第299話 6年越しの真実らしいです
門が開かれた先の空と評していいか分からないが、門に入る前の所よりも星の煌めきが強くなっていた。
目の前には長い階段だけあり、階段の先は山の頂ぐらいの高さの所にパルテノン神殿を彷彿させるモノが見える。
それを見つめている雄一にリューリカが近寄ってくる。
「まあ、説明の必要はないと思うだろうが、あそこに精霊王がおるのじゃ。後、飛んで行こうとはせんようにしたほうがいい」
「どうしてだ?」
「周りに見える場所は何もない空間に見えるけど、見えない壁みたいなのがあるの。ユウイチちゃんは勿論、無視して突っ込めるけど、最悪、ここの空間が破壊されて閉じ込められるかもしれないから無駄に危険を買うのはお勧めできないかな~」
久しぶりに頑張って疲れたと雄一の腕に抱き付いて寝ようと試みるアイナであったが、後ろにいたエリーゼがアイナの頭に爪を立てる。
「寝るな、まだ仕事残ってる」
「イタタ、大事で柔らかい部分だから優しくっ!!」
抱き付いていた手を離して、頭を掴むエリーゼの手を押さえにかかるアイナ。
それを後ろで聞いてたミレーヌが眉を寄せて溜息を吐く。
「となるとあの長い階段を登るしかないのですね……」
「そうですね、お年を召されているので、お辛いようでしたらここでお待ちになられたら?」
ミレーヌの言葉に本当に心配そうな表情だけして声音は楽しげなポプリと睨み合いが始まる。
苦笑いを浮かべる雄一が間に入りながら困った風に言う。
「さすがにここに置いて行くのは危ないしな……おぶっていくか?」
「ユウイチ様、ここはおぶるより、抱っこ推奨です!」
キラキラと瞳を輝かすミレーヌに噛みつくポプリのじゃれ合いのような喧嘩がまた始まり、困る雄一を眺めていたホーエンが思い出したように掌を叩く。
そして、胸元からハンカチのようなモノを取り出し、雄一達の前に放り投げるとハンカチが大きくなり、人が3人ぐらい乗れる大きさになり空中にプカプカと浮く。
驚いて、それを見つめる雄一達にホーエンが説明する。
「これはアグートが俺に何かあって飛べなくなる事態に陥った時の為に持たせてくれたモノだ。これに乗るといい」
「ホーエン! これは貴方の為に用意したものよ!?」
拗ねるアグートを宥めるホーエンに半眼のミレーヌが頭を下げて言ってくる。
「有難うございます、ホーエン様。ですが、出すのは私が抱っこされて5分後に出して欲しかったですわ」
「えっと……そのぉ、すまん?」
ミレーヌに謝らされながらも首を傾げるホーエンを見て、雄一とリューリカは顔を見合わせて笑みを浮かべる。
雄一が出会った頃のホーエンなら、ミレーヌの言うような事を言われたらキレていただろうと分かるので、角が取れたホーエンの変化を喜んだ。
「じゃ、行きましょうか?」
レンの言葉に頷く雄一はポプリにも乗るように勧めた後、長い階段を昇り始めた。
階段を登ってる最中に前々から聞きたかった事をレンにぶつけた。
「なぁ、レン。アクアがここ最近、何度か精霊王と会ってたというのは本当か?」
「どこから聞いたの?」
眉を寄せるレンに後ろにいたホーエンが「俺は話した」と伝えるのを聞いて情報の入手経路がアグートと知ると諦めたかのように溜息を吐く。
「知られてるのにシラを切ってもしょうがないわね……そうよ、何度か面会を果たしているわ。でも、何を話に行ったかは知らないわよ?」
「果たしてる? それなのに何度も会ってるんだ? それに普通は会うのも大変と先程聞いた。家の者に聞く限り、丸1日、家を空けたという話は聞いてないが?」
雄一の言葉を聞いていたアグートも「そう何度も会いに行ってすぐに会えるのはおかしい」と地団太を踏む。
ジッとレンを見つめる雄一に困った風に溜息を吐くレンは肩を竦める。
「何の話をしてるか本当に知らないけど、確かに珍しいとは私も思うわよ? ただ、何度も会えているようだけど、上手くいってる様子はなかったわ」
そう言ってくるレンの言葉を受けて雄一はこの事をシホーヌとアクアに問い詰めた時の反応から芳しくない雰囲気を感じてたので否定する気はないがほとんど進展は無いに等しい。
だが、精霊王に質問する内容に正式に加える事にした。
「この事もそうだが、精霊王には確認したい事が他にも前からあるからな……」
雄一はそう呟くと精霊王がいると思われる神殿を睨みつけるように見つめた。
▼
神殿に着いた雄一達は神殿に入っていく。
中に入ると吹き抜けのように広い場所の中央に赤髪の女性が目を瞑って手を前で組んでる。
キトン、古代ギリシャ人の女性に良く見られた格好をする、その女性はアグートを大人に、もしくは、姉のように見える容貌をしていた。
「アグートに似てるな?」
見つめるホーエンがそういうとリューリカが答える。
「言葉が正確じゃないのじゃ。アグートが精霊王に似ておる。今代の精霊王は元、火の精霊じゃからな?」
なるほど、と思う雄一は、精霊王に歩いて近寄りながら疑問を口にする。
「精霊王というから男かと思ってたが違ったな」
「精霊には女しか発現しないわ。精霊王というのは、精霊の長となった時に他の四大精霊を転生させるから、父扱いされてるのよ」
他にも女しかいないのに、男か女か説明する必要がないから区別する理由がないらしい。
レンの説明で納得する雄一であったが、近寄る最中にも反応らしい反応をしない精霊王が、リューリカが、今代の精霊王、とフレーズを口にした一瞬、眉が跳ね上がるのを見逃さなかった。
それにより生まれた疑問を口にしようとしてた雄一が精霊王まで10mぐらいの距離に来た時に精霊王から警告を発される。
「停まりなさい、雑種の汚らわしい人の雄よ」
言われた通りにとりあえず停まる雄一だが、いきなりの物言いに少し面喰う。
当の本人はその程度の反応だが、四大精霊獣であるリューリカ達からは剣呑な気配が立ち登らせる。それに気付いた雄一は笑みを浮かべて自分は気にしてないと伝える。
膨れ上がりそうになっていたリューリカ達の力は収束するように抑えられていくが、怒りと嫌悪を隠さずに緊張する精霊王を睨みつける。
ミレーヌとポプリも言葉の真意は分からなくとも雄一を罵倒されたのは理解できていたので眉を寄せていた。
自分の事をそんなに反応してくれるのは嬉しくもあり、困ったとばかりに肩を竦める雄一が張り詰めた空気が落ち着いた事に安堵してるらしい精霊王に話しかける。
「嘘を言ってるとは言わんが、かなり悪意を感じる言い方をしてきたな?」
「当然でしょう? 礼を失した方法で入ってくる者にはこれで充分です」
否定し辛い雄一は苦笑するが黙ってなかったのはリューリカであった。
「こちらは暇じゃないのじゃ、のらりくらりされたら堪ったものじゃないのじゃ」
「それはポロネの封印が解けた事を言ってるのですか?」
「知ってたんだな?」
雄一に確認された精霊王は「当然です」とあっさりと認めるのを聞いて雄一の目が細められる。
それに気付いてない精霊王は続ける。
「ポロネの封印が解けた所から知ってます。なんという国でしたか……港がある国に、というより土の宝玉に引き寄せられるように飛ぶ所までは確認してますよ。その後は興味を失くしたので知りません」
「興味を失くしたじゃと! ポロネを放置したらどうなるかは、わらわ達、四大精霊獣は勿論、お主、精霊王も良く知っておるじゃろう!!」
激昂するリューリカが叫ぶが、他の3人も似たような反応をしていた。
今の話を聞いていたミレーヌとポプリが、「今回の元凶はペーシア王国のどこかのようです」と口にすると、それについての対策を考え込むのを横目に見つめる雄一は精霊王が続ける話に耳を傾ける。
「勿論、知っています。このまま進行すれば、人間界に大きなダメージがあり、多少は精霊界にも影響はあるでしょう。だから、どうしたというのです? 放っておいても貴方達、四大精霊獣が始末するでしょう? 初代精霊王、水の精霊の愛し子を?」
楽しそうに笑う精霊王に詰め寄ろうとしたリューリカ達であったが、口を閉ざして振り返り、雄一を見たと同時に雄一の後ろへと引き下がる。
四大精霊獣の行動に眉を寄せる精霊王に雄一が口を開く。
「前々から会ったら聞こうと思ってた事がいくつかある」
「どうして、私が人の質問に答えないといけない?」
ジッと見つめる雄一が「答えたくないなら答えなくてもいい」と言う雄一から言い知れない恐怖を感じた精霊王が生唾を飲み込む。
「まずは、何故、アグートが好き勝手してたのを静観していた? 魔剣や魔道兵器をばら撒いてるのを放置した? 俺が聞いた限り、信者数などの競う習慣が生まれたのはアンタの代からだ何が狙いだ?」
答えるものか、という意思を感じさせるような口の閉じ方をしていた精霊王だったが雄一の瞳が一瞬だけ細めただけで短い悲鳴を上げた後、口を開く。
「人がどれほど傷つこうが知った事ではありません。競うといいますが、実際に信者数が精霊の格を決めているのは事実です」
「自分の言ってる言葉が矛盾してる事ぐらい気付けよ?」
どういう事だ? と聞きたそうにしてるのを無視する雄一は続ける。
「アクアがこのところ、ここに顔を出してるはずだ、何の話をしてた?」
「自分の質問ばかり……ふんっ、来てたわね、アンタの所の双子を助ける為に力を貸して欲しい、と言ってきたわね?」
その時の事を思い出し始めて楽しげに笑い出す。
「説明しようとするのを片っ端から邪魔して困るあの子の顔は面白かったわぁ。聞いてくれと平伏すあの子、最高だったわよ?」
楽しげに笑う精霊王にレンが溜息を吐きながら話しかける。
「精霊王?」
「何? 自分のとこの精霊が馬鹿にされて文句言いたいの?」
小馬鹿にするように見つめる精霊王だったが、レンは無気力な表情のまま首を横に振る。
「昔から思ってたけど貴方は本当に愚かね? 触れてはいけない逆鱗を2つ同時に触れたわよ?」
「な、何を言って……」
レンに問いかけようとした瞬間、先程まで向けていた側、雄一がいる場所から無視できない存在感が膨れ上がる。
無視する胆力のない精霊王が慌てて顔を向けると俯いてこちらを見てない雄一に強い圧力を感じて呼吸がし辛くなる。
「つまり、アグートを見逃し、俺を引き寄せる為に子供達に危害を加えようとした事にもペナルティを与えなかったのは水の精霊であるアクアが絡んでたからか?」
「そうだったら、ど、どうしたという……」
最後まで言わせずに雄一が続ける。
「過去にリューリカ達が理解できない災害を起こさせたのは……」
「そうよ! 水の精霊を受け入れよう、信仰しようとする流れが見えた時にさせたわ、それが何よ!!」
逆に雄一が質問を終える前にせつかれるように叫んで答える精霊王。
それを聞いたリューリカ達が口を開こうとする気配に気づいた雄一が片手を横に広げるだけで黙らせる。
「俺はずっと疑問だった。アクアは寂しがりだ。初め会った時にアクアが説明したような理由で信者がいなかろうが、あのモンスターしかいない場所にずっといる事に」
「ふ、ふふふっ、あの泉にいたあの子が寂しさを紛らわすように「お魚さん? 今日もお元気ですか?」と語りかけてるのを見て、お腹抱えて笑ったわ!」
自分が感じてるモノを否定するように捲し立てるように話す精霊王の言葉と同時に雄一の足下の石畳に亀裂が入る。
それを見たホーエンがアグート、それとミレーヌとポプリに下がるように指示をして雄一と3人の間に立つ。
リューリカ達は精霊王を軽蔑した目を向けて歯を食い縛る。
目を伏せたままの雄一が絞り出すように言葉を紡ぐ。
「アイツは、自分が信仰されようが、精霊と認知されようがどうでもいいと考える奴だ」
実際にみんなに認知されようとする行動は取るが失敗に終わって拗ねるだけで、すぐにケロッとして気にしてないアクアを見てきている。
「そんなアイツが、人里に下りてこないのが不思議でしょうがなかった。そうか、それが理由か、だから、アイツはあんな寂しい場所で耐え、あんな寂しそうな瞳をしてたのか……」
拳を握り締める雄一は、初めて会った時に雄一がそう感じた事は間違いではなかった事を今、はっきりと認識した。
だが、それと同時にアクアは精霊王の嫌がらせなどがあっても乗り越えてくれると信じさせられた自分が誇らしく感じ、口の端が上がるが、すぐに真一文字に結ぶ。
「とってもいい気味でし……」
「黙れ」
短くそう言う言葉に沢山の思いを込める雄一に強制的に黙らされる精霊王。
雄一の体から一気に膨れ上がるイエローグリーンライトのオーラは竜巻、いや、台風のように巻き上がり、神殿の天井を吹き飛ばす。
そんな雄一の余波を受けるのをアグート、ミレーヌとポプリの分を一身に受けるホーエンは片腕で顔を覆うようにして必死に耐える。
同じように踏ん張るリューリカ達であったが、口許は嬉しげに微笑んでいる。
「もう、お前は口を開かなくていい。アクアを馬鹿にしていいのは俺の身内だけだ。お前は悲鳴だけを上げ続けろ」
目を瞑りながら溢れる想いが零れるように口から吐き出す言葉。
雄一の脳裏に浮かぶ、緩そうに笑うシホーヌとアクアの顔。
普段はくだらない事で甘えようとしたり、情けない事を言う駄目な2人。
「肝心な所は甘え下手な奴等だ……」
一瞬だけ優しげな笑みを口許に浮かべるがすぐに消える。
顔を上げる雄一の瞳は父親ではなく、男の瞳をしていた。
腹に力が籠る声を精霊王に叩きつける。
「甘いアイツに代わり、俺が何千年のツケを払わせてやる!!」
雄一の啖呵に反応するように生み出されたイエローグリーンライトのオーラの力は更に凶悪に唸りを上げ始めた。
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