼きだ。
これも申し訳程度に塩が振られていたのだが、俺がもっと塩を持ち込むから、遠慮なく使えばいいと言うと、俺をもてなすために、さらに塩をつけて焼いてくれた。
そしてこの塩焼きは新鮮な天然物の川魚。文句なくおいしかったので素直にそう言うと、今度は彼女たちも安堵の笑顔を浮かべてくれた。
さっきの郷土料理も、塩をもっと入れて食べてみると、素朴ながら奥深い味わいで、楽しむことができた。
すっかり打ち解け、楽しくなった俺に、他になにか望むことはないか、と長老が聞いてきたので、この村のことをもっとよく知りたいから、いろいろと案内して欲しい、と申し出た。
すると、如月が案内してくれるということになった。
妹の皐月は留守番。
つまり、俺と如月が二人っきりで村のあちこちを訪れることになるわけで……。
少し戸惑ったが、彼女はその理由を把握したのか、
「大丈夫ですよ。この村の人たちには、もうあなたの噂は広まっています。でも、私が二人で並んで歩けば、それだけで信用のおける人だと分かってもらえるはずですから」
と、笑顔で説明してくれた。
つまり……それは、彼女自身が、この村の人に信頼されているということになる。
ある程度、人の心が読める。
この村の、長老の娘。
実は彼女、この村においては、かなり重要というか、ひょっとしたら神聖視されている娘なんじゃないか……そんなふうに思い至った。
そしてその俺の考えは、当たっていた。
この村は、平家の落ち武者達の末裔が住んでいるという。
そしてその昔、その落ち武者達に守られて、かなり高貴な身分の者も逃げ延びてきていたらしいのだ。
その血を受け継いでいるのが、この長老の家系だった。
まあ、そうはいってもこの集落自体、先祖をたどっていけば、どこかしらで血は混じっている遠い親戚同士らしいのだが、そこは本家筋というやつだ。
そして後から知ることになるのだが、その血筋故に、守らないといけないしきたりも数多くある、不自由な身分なのだということだった。
そんなことはまだ知らない俺は、如月達の提案を受け入れて、彼女にこの村の案内をお願いすることにした。
早朝からこの村を訪れたこともあって、まだ日は高い。
俺と如月の、村内デート? が始まったのだった――。
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