第256話 テツ、運命と交差するようです

 テツは徹が跳躍によって同時に現れるかのような動きを見、そして、超加速をする為に宙に浮くのを見た時、こう思った。


 僕も似たような事ができるじゃないか? と


 そう思い付いた時、徹のような真似をする為に連続、同時にこなす方法を頭で組み立てた瞬間、雄一の言葉を思い出した。


 テツが雄一のように一撃で倒せる男になりたいと言った時に、お前は俺ではない、と言われて再確認できたはずだった。


 そう、連続で攻撃するスタイル、手数で勝負するという事を理解したはずなのにと思い出す。


 ただ、ガムシャラに手数で押せばいいという話じゃない。


 だから、雄一はテツの事をこう評したのだから。



「テツ、お前は水であり、風だ。水のように流れに乗って動け。風と共に動くのではなく、お前が通った道を後から付いてくるんだ」



 水のように淀みなく動き、風に追いかけらるようにして動く。


 ただ早く動けば良い訳ではない。


 風を切る音を周りに感じさせない動き、歩法の先の動き、以前、ホーラ相手に見せた雄一の動きを実践しなくてはならない。


 テツはそれを思い出しながら、蜃気楼を生み出しながら啓太に真剣に斬りかかりながらも笑みが浮かぶ。


 4年前、まだ鍛えられ始めたあの時に既に雄一はテツの未来像を捉え、教え導いてくれてた事が嬉しくてしょうがなかったのだ。


 また1つ壁を超えた事で近くなるかと思った雄一の背中は更に遠くに感じる。


 今まで見ていたのは、今、テツが作る蜃気楼のようなものだった事を知る自分がショックを受けてない事を意外に思っている。


 それでも、まだまだ追いかけるべく背中がある、見失ってない事だけが嬉しくてしょうがない。


「ユウイチさん! 僕は貴方が視た未来像に追い付いてきてますかっ!」


 その言葉と同時に啓太を覆う壁を破壊した感触がテツのツーハンデッドソードを通して伝わる。


 テツは、遊ばない、と意を決して啓太に斬りかかろうとするが、啓太を中心に激しい光が生まれて飲み込まれ、一瞬、視界が真っ白になるがすぐに真っ暗になる。


 真っ暗になると体の感覚がなくなり、今まで自分を包んでいた熱さ、熱量が奪われていくのを実感する。


「あれ? 何も見えない。動かない」


 そうテツは言ったつもりだが、声になったかどうかも分からない。


 本能的に自分が死にそうになってる事を感じ取る。


「嫌だ! やっとユウイチさんが今まで教えてくれてた事が形になり始めた時に僕はまだ死ねない、死ぬわけにはいかない!」


 動け、動け、と念じるように自分の体と認識が甘くなっているモノへと叱咤するがまったく効果を感じない。


 自分の無力感に泣きそうに成りかけた時、テツの前に誰かがいる事に気付く。


 最初に見えたのは、草でできた靴、テツは初めて見るモノだが草履である。


 視線を上げていくと赤い袴が見え、スタイルの良い体を覆うように白い装飾を着ている黒髪を赤いリボンでポニーテールにするテツより2歳ほど年上に見える少女が立っていた。


 テツを見つめる少女は子犬のような愛らしさが愛嬌を感じさせる明るい笑みを浮かべている。美しいというより可愛らしい少女だった。


「クスクス、あらまあ、あの程度の相手にやられるなんて、ウチの見立て違いだったんですかねぇ~?」


 見た目は愛らしくとも、中身までは愛らしい訳じゃないようだ。


 それは姉達を見てきて耐性があったテツではあったが、出会う人、出会う人、その比率が高い事にだけはショックを受けて言葉が出てこない。


 こんな所にこの黒髪の少女がいる事に疑問もショックも受けてない事をテツは自覚しているが、何故か当然な気がしていた。


 少女を見た瞬間、テツがいる、この場所はこの少女の領域だと何故か思えたからであった。


「ん~、でも、現状、君が一番、可能性があるとウチは思うんですよ~」

「何の可能性ですか?」


 テツが問い返すが、クスクスと笑うだけでテツの質問には答えてくれない。


 頬に人差し指を当てて、明後日に視線をやり、どうしようかな? という仕草をする少女。


 困った顔をするテツを放置して、勝手に何やら納得したように嬉しそうに頷く黒髪の少女。


「うん、決めた。まだ可能性だけとはいえ、可能性だけではあるけど、あるだけマシと判断しますね~」

「え、えっ?」


 まったく展開に着いて行けないテツを翻弄する黒髪の少女。


 テツに掌を向けると青い光の塊をテツに放つ。


 それがテツの体を覆うと体の感覚が戻ってくるとここでのテツが希薄になり始める。


 ここにいられる時間が終わりを迎えている事を知ったテツは慌てて少女に話しかける。


「貴方は誰なんですか? 僕が可能性とはどういう意味なんですか?」

「ウフフ、感謝してくださいね~? ウチは尽くす系なんですから~。あの銀髪のツンデレと違って先行投資ができる女なウチで良かったですねぇ~」


 意識が飛びそうになる自分を繋ぎとめるように踏ん張るテツは、せめてという思いを込めて最後の力を振り絞って問う。


「貴方の名はっ!」

「ウチの名前は梓。また会える事を祈ってますよ~」


 黒髪の少女、梓がペコリと頭を下げるのを見たと同時にテツは引っ張られる力に抗えなくなり、意識が闇に落ちた。





 次に目を覚ました瞬間は、再び、『精霊の揺り籠』の洞窟で目の前には啓太が荒い息を吐いてる姿が目に映る。


 自分を包む青いオーラを見つめて、直感的にこれが梓がくれた力だと理解した。


「お前が手繰り寄せた運命の力を見せてみろ」


 後ろから徹がそう言うのが聞こえる。


 テツは、確かにこれは運命かもしれないと感じる。


「梓さん。きっと僕は貴方に会って、今日のお礼を言いに行きます」


 突撃をする構えを取るテツの瞳には、啓太の後ろで啓太の精神が黒い何かに押さえ付けられているのが映る。


「なるほど、それが急におかしくなった元凶ですか。ならば……」


 根拠はないがテツはできると感じた。あの黒い何かを斬り裂く事が。


 力を放出したせいで、先程みたいな全方位な攻撃ができなくなったようで散発的な攻撃を放ってくる。


 先程まで不可視な攻撃だったのに、今のテツにはしっかりと見えた。


 見える攻撃に当たるようなドジなテツではない。


 フラリ、フラリと避けて啓太に近寄る。


「これで終わりです」


 テツは青いオーラを纏ったツーハンデッドソードで啓太を襲う黒い何かを一刀で斬り裂く。


 黒い何かの断末魔を聞きながら、テツは振り返り、自分を心配そうに見つめる姉達に会心の笑みを浮かべた。

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