第243話 一目惚れ?
お梅さんは、徹さんや登さんから、
「この子の事をよろしくお願いします」
と挨拶を受け、
「寮長としてしっかりお守りしますね」
と返して、薰を連れて一旦女子寮に戻っていく。
建物はすぐ隣なのだが、俺も送って行くといって、二人についていった。
こころなしか、薰が嬉しそうにしていると感じた。
そして女子二人が寮に入るとき、俺も一緒にお梅さんの部屋に行くことになった。
それに驚いたのは、薰だった。
「ここ、男は入れないんじゃなかったのか?」
もっともな質問だ。
「ええ、基本的にはそうなんですけど、拓也さんは例外。……って言っても、私か、お鈴さんっていう、今は副寮長をしてくれている人と、大抵一緒なのだけどね……これは私を含む女子寮の居住者が、全員一致で了承している事よ。あなたは反対?」
「……いや、まあ、拓也さんだけ特別っていうのが決まりなら、構わないけど……」
「お梅さん、そんな風に言われたら、新しくはいる娘は反対できないよ。大丈夫。俺だって滅多に入らないよ」
「……そうか? だったら、どうして今日は入ってきたんだ?」
薰はいぶかしげにそう言った。
「えっと、それは……お梅さんの気まぐれ?」
「違いますよ! 新しく入ったんだから、部屋割りとか考えないといけないでしょう? それに、どんな仕事をしてもらうか、拓也さんと一緒に決めないと」
「仕事……そうだな、世話になるんだから、なにか仕事はしないといけないな」
薰は真面目な表情になった。意外と責任感が強いようだ。
「ま、そういうことだから……とりあえず、奥から三番目の部屋が空いているから、そこで寝泊まりするようになるわね。さっき紹介したお静に手伝ってもらって、まずは部屋の掃除からしてちょうだい。仕事については、後で呼ぶからその時に話すわ」
「はい、分かりました!」
薰はそう返事をすると、後で見ていたお静と共に、早速掃除に取りかかるようだった。
そうしてようやく、俺は一番奥のお梅の部屋へと案内された。
そこには、彼女と同室で、彼女の妹の桐が立って待っていた。
「お久しぶりです、拓也さん。会えて嬉しいです!」
と、頭を下げる。
この娘も、なかなか真面目でしっかりした女の子だ。満年齢でいえば、十九歳か二十歳になったころだったと思う。
一通り挨拶が終わったところで、座って三人で、他の娘に聞かれないように小声で話す。
「めずらしいね、お梅さんがそんなに慎重になるなんて……なにかあったのかい?」
「ええ、ちょっと気になる事があって……あの子、薰なんだけど……やたらと拓也さんのことを知りたがるの」
「えっ……俺の事を?」
「そう。女好きって本当か、とか、金に物を言わせて、何人も妾を囲っているとか……この女子寮も、本当に怪しげな施設じゃないのか、とか……」
「ははっ、さんざんな評価だな……でも、他の藩には、俺ってそんな風に、女好きの金の亡者のように伝わっているらしいから、それはしょうが無いんじゃないかな」
「ええ、まあ、でもそれは、私とか、桐とか、他の女の子が、そんなことないよって笑いながら説明したら、納得っていうか、安心したみたいなんだけど……今度は、仙人って本当か、とか、何人もいるお嫁さんってどんな人達なのか、とか……私達が困惑するほど、タクヤさんの事を知りたがって。……ひょっとして、拓也さんに一目惚れしたのかしら?」
「まさか。だって薰は、ずっと男として育てられてきたんだよ。急に、それも俺なんかに、女として一目惚れするなんてあり得ない」
「そうかしら? でも、女の子の服を着せたり、お化粧しているときも、照れて嫌そうにしながら、でも、とっても嬉しそうにしていましたよ」
「……嬉しそうに?」
俺が意外に思ってそう言うと、その会話に桐が入ってくる。
「そう、私もそう思いました。何人もの女の子達に囲まれて、最初は凄く照れて、嫌そうにしていましたけど、みんなから可愛いって褒められて、すごく真剣に鏡を見て……服を着替えて、化粧を終えて、最後に鏡を見たときなんか、何度も私達に、『変じゃないよな?』とか、確認してて……嬉しそうに微笑んで、泣きそうになりながら、みんなにお礼を言っていましたよ!」
そのセリフにお梅さんが頷く。
「……私、思うんですけど、あの娘、多分、本当はずっと女として見て欲しいって思ってたんじゃないでしょうか。でも、今まで、そんな機会がなかった。その待ち望んでいた機会がようやく来た。そんな気がします」
「……なるほどな。うーん、女心って微妙なんだな……」
「そうですよ。……それで、えっと、最初の話に戻るんですけど……ひょっとしたらあの娘、やっぱり最初から拓也さん目当てだった……そんなことないでしょうか?」
「……へっ? さっきの一目惚れっていう話?」
「いいえ、そうではなく……ひょっとしたら、もっと前から」
「もっと前? だって、俺達は今日出会ったばっかりで……」
そこに、桐が前傾姿勢で割り込んできた。
「でも、拓也さんの噂は前から聞いていたみたいですし。その噂だけで、憧れていたとか……」
「いや……さっきも言っただろう? 俺の評判は、他藩では悪いはずなんだけどな……」
俺も、お梅さんと桐の二人も、薰の真意が分からず、頭を捻るばかりだった。
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