第264話 勝負は持ち越しにらしいです

 城門前の戦場から離れた雄一は、雄一のオーラで作られた壁を未だに破壊できずに突撃を繰り返すサイに似たモンスターを一刀で屠り、壁の内側へと侵入する。


 中に侵入してきた雄一に中にいた大型モンスターの意識が集中する。


 地面にいる先程のサイのようなモノから、エリマキトカゲのようなモノなどが一斉に雄一に特攻してくる。


 くだらないモノを見るような目をする雄一は、


「馬鹿だな。俺が張った壁を攻略できないのに張ってる俺が中に入ってくる意味が理解できないあたり知能がないモンスターか?」

「くふふっ、どうやら、そうでもないようじゃぞ? どうも統率する者がおるようじゃ。ほれ、あそこじゃ」


 巴にそう言われた雄一はキセルが示す方向に視線を向けると上空で100頭近くのドラゴンに守られた、自分はボスです! と誇示してるような周りのドラゴンより二廻り大きな銀色のドラゴンがいた。


「ふむ、どうやら巴の言う通りぽい、なっ!」


 最後の言葉で前方で駆け寄るモンスター達に巴の一振りから生まれた衝撃波で吹っ飛ばされる。


 衝撃波を放った結果を気にせずに上空に飛び出した雄一は、何もない空中につま先だし立ちをするように着地すると氷上を滑るように進む。


 進み、近寄ってくる雄一に威嚇するように吼える銀色のドラゴンに目で威嚇して黙らせる。


 ひるむ様子を見せたがボスの矜持なのか保身なのか分からないが周りのドラゴン達に吼えるとドラゴン達が雄一に襲いかかる。


 それに口の端を上げる笑みを浮かべる雄一は、イエローライトグリーンのオーラを強めに放出させると無防備にドラゴン達の中心を通る。


 100頭はいると思われるドラゴンの一斉のブレスが雄一を襲う。


 生まれる大爆発に銀色のドラゴンが馬鹿にするように鼻息を荒くするが、すぐに目を見開く事になる。


 進むスピードがそのままの無傷の雄一が爆発の中から変わらぬ笑みを浮かべながら登場した為である。


「悪い。お前等、もっと強いかと思って無駄にオーラで防御しちまった」


 あっけらかんと言う雄一に恐れを感じたのか、ゆっくりと後退を始めるドラゴン達。


「かっかか、どうやら言語は理解できる程度の知能があるドラゴンじゃったようじゃが、敵に回したらいかん相手を見抜く目も頭もない低能のようじゃな」


 未だに雄一のオーラは大型モンスターを抑える為に壁として使われている状態である。


 そんな雄一にすら傷を負わせられないドラゴン達に勝ち目などない。


 絶対的な実力差を感じたドラゴン達は今更ながら逃亡を計ろうとするが、逃げ道も雄一のオーラに阻まれて逃げる事ができない。


 ドラゴン達の必死な壁の攻略を横目に雄一は、銀色のドラゴンの前に到着する。


 明らかに怯えているが、プライドだけは高いようで必死に雄一を睨むが目力が余りになかった。


「おい、トカゲ。話せるなら最後に会話のキャッチボールぐらいしてやろうか?」

「舐めるなよ、人間。少し強いぐらいで我と対等だと思う愚か者め。我、この世界にある12ある門を守る者、十二階位バーストドラゴン、名を……」

「名など聞きとうないのじゃ。12ある門の十二階位とはつまり最弱ということじゃろ? まあ、所詮、『ホウライ』という三下に顎で使われる弱者じゃのぉ」


 巴はキセルを咥えて、小さな両手で拍手しながら、ケラケラと雄一の肩の上で体を揺すりながら笑う。


 どうやら、巴の言った事が真実だったようでバーストドラゴンが唸り声を上げる。


 腕組みをして巴とのやり取りを眺めていた雄一は、唸り声が煩いな、と思いつつ、自分が通った場所のドラゴンはどんなのだろう、と関係のない事を考えていた。


「ふざけるなっ! 我と『ホウライ』は対等の契約に則って、クペッ……」

「つまり三下って自分で認めてどうするよ、お強いドラゴン様?」


 余りに馬鹿馬鹿しい事を自信満々に話すバーストドラゴンが鬱陶しくなった雄一はジャンボジェットサイズある体を一刀で魂まで真っ二つにする。


 真っ二つにされて絶命したバーストドラゴンが地面に落ちていくのを気負いない様子で見送る雄一。


 平静でいられなかったのは統率されてた側のモンスターであった。


 ボスの不在ぐらいであれば良かったのだろうが、一刀で簡単に屠られた事実を理解してしまったのが無駄に知能があるレベルのモンスターの不幸であった。


 雄一から一歩でも遠ざかる為に逃亡を計るが、上空のドラゴン達と同じで壁を攻略できないのに必死に体当たりを繰り返す。


 今まで長い時間かけて出来なかった事ができないのは当然の結果であった。


「さて、そろそろ終わらせるか?」

「そうじゃのぉ、どうするつもりじゃ、ご主人?」


 伺うように覗き込む巴に笑みを返す雄一は掌を叩きつけるようにして合掌すると目を瞑る。


 目を瞑る雄一から雄一が作ったオーラの壁へと魔力が流れていく。


 それを気のない素振りで眺めていた巴がある事に気付き慌て出す。


「ご、ご主人、それは不味いのじゃ!」


 止める言葉を放つが、既に雄一は行動を起こした後で、巴を見つめて首を傾げる。


 オーラで出来た壁の形状が変わり、ランスのようになると一斉にモンスターに襲いかかる。


 雄一に見事に制御されたランスは一匹も逃さずにモンスターを串刺しにしていった。


 そして、1000はいたと思われるモンスター達は壊滅する。


 その様子を見た巴が嘆きの溜息を零す。


「どうした? 制御に余裕を残して、確実に仕留める自信があったから実行したんだが、巴はできないと思ったのか?」

「逆じゃ、できると思ったから止めたのじゃ。これだけのモンスターを壊滅させたら、ザガンの冒険者達の稼ぎは当分見込めんじゃろうーな?」


 もう既に烏合の衆と化していたので多少は見逃しても問題はなかった事を巴に指摘されて、それを失念していた事に気付く雄一。


 やらかしたと頭を掻く雄一は巴に相談する。


「どうしたらいい?」

「そういう話をわっちに振るな。こういうのは、あのエルフや商人の管轄じゃろ?」

「アイツ等に頼むのって、スゲー嫌なんだが?」


 ブツブツ文句を言う雄一に苦笑いする巴は紫煙を一吹きすると上空を見つめて目を細める。


「まだ終わった訳じゃないのじゃ。来たぞ、ご主人」

「ああ、分かってる」


 雄一も巴と同じ方向に顔を向けると険しい目付きで見上げる。


 見上げる2人に話しかける者が現れる。


「今回は私の完敗だ」

「今回もだろ? 今までお前の企みは潰してきたつもりだが?」


 『ホウライ』の言葉をサクッと切り返す雄一は肩を竦める。


 沈黙する『ホウライ』に雄一が問いかける。


「これだけ阻止されても諦めない理由はなんだ!」

「何故、神である私がお前の質問に……まあいい、双子の娘の片割れ、アリアを寄こせ。そうすれば、この世界には手を出さん」


 そう言われた瞬間、雄一の目付きが変わる。


 雄一の変化に左肩に座る巴が怯える。巴が感じた事がない程の雄一の怒気が漏れ出したからだ。


 怒りが頂点を突破したせいか逆に頭が冷えて冷静になった雄一の思考が加速する。


 何故、アリアを世界の壁を越えてまで欲しがる?


 酔狂だとしても、一応、神を名乗る『ホウライ』が求める……


 そこまで考えに行き着いた時、アリアを求めた存在がもう一人いた事を思い出す。


 『ホウライ』を見上げる雄一が呟くように洩らす。


「剣か……」

「ほう、知っていたか。ならば話が早い。そう言う事だからアリアを寄こせ、顔立ちが一緒のレイアは置いていってやる」


 そう『ホウライ』が言った瞬間、巴が「ヒィ!」と短い悲鳴を上げるほどの怒気で噴き出した雄一のイエローライトグリーンのオーラが天に届かんばかりに上がる。


 大地が鳴動し、大気まで震えた。


 雄一の瞳はオッドアイの金と青の輝きが激しく煌めき、世界の壁に守られた『ホウライ』が過呼吸を起こしたように荒い息を洩らす。


「今、なんて言った? アリアとレイアを物扱いにしたように聞こえたが? 剣だ? 鞘だ? ふざけるなよ、あの2人は、あの双子ちゃんは、俺の目に入れても痛くない可愛い、可愛い娘だ、上等こき過ぎだぞ、クソ神」


 抑揚のない声で淡々と語る雄一の言葉は何もこもってようで、こもり過ぎて空虚に感じさせる。


 そして、天まで伸びた雄一のオーラが収束するように巴に吸い込まれていく。


 それと共に大地の鳴動も落ち着いていくが、巴を取り巻くイエローライトグリーンの風が凶悪な力を発していた。


 左手を『ホウライ』がに目掛けてき出すようにして、左手を発射台に見立て、巴を添える。


 それに射竦められた『ホウライ』が、情けない声で「待て」と言ってくる。


 巴を持つ右手を引き絞り、力が放たれると思った瞬間、巴に込められいた力が霧散する。


「気が変わった」

「ご、ご主人!?」


 いつもの雄一の瞳に戻ったのに驚きつつも安堵の溜息を洩らす巴。


 乾いた笑いを洩らす『ホウライ』が虚勢を張るように言ってくる。


「世界の壁を貫く自信がないというところか?」

「お前がこちらの世界に来るまで待つ事にする。温厚な手段を取るなら邪魔しない。あの12の門を守ってるドラゴンはいないんだ、今までのように意図的にこの世界に住む者達の恐怖を煽る方法を取らずにこれるだろ?」


 雄一は『ホウライ』の言葉を無視して話す。


 その言葉に『ホウライ』は驚きの声を洩らす。


「何故、恐怖を煽るのはワザとだと?」

「この世界に何か目的があって介入しようとしてるのは分かっていた。目的を遂行するのに告知して廻る意味はお前にはないはずだ。いくら神とて邪魔されないほうがいい」


 そこまで雄一が口にするが『ホウライ』は何も言う様子を見せずに雄一の見立てを見守る。


「俺も前回、世界の壁ごしにお前を攻撃して分かった。壁に介入するには相当な力がいる。そのおかげでお前は命拾いしたんだろうがな。俺の感覚が正しいなら、お前の単体の力だけで壁を破壊しようとした場合、破壊し終えた時にはアリアはもう生きてないだろうな」


 つまり『ホウライ』の力だけでは5年、10年では壁に穴を開けられない。


「そこで、異世界者をこの世界に招く。適当な力を与えて好き勝手に生きさせたら、この世界の住人は勿論、この世界そのものを傷つけていく。この世界の力を弱める事になる。しかも、その異世界人はお前には従順だろう、好き勝手生きれてる理由だからな。世界を壊す手伝いと知らずに色々やるだろう」


 まだ黙ったままの『ホウライ』に指を突き付けて雄一は言い放つ。


「そして、これが最大の理由だ。お前の力の源は恐怖、負の感情だろう? 残念だったな、ペーシア王国の崩落は阻止させて貰う」

「くっくく、当て推量もあるのだろうが、そこまで気付かれていて惚ける意味はないな。で、どうしたいというのだ、半神半精のユウイチよ」


 『ホウライ』と睨み合うように上空を見つめる雄一は巴を翳す。


 するとおもむろに地面を斬り裂くように境界線を描く。


「俺はお前とは交わらない、平行線だ。お前のツラを拝んでから、その存在を消してやる」

「ふっ、面白い。では、お前と私の境界線が限りなく近寄る時、勝敗を喫しよう お前の恐怖を喰らえるのを楽しみにしている」


 そう言うと『ホウライ』の気配が遠くになっていくのが分かる。


 離れていく『ホウライ』を見つめる雄一は心の底からの言葉を洩らす。


「俺の娘を持っていく気なら俺を倒してからだ。それが嫁にくれ、という理由でもな!」


 それを雄一の左肩で聞いていた巴は色んな意味で大きな溜息を零した。

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