第253話 あれ? ちょっと待ってのようです
『ホウライ』の声が消えると同時にスクリーンが消えると恵は時空魔法を発動したようでこの場から消える。
しばらくしても恵は姿を現さず、啓太もブラックドラゴンも身動きを取らなかった。
残った啓太とブラックドラゴンの動向を見ながら身構えるテツは、雄一が言っていた言葉の一部を理解したようでホーラ達に話しかける。
「ホーラ姉さん、どうしてユウイチさんが僕だけがケータさんと戦えるか言っていたか分かった気がします」
「アタイもなんとなく分かったさ。アイツの能力は視認してないと効果が発揮されないさ。だけど、厄介な事に見えない攻撃さ。それに対抗するにはカンで避けるか、視認させない以外に効果的な手段がないさ」
そういう意味ではテツだけが啓太に対する有効な手段が存在する。1つは歩法で近接で戦う事だ。後、単純な速度勝負に持ち込める事もある。
歩法はともかく動きの速さならホーラ達も負けてないように思えるが、戦い方のスタンスが優劣を分けていた。
空を飛ぶ鳥を眺めた事は大抵の人はあるだろう。飛んでる鳥の羽ばたきは見えると思う。
だが、鳥の羽ばたきを間近で見ると、とても目で追えるような速度ではなかったりする。
単純な速度勝負でもテツに劣り、距離を取っているので目で追うのは簡単な事情があった。
「でも、それだけでなんとかなるならユウイチさんはきっと止めなかった」
それを聞いていたポプリが冷静に答えられ、テツは沈黙した。
そう、テツも足りない何かが分からない。
「それでも現状、僕だけがケータさんの攻撃を直撃しない術があります。今度はさっきのように掠らせるだけの攻撃はしてこない」
「でしょうね。どれほど、理屈を捏ねようと私やホーラでは太刀打ちできないでしょう。それはそうと、こうやって話してるだけなのに攻撃してこないのでしょう?」
ポプリの疑問はテツ達の疑問でもあった。
テツ達の正面では虚ろな視線のケータがテツ達を見つめるが動きは見せてこない。
何故、動かないのかという疑問もあるが、おそらく、この辺りの理由が『ホウライ』がこの手を打つのに躊躇した理由なのだろうと推測はできた。
「こちらの作戦会議が済むまで待っててくれる有難い事さ。それで、テツがケータを押さえる、アタイ達がブラックドラゴン……いける、テツ?」
「それしか手がありませんし、やるしかありません。今更、尻込みしたとしても逃げ道はどちらかを倒さないと通れませんからね」
そう言うテツは啓太に身構え、ホーラとポプリはブラックドラゴンに身構える。
触れ合う背中の温かさに落ち着いてくる心に笑みを浮かべる3人。
「ホーラ姉さん達も普通に考えたら勝てる相手じゃないブラックドラゴンですけど頑張ってください」
「フンッ、そういう大きな口を叩くのはテファとキスしたぐらいで前後不覚にならないようになってから言うさ」
「そうそう、そんな調子だとエッチな事はできないぞ?」
気合いを入れるつもりでホーラ達の事を心配する言葉を吐いたつもりのテツが2人からの逆襲で鼻が出る勢いで噴き出す。
驚愕の表情で振り返るテツの顔を見た2人であったが、ホーラはくだらないとばかりに一瞥しただけでブラックドラゴンを見つめ、ポプリがネズミをいたぶるネコのような顔をして口を開く。
「えっ? テツ君は2人の秘密だと思ってたの? 現場を家のちっちゃい4人に目撃されて、みんな知ってるわよ?」
ポプリは、久しぶりに帰ってきた初日、お風呂に入ってる時に聞いたと言われ、ショックを受けるテツを楽しんで見つめる。
事実を知ったテツは、違う意味で命をかける覚悟が完了した。
最悪、ここで死ぬ事になったら自分を見つめる生温かい視線に耐える必要がないという、かなり後ろ向きな覚悟ではあったが……
「じゃ、無事に帰ったら、どうすれば前後不覚にならないか相談させてください!」
開き直ったテツが知られている以上、雄一にも話せなかった懸案事項を姉達の力で乗り越えようとドサクサに紛れようとする。
「そんなのイヤさ。アタイもまだユウにして貰ってないのに、なんで馬鹿テツの相談受けて上手くいかれたらむかつくさ?」
「そうですね、今度、ユウイチさんに実験させて貰っていい感じの方法があれば伝授しますね」
3人とも自分勝手な事を言っている事が面白くなってしまい、堪え切れずにその場で笑う。
申し合わせたかのように3人は同時に頷く。
「絶対に相談に乗って貰いますからね!」
「はぁ? 絶対に聞いてやらないさ?」
「これ以上、姉を差し置いて幸せになろうと言うならネジ切りますよ?」
こんな馬鹿なやり取りで、また明日、の約束を取り交わす。
大きく深呼吸をして呼吸を止め、一気に吐き出すようにホーラが叫ぶ。
「ゴォッ!」
その叫び声と共に3人は向き合った相手を目指して飛び出した。
▼
飛び出したホーラとポプリは散開してブラックドラゴンへのアプローチを開始する。
ホーラがポプリの魔法の詠唱の時間稼ぎ目的の牽制をパチンコで爆裂を込めた弾を弾いて注意を向けさせようとした。
なるべく、顔を狙う事で視覚と嗅覚を殺すつもりで爆裂で発生する煙覆わせようと狙いだった。
狙い通り、視界と発生した煙で嗅覚が効き難くなったようで動きを止めたブラックドラゴンにポプリが詠唱が済んだ数を目的にした小さめの火球、ダンテとは比べ物にならない大きさの物を一斉に放つ。
ぶつかった衝撃で生まれる煙、いや爆煙というべきものに包まれ、姿が見えなくなったブラックドラゴン。
「少しは堪えてるといいんだけど……ポプリ、手応えはどうさ?」
「……自信ないかな~ってブラックドラゴンの特徴が強さ的にはエンシェント級では最下位だけど、魔法防御だけは上位なんだよねぇ」
ポプリの言葉を聞いて固まるホーラの耳にブラックドラゴンの咆哮が聞こえる。
その咆哮と共に煙は晴れ、現れた姿はお世辞にも堪えている様子は確認できなかった。
ホーラ達を目掛けてブレスを吐いてくるブラックドラゴン。
ポプリは以前、テツと戦った時に使った魔法の盾の強化版を使って受け流すようにして避ける。
固まっていたホーラは初動が遅れて横飛びして避けようとするが避け切れないと判断してパチンコで爆裂を込めた弾をブレスにぶつけて生まれた衝撃を利用して範囲外に逃げる。
ついた勢いを殺すように地面を転がり、立ち上がる。
立ち上がった足でそのままポプリの胸倉を掴み上げる。
「そう言う事はもっと早く言うさ!」
「言ったところで何が変わったの? テツ君が相手してるケータって男より、ずっとマシなのよ? 両方ともテツ君に押し付ける気?」
掴まれた胸倉にある手を弾いて、ブラックドラゴンの動向を確認しながらポプリはブラックドラゴンの胴体から流れる一筋の血の跡を指差して続ける。
「まったく傷つかない訳じゃない。私達が相手にしてるのは、そういう相手。私達は良い一撃を貰えば一発退場、向こうは何発入れたらいいか分からないような相手、心が折れたら、そこで私達の負けなの、ホーラ気合いを入れる!」
「ああ、分かったさ!!」
頭を掻き毟るとホーラとポプリは終わりが見えない戦いを再開した。
▼
飛び出したテツはツーハンデッドソードを下段で構えながら歩法を意識して啓太に駆け寄る。
近寄ってくるテツに啓太は動きを見せずに攻撃を放ってくる。
攻撃している素振りも、その攻撃も見えないはずのテツがどうしてされているかと分かるのか。
啓太から放たれた攻撃が僅かなりにも掠り、体力を奪われている為であった
「クソゥ、どうして完全に誤認させられない!」
啓太に斬りかかる為に近くに寄れば寄る程、攻撃の精度が上がり、大きく体力を持っていかれる。
いくら体力馬鹿のテツでも何度も奪われ続けて平気でいれる訳がなかった。
しかも、いくら頑張っても剣が届く距離まで近寄れないテツの苛立ちが体力と共に気力も奪われていく。
「どうしたらいい、どうしたら……」
必死にテツは自分に問いかけながらも、悪戯に体力を奪われ続けた。
それから、しばらくの時が流れ、荒い息を吐きながらも一歩も好転できてないテツの心に絶望と言う暗雲が漂い始めた。
それがキッカケのように均衡が崩れ出す。
「きゃあぁぁぁ!!!」
悲鳴が聞こえて、そちらに目を向けるとホーラとポプリがブラックドラゴンの尻尾に弾かれて壁に叩きつけられるのが見えた。
叩きつけられた2人は意識こそあるようだが、消耗した体力と叩きつけられたダメージで満足に体が動かないようだ。
そんな2人に近寄るブラックドラゴンを見てテツが絶叫して反転した瞬間、啓太の攻撃が今までで一番まともに食らい、膝を着く。
震える膝を叩いて立ち上がろうとするがままならないテツは捻り出したような声で祈る。
「僕はいい。ホーラ姉さんとポプリさんを誰か、誰か助けて!」
歯を食い縛るテツの耳に風斬り音が聞こえてきて天井を見つめると天井に大きな穴ができており、その先から聞こえている事に気付く。
その穴から飛び出してきた青い長い髪を靡かせる少女がブラックドラゴンを蹴り飛ばして、たたら踏ませると遅れて飛び出してきた少年が黒い刀身の片刃刀と青い片刃刀で斬り払い、ブラックドラゴンを壁に叩きつける。
空中を蹴るようにして啓太達とは少し違う雰囲気の学生服を着る2人はホーラとポプリの前に着地する。
吹っ飛ばしたブラックドラゴンに啖呵を切るように構える2人。
「女神ノ学園一の伊達男のモテモテキング、立石 徹!」
「同じく、上弦精肉店の看板娘、上弦 ルナ! 家のコロッケはサクサク、ホクホクなの!」
肌から感じる2人の実力は、雄一を見てる時のように上限がどこにあるか分からない感覚に襲われるのに、とテツは呆けた顔で見つめる。
周りの反応などお構いなしに2人はハイタッチして胸を張ると声を揃えて叫ぶ。
「「補習と美紅とエマから逃亡して、トトランタに我ら女神ノ冒険部、推参!」」
その叫びにテツ達は目を点にさせられた。
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