第259話 適用外らしいです

 雄一が生み出したイエローライトグリーンのオーラの壁に向かって手を翳す恵は時空魔法を発動させる。


 だが、恵の力が干渉しようとすると逆に飲み込まれるようにして消されてるように見えた。だが、僅かなりに削り取る事に成功していた。


 削れてるといっても富士山を手で削るような滑稽な状況であったが……


「むぅ、まさか、ここまで力の差があるとは計算外だ。後は、この娘に我が力を注いで暴走させた一撃で穴を空けれるか試すぐらいしかないが……」


 そう呟くのは姿なき『ホウライ』だが、別に恵の体を心配して言葉を濁した訳ではない。

 最悪、暴走させても空かなくても打てる手は打つという思いは『ホウライ』にはあった。


 だが、いざ力を注ごうとした時、恵の力を制限させる為に放たれて纏っている雄一のオーラに弾かれて力が込められない。


 恵単体の力で暴走を引き起こそうという手もあるが、『ホウライ』が来るまでに使った力と『ホウライ』が恵に使わせた力、そして、一番大きいのは雄一のオーラによって消耗させられた恵にそんな余力はなかった。


 こうやって考えている時間も雄一のオーラに消耗させられていっていた。


 黙考する『ホウライ』に声をかける声がイエローライトグリーンのオーラから聞こえてくる。


「ざまあねぇーな? 大口叩いて、これだけの数を揃えて俺一人の力に抗えないのか?」

「そんな器用な事もできるのか、半神半精の、ユウイチといったか? お前こそ、私に話しかける余裕があるのか? 視えるぞ、土の邪精霊獣の猛攻を受けているだろう?」


 確かに『ホウライ』が言うように雄一が置かれている状況は悪く、『ホウライ』の方が優位に見えるが、雄一の声に悲壮感はない。


「なあに、マッサージを受けてるようなもんだ。それよりノンビリしていていいのか? 時間をかけたら力を拡散させる理由がなくなり、俺が動き出すがちゃんと状況を理解してるか?」

「ああ、勿論、分かっている。それまでにお前が土の邪精霊獣にくびり殺されなければな?」


 そう『ホウライ』は余裕を見せるが内心は穏やかではない。


 一見、『ホウライ』有利のように見えるが、現状、打てる手がない。ただ、無為に時間を過ごすのが目に見えていた。


 今も雄一に軽口を叩きながらも恵を覆うオーラを取り除こうとしているが、まったく干渉できずにいた。


 何か打開策がないかと必死に考えを巡らせていると、ここに向かってくる黒い大鳥の姿に気付く。


 段々、近づいて来て目視で顔が確認できる距離に来た時、『ホウライ』は含み笑いを洩らす。


 それと同時に雄一の呻き声が聞こえる。


 少年少女、6人組が黒い大鳥から降りるとエルフの少年が恵ではなく、視えないはずの『ホウライ』を指差して叫ぶ。


「それ以上はさせません! そこから離れてください!」


 その行動に『ホウライ』は少し感心した様子の声を洩らし、他の子達は恵以外にもいるのかと警戒する。


 やってきたのはアリア達であった。


「あ、アイツ等……くっ、クロがいたな……」


 雄一が呻くと先程まで揺るがぬ壁という感じだったイエローライトグリーンのオーラに揺らぎが生まれ、目敏く『ホウライ』は気付く。


「ほう、こちらのアプローチは効果がありそうだな?」


 顔が見えなくともイヤラシイ笑みを浮かべているのが手に取るように分かるような声音に雄一の声が震える。


「やめろ! お前は自分で神を名乗るような存在で8歳のガキを相手にするつもりか!」

「知っている。だが、ここはそういう場所だ。好奇心、猫を殺す。知るには格好の場所だろう?」

「ゆ、ユウイチさん!? 大丈夫なんですか?」


 精霊と交信できるダンテが雄一と『ホウライ』のやり取りが聞こえた。


 ダンテとコンタクトが取れるのが分かった雄一は慌てて告げる。


「急いで皆を連れて逃げろ! ダンテが感じている相手は神を名乗る存在だ、かなり腐ったヤツだから手加減のような事はしてこない。俺なら大丈夫だから逃げろ!」


 雄一の言葉を受けたダンテはその場にいる者達に告げると雄一の緊迫した声だったと説明するダンテの言葉を受けて相談するアリア達を無視して、ヒースが前に出る。


「ご忠告、感謝します。ですが、尚更、引けなくなりました。神のような存在がお父さんの傍にいる。自分だけでも残ります」


 その言葉を聞いたレイアが嘆息する。


「ここまで来て逃げ帰ったら来た意味ねぇーもんな? アタシも付き合う」

「それに逃げれる保証もどこにもない」


 レイアに続いてモーニングスターを抱えるアリアが繋ぐ。


 他の面子もやる気になった事を知った雄一が舌打ちする。


「ああ、勿論、逃がしたりしない。やっと打開できるチャンスだからな。恵、双子の片割れ……くっ、そんな細かい指示はできないか。双子の命だけは奪わずにいたぶるように他のガキ共を殺せ」


 そう言うと「ホウライ』は本当に逃がさないように雄一を見習うようにアリア達をスッポリと覆うようにドーム状の結界を生み出し閉じ込めた。





 『精霊の揺り籠』最下層で土の邪精霊獣に土柱を放たれ続ける雄一は焦っていた。


「言い出したら聞かない性格がこんな時に悪さしたな……」

「さすがに打つ手なしじゃ、ご主人」


 必死に考えを巡らせる雄一とアリア達の命を諦めた巴は顔を見合わせる。


 捻り出すように雄一が息を吐き出すのを見た巴は雄一が何かを決断した事を知る。


 僅かに雄一を覆っていたオーラが消失した。


 それに気付いた巴が絶句して見上げる雄一は巴の本体の青竜刀を握る手の位置に頭を持ってくると歯を食い縛る。


「ご、ご主人、まさか!」

「ああ、『ホウライ』が生み出した壁を破壊した。逃げるにしろ、戦うにしてもあるとアリア達が不利だからな?」


 土の邪精霊獣の土柱を生身で受ける雄一の体に小さな裂傷が生まれていき、血が流れ始める。


「わっちが言いたいのはそういう事じゃないのじゃ。すぐにどこの力でも良い、自分に戻すのじゃ……ご主人が死んでしまう!!」

「大丈夫だ、俺には奥の手がある!」


 屈むような体勢になってる雄一は巴を覗き込むような感じで獰猛な笑みを浮かべる。


「そ、そんなのある訳ないのじゃ」

「ある! お父さんマジシリーズ『お父さんマジやせ我慢!』がな!」

「そんなの奥の手でもなんでもないのじゃぁ!!!」


 目尻に涙を浮かべる巴は雄一の太い両足を可愛らしい握り拳でポクポクと叩く。


 そんな巴に笑いかける雄一は話しを逸らすように笑みを深く浮かべる。


「だってよぉ、あのレイアに初めて、ミュウ達以外に大事にできる友達が出来たんだ。ノースランドに娘がいたのは初耳だが、中性的な感じな子というのがレイアらしくて、女の子同士仲良く……」

「何を言っておるんじゃ? ヒースは男じゃ」


 巴が放った言葉の後、沈黙が支配する。ただ、土の邪精霊獣による土柱が雄一の肉を打つ音だけが響く。


「えっ…………?」

「じゃから、ヒースは男じゃ。遠目に見れば女に見えなくもないが」


 目を点にする雄一がフリーズする。


 どうやら土の邪精霊獣の攻撃の痛みなど感じてないようだ。


 ゆっくりと再起動を開始する雄一は口をワナワナさせていく。


「れ、レイアァァ!?」


 ついにお互いの齟齬で勘違いして、すれ違っていた事実を雄一が知る。


 どうやら、これには『お父さんマジやせ我慢』の効果適用外のようであった。

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