第287話 山賊対策
「いや、しかし……海賊と、山賊では根本から対処方法が異なってきます。海賊は、見通しの良い遠距離からの攻撃が可能だったのでなんとかなったんです。しかしいきなり目の前に現れる山賊ならば対抗のしようがない」
「……なるほど、仙術での攻撃というのは、ある程度距離がないと有効には働かない、ということだな」
彼の反応に、自分がうっかり失言したことに気付いた。
安親殿は単に身分が高いと言うだけではなく、頭も切れる。
「……まあ、そういうことです。それだけじゃあない。例えば、隠れたところからこっそり鉄砲で撃たれたりすれば即、死につながります」
目の前にいきなり現れてくれるだけならまだいい。ラプターによる緊急脱出で逃れればいいのだから。しかし、いきなり撃たれたり、弓で射貫かれたりすれば、それすらもかなわない。
「いや、さすがに山賊が鉄砲を使ったという話を聞いた事はない。松丸藩では一切鉄砲を許可していないから持ち込まれることもない。それに、基本的に山賊は身ぐるみ剥ぐだけで、命までは取りはしない。そこまですれば、本当に誰も山道を通らなくなるからな……まあ、抵抗しなければの話だが」
なんか、そんな話は聞いた事があったような気がした。
山賊に出会ったら、運が悪かったと諦めて金や荷物を渡して、そこを通してもらう商人がいる。
出会わなかったら丸儲け、出会っても命までは取られない。
だからこそ、商人は通り続けるし、山賊も生き延び続けられる。
いきなり殺してしまおうが、脅して身ぐるみ剥がそうが、山賊からすれば得られる利益は同じなのだ。ならば、また次回も商人に来てもらえるよう、生かしておくのが得策だろう。
もっとも、それが若い女性ならばその限りではなく、だからこそ通ったりはしないのだろうが……。
俺は、考える時間が欲しい旨を伝えて、残りの時間はもう一度宴に戻って、その日を終えた。
そして翌日の早朝、前田邸に戻り、安親殿との会談の内容を伝えて、孤立した村の様子を探りに行こうと思っている旨を嫁達に伝えた。
もちろん、彼女たちは心配はしてくれたが、止めようとする者はいなかった。
「拓也さんは、そういうお方だとみんな分かっていますからね」
凜が笑顔でそう言ってくれる。
「……ひょっとして、その村には若い娘がいるとか言われたんじゃあないのか?」
と、カンの鋭いナツには見抜かれ、呆れられたが……まあ、それも含めて俺なんだと、みんな知ってくれている。
山賊の話もしたが、安親殿に言われたように、いきなり襲われてケガをしたりするようなことは無いと理論立てて話し、やはり心配されたものの、ある切り札を連れて行くことで、なんとか納得してもらった。
その切り札とは、三郎さん……ではない。
歩けば最低三日はかかるという山奥、しかも道が寸断されているのだ。
ラプターの地点登録を繰り返して、少しずつ先に進んでいくつもりだ。重量制限がある以上、三郎さんと一緒に時空間移動することはできない。
もちろん、三郎さん一人をその場に残して行くこともできないし。
とはいえ、俺だけで山道を歩き、いきなり山賊に包囲されるような事態は避けたい。
緊急脱出できるとはいえ、ラプターによる時空間移動も、あんまりその瞬間を他人に見せたくないのだ。
そこで今回の切り札……番犬ポチの登場となる。
この犬は、顔見知り以外、特に男の気配を感じると、けたたましく吠える。
こいつを連れて山道を歩けば、俺一人のときよりはるかに山賊を見つけてくれるだろう。
しかも、時空間移動の重量制限も余裕でクリアできる。
まあ、これだけ科学技術が発達している現代のどんなセンサー類よりも、ポチの方が有能というのは、嬉しいような、負けた気分になるような……。
そんなこんなで準備を整えた俺は、安親殿に依頼を受けると伝えて、旅に出ることにした。
なお、もちろん報酬も約束されている。
それは、『奥宇奈谷』の住民とある程度自由に商売ができる権利だ。
良質の砂鉄が産出されるこの村では、優れた刀剣の製作技術が発達しているらしいのだ。
なぜそんな山奥で、こんな技術が必要だったのか、この時はまだ、俺は深く考えていなかったのだが……。
こうして、盟友である東元安親殿にうまく乗せられて? 俺は新しい冒険に旅立つ事になったのだった。
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