第227話 涼との絆(後編)

「君とは、縁があって、今こうやって一緒にいる。君が藩主の娘だったことも含めて、そうなる運命だったって思っているよ。他の女の子達だってそうだ。知っていると思うけど、俺が偶然見かけて、いろいろあって、一緒に住むようになったのがそもそもの発端だった。みんな凄く良い子で、仲良くなって……俺なんかと、ずっと一緒に居たいって言ってくれた。普通ならそんなの無理だけど、藩主様から特例っていう形にしてもらって……それって、縁があったからこそできたことだと思うんだ」


「……そうですね、皆さん、本当に綺麗で、可愛くて、拓也さんをお慕いしていて……拓也さんにそういう人徳があるからこそ、だと思います。それで、私も惹かれて……」


 そこまで言ったところで、涼は恥ずかしそうに下を向いてしまった。


 ……可愛い。

 こんな可愛い、高貴な身分の女の子と混浴している……。


 涼は、今の俺にとって、なくてはならない存在となっている。

 藩主の娘という地位と、教養の高さ。


 今の俺は、阿東藩主様とその側近、さらには隣の松丸藩筆頭家老の長男、東元安親殿とも親交がある。

 全国を旅するご老公様とも面識があるし、藩内の三大商人の一人に数えられるまでになっていて、阿東藩を訪れる大商人や上級役人など、いわゆる重要人物から、ひっきりなしに面会を求められるようになってきているのだ。


 仙界での修行があるから、という理由で断ることがほとんどなのだが(これは、現代においては高校に通わなければいけないのでウソではない)、中には断ると失礼に当たる事例が出てくるかもしれない。


 そんなとき、藩主の娘である涼が対応してくれると非常に助かる。

 こればっかりは他の嫁達では荷が重い。

 もちろん、それが彼女を嫁に迎える理由ではないのだが、結果として阿東藩全体に大きな利益をもたらす可能性があるのだ。


 あるいは、藩主様はそこまで見越して、この縁談を奨めてくれたのかもしれない。


 それにしても……涼は、そんな身分の高さを、決してひけらかしたりしない、素直で本当にいい子だ。

 ただの町娘にすぎない他の嫁達を、対等に……いや、自分の方から後から来たのだから、と、遠慮すらしている様に見受けられる。


 だからこそ、彼女たちに受け入れられ、今こうして一緒にいられるのだ。

 よほど心が綺麗なのか、あるいは天然なのか……。


「……拓也さん……」


「うん?」


「……ちょっとのぼせてきたみたいです……」


「あ、ああ、ごめん、もう出ようか……」


 俺は上半身を湯船の外に出していて半身浴状態だったけど、彼女は恥ずかしさからか、肩まで使っていたので、そうなってしまったようだ。


 ちょっとふらつきながら歩く彼女を支えるように、俺は肩を抱いて浴室を出た。

 涼は、バスタオルで体を拭き、白い襦袢だけを纏って、一番奥の寝室へと向かう。


 俺は浴衣を着て、その隣を歩く……それだけで鼓動が普段の倍以上になっているのが分かる。

 そして俺たちは、同じ床に入った。


 肩が、触れ合っている。

 そして、今から一つになる――。


「涼……本当に、俺の嫁になるのでいいのか?」


 最後の確認をする。


「はい……不束者ふつつかものですが、末永く、よろしくお願い申し上げます……」


 丁寧な挨拶だった。

 ひょっとしたら、この時のために、何度も練習したのかもしれない。


 彼女にとっては、男性と過ごす、本当に初めての夜。

 緊張しているだろうし、怯えているだろう。

 ここは無理をせず、優しく、怖がらないようにリードしてあげなければ……。


「……あの、もう少しだけ、明るくしてもらっていいですか?」


 ……へっ?


 意外と積極的だな、と思って、その通りにすると……。


「……男の人って、胸板が厚くて、固いんですね……」


「腕も、足も太くて、逞しいですね……」


「……えっ、ここって……こんなふうになるんですか?」


 ……忘れてた……彼女は、藩主の娘なんていう身分の前に、好奇心旺盛で、ちょっと天然な、普通の女の子だったのだ。


 なんか、俺の方が恥ずかしいぐらいだ……。


 けれど、少しずつ行為が進んで行くにつれ、次第に彼女も恥ずかしがり……そして最終的には、俺に全てを委ねた――。


 結果としてその夜は、事前に考えていたよりも緊張することなく、楽しく……それでいて、感動できる、彼女と二人だけの特別な時間を過ごすことができたのだった。

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