第301話 5秒与えるらしいです

 朱色のオーラを纏う雄一が精霊王目掛けて飛び出す。


 それに目を見開いた精霊王は雄一に狙いを付けて掌を翳す。それに気付いた雄一がノーブレーキ―で真横に移動を始めるのにも対応して笑みを浮かべる。


「先程と比べて格段に速くなってるけど、まだ対応できる速度よ!」


 そう言って閃光を雄一に放ち、直撃した、ように見えたが透過して、後ろに残っていた柱に直撃して爆発が起きる。


「どういう事!?」

「こういう事だ」


 耳元から雄一の声が聞こえたので慌てて振り返ると体を撓らせてヘッドバットしてくる雄一の姿があった。


 モロに雄一のヘッドバットを受けた精霊王は視界に火花が散り、その場で膝を着く。


 額を押さえながら見上げる精霊王の視線の先には無表情な顔をする雄一の姿があった。


「何をどうしたの? 確実に捉えたと思ったら真横にいる!?」

「気当たりの応用で偽者のご主人を目で追いかけておっただけじゃ。本物のご主人が見えんかったのは歩法で視点からずらして分からないようにされてただけじゃな」

「だから、さっきも言った。加護の力だけで戦っていない。ユウイチにとって加護は武器の一つ」


 動揺する精霊王を鼻で笑う巴と淡々と先程と似たような説明をするエリーゼ。


 2人の説明が信じられない、信じたくない精霊王は後方に飛び、距離を取ると無数の炎の矢を生み出す。


 だが、しかし、集中の為に一瞬閉じたその僅かな間で炎の矢と精霊王の間に雄一の姿があった。


 精霊王を見下ろす雄一が精霊王の顔のを掴むように手を翳す。


 目を細めるのが合図だったかのように雄一の掌から衝撃波が放たれて、精霊王は悲鳴も上げられずに地面に叩きつけられるように倒された後、滑るように転がり、柱にぶつかって止まる。


 震える手で立ち上がる精霊王が顔を上げた先には悠然と歩く雄一の姿があり、それを睨みつける。


 立ち上がるや否や、雄一の姿から目を離さずに再び、炎の矢を生み出すと高速で放ち始める。

 それに同じように水の矢で応戦する雄一に吼える精霊王。


「ま、まさか、封じられても勝てる算段があって乗り込んできたの!? でも、乗り込むと決めたのはポロネの封印が解かれたのがキッカケで乗り込む事になったはずなのに、そんな事を事前調査していたようには……」

「ユウイチは精霊界で精霊王に加護を封じられる可能性は前々から知っていたわよ?」


 レンが言うあっさり具合に唇を震わせて「どうして!?」と言ってくる精霊王に肩を竦める。


「ユウイチは以前に色々、調べて加護を封印しようとしてた時期があるらしいの」


 そう言うとレンは精霊王からホーエンに視線を向けるとホーエンは頷いてくる。


 ホーエンの反応に満足したレンは、


「あの子、アクアに聞いただけなんで、少し不安だったけど、解くきっかけになったホーエンが保障してくれたから本当よ。封印されると知ってたのにやってきた。これが貴方の計算違いの2つ目よ」


 封印される事を知っていて来たという意味を正しく理解した精霊王を雄叫びを上げながら炎の矢の弾幕を激しくしていく。


 放った炎の矢が水の矢の数が凌駕すると一面、水蒸気で視界が塞がれる。


 打ち勝った後も叫び続ける精霊王は無防備にも魔力を高め始め、両手を突き出して集中を始めた。


 無防備に構える精霊王の目の前の煙から雄一が飛び出してくると突き出すようにあった手を掴まれる。


 掴んだ手をバットに見立ててスイングして投げ飛ばす。


 投げた先が柱の密集地で精霊王は柱を何本も破壊し、破壊に耐えた柱に凭れるようにして荒い息を吐く。


「加護の力がないコイツに勝てない?」


 震える膝に手を置く中腰の状態で逃げ出したい衝動と戦う、後ろをやたらと気にし出す精霊王に雄一は口を開く。


「降伏しろ。精霊王の名を宣言した後にワビ付きでな?」

「なっ!!」


 驚愕な表情を見せる精霊王であったが、驚くのは無理はない。雄一が言うような降伏の仕方をすれば、無条件降伏、貴方には一生逆らいません、と言っているのと同義であるからであった。


「精霊王である私が何故、そんな辱めを受けないと!!」


 叫んで肩で息をする精霊王を悲しそうに見つめる雄一に代わってリューリカが話しかける。


「お主の思いなど、どうでも良いが、辱めを受ける理由は充分じゃろう?」

「リューリカ! 一方的にそちらから契約解除をしてきたけど、こちらが承認していない以上、仮であって私も貴方達の主人でもあるのよ?」


 そう言う精霊王は雄一から自分を守れ、と無茶な命令をしてくる。


 呆れた顔を同じ精霊獣のレン達を見つめた後、リューリカが精霊王に渋々といった感じで言ってくる。


「じゃ、3つ目の計算違いを教えてやるのじゃ。お主が封じたのは精霊の加護、つまりアクアの加護じゃ。神の加護、シホーヌの力を封じた訳じゃないという事は?」

「まさ、まさか……」


 雄一に投げ飛ばされて生まれた長い距離の先でゆっくりと歩く雄一の姿を見つめて大きく驚く。


 雄一の右目が金色に輝き、オーラも金色に変わっていたからだ。


 神の加護を使える事に今頃気づいた精霊王は、加護なしの雄一にやりたい放題にされ始めている事に激しく絶望を感じる。


「精霊王ちゃん、それだけじゃないよ? 神と精霊の力は一般的には混じり合わないし、反発し合うのは知ってるよね? それがどういう意味かというと……基本的にどっちの力も同格という事になるんだけど……正しく理解できた?」


 首を横に振る精霊王はアイナが言う事が本当に理解できないのか、理解したくないのか、が分からない。


 だが……


「いや……いやぁ、いやぁぁぁぁ!!!!」


 精霊王が見つめる先にいる雄一の金色のオーラが大きくなっていくと精霊界全体が揺さぶられる。


 雄一を覆う金色のオーラが明滅を始める。点灯が激しくなるにつれ、見慣れたオーラが混じるようになっていった。


「当然、加護なしで精霊王を追い詰めるユウイチちゃんが神の加護を使ったら、下地の差もあり、精霊王ちゃん? どうなると思う?」

「有り得ない、有ってはいけないわ!!」


 イエローグリーンライトのオーラが精霊王の瞳に映る。


 震える精霊王に雄一が淡々と言ってくる。


「もう一度だけ言う。降伏しろ。精霊王の名を宣言した後にワビ付きでな? 5秒だけ時間をやろう」

「ど、どうして私がいう事を聞かないといけないか分からない!」


 ヒステリックに叫ぶ精霊王を見つめながら立ち竦む。



 『一』



 特大の火球を生み出すと雄一目掛けて放つが雄一が纏うオーラだけで弾かれた。



 『二』



「貴方達にどう思われようと構わないけど、この騒ぎで開かれた門に集まってきた他の精霊もこれを注目している。中途半端できないわ。だから、私は貴方達に詫びを入れる気なんてない!」


 離れた場所に立つ雄一に駆け寄りながら掌に火球を生み出し圧縮する。



 『三』



 カウントダウンしている雄一にゼロ距離から撃ち放つ。


 爆煙が起こり、精霊王も煙に巻きこまれて先が見えない状態に関わらず、煙を吹き飛ばそうとする力強さを肌で感じて膝が激しく笑い、立ってられなくなり膝を着いてしまう。



 『四』



「……」


 涙と鼻水で酷い事になってる精霊王は瞳孔の開いた目で虚ろに雄一を見つめて、危ない息遣いをしていた。


 そんな精霊王を見つめる雄一の目が細くなるとビクッと体を震わせると虚ろな目に意思が戻ると体中ガタガタ震わせながら、ゆっくりと平伏していく。



 『五』



「わ、私、精霊王、あ、アラートは悔しくてぇ、水の精霊のアクアを虐めちゃっいましたぁ!! ごめんなさいぃぃ、いくらでも謝るし、勿論、精霊王を辞めるから許してぇ……あーんあーん」


 恐怖から子供返りしたのか、精霊王の仮面を剥ぐとこうなのか分からないが、精霊王は空を仰ぐようにして醜態を晒しながら声の限り泣き続ける。


 それを見つめる雄一が安堵の溜息を吐くようにするとイエローグリーンライトのオーラが掻き消えるように消え、いつもの雄一に戻る。


 精霊王を見つめながら雄一が言った言葉を聞いたポプリは顔を青くして自分のお尻を庇うようにし、それに気付いたミレーヌがイヤラシイ笑みを浮かべる。


「尻叩き百回だ。先に言っておくが俺は手加減が下手だ、覚悟しておけ」


 男の顔から父親の顔になる雄一がカンフー服の袖を捲るのを見た精霊王が本日、暫定一位の大泣きを見せる。


 勿論、本日最大の大泣きはこの後に記録された事は言うまでもなかった。

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