第240話 製作者に会ってみたいらしいです
ダンテが生み出した巴モドキの青竜刀をゴブリンキング目指して放つ。
そのタイミングに合わせるようにミュウが先頭でその後にレイアとヒースが追従するように駆けて行く。
水でできた青竜刀は進路上のゴブリンを紙を切り裂くように飛び続ける。
それを追って走るレイアは横合いから近寄るゴブリンに拳を放つ。
「ああっ! うっとうしい!!」
「がぅ、レイア、ダメ! そんな無駄な時間使ってる余裕ない。多少、貰っても突っ切る」
「うん、ダンテが僕達が出せる速度ギリギリに調整して放ってくれてるみたいで、余裕はないよ!」
2人にそう言われたレイアは青竜刀から少し距離が出来てる事に舌打ちをして走る事に専念し出す。
青竜刀と距離が空けば空く程、レイア達に襲ってくるゴブリンは増える一方だ。
後方から水球が飛んできて、レイア達に襲いかかるゴブリン達に放たれ、牽制してくれている。運の悪いゴブリンはそれで絶命しているのもいるようだ。
ダンテの方にもゴブリンが詰め寄り、アリアとスゥが奮闘して倒す事より凌ぐ事を優先に耐えている。
「ちっ、分かったよ! ミュウ、ちんたら走ってたら抜いていくぞ!」
「レイア、それムリ。ミュウ、レイアを待ってただけ」
「いくよ、2人共!」
3人は更に加速してゴブリンキングを目指して走った。
「ダンテ……魔法を放った瞬間にゴブリンキングがいる辺りに現れた砂時計はなんだと思う?」
ゴブリンを捌きながら、アリアがダンテに質問する。
ダンテはレイア達の援護をしながら同じように砂時計を睨むように見ていた。
「嫌な予感が止まらない。もしかしたら、僕はミスリードされたのかもしれない。だとしたら、冗談抜きで製作者の性格は最悪だ!」
「あの砂時計がこのトラップとセットなら、間違いなく落ち切ったら何かあるということなの」
そう言ってくるスゥの言葉を聞いているダンテは、それはたいした問題ではないと思っていた。
だが、作戦を練る時間を与えて、あの焦らせるような手口を取るという事はセオリー通りに手を打つのが悪手にしかダンテには思えない。
わざと考える時間を与えられた事による引っかけ問題だったという嫌な疑惑が生まれたのである。
もし、製作者が最悪な性格をしているなら、まだ手を打ってるはずだ、とダンテはレイア達のフォローをしながら視線をアチラコチラに飛ばし続ける。
そんな時、精霊の警告の意思が伝わり、前方を見つめる。
見つめた先にはダンテが放った青竜刀がゴブリンキング達に迫る瞬間であったが、後、数メートルと言ったところで何かにぶつかり霧散する。
「なっ!!」
前方を走っていたレイアが驚きの声を上げた瞬間、3人は急ブレーキをかける。
その見えない何かに数字が浮き上がる。
24/80 120カウント スタート
そんな数字が浮き上がったのを見たダンテが迷わず叫ぶ。
「3人共、すぐに引き返して、作戦は失敗だ!」
ダンテの言葉を聞いたレイアとヒースは顔を見合わせて固まりかけるが、ミュウが迷いも見せずに2人の手を引くとダンテの方へと走り始める。
「迷ったら死ぬ!」
そう言うミュウの声と目が訴える言葉に背を押された2人は走り出す。
レイア達に指示を出したダンテにアリアとスゥがゴブリンを相手にしながら聞いてくる。
「どういう事なの、ダンテ!」
「これは製作者のセオリー潰しだ。ゴブリンキングの周りには結界は張られている。あの24/80、あっ、今、25になったので確信したけど、ゴブリンの討伐数がカウントされてる。横の80はきっとその数まで倒したら結界は無くなるという事だと思う」
ダンテの予想を聞いて、否定できる判断基準はない、とスゥは唇を噛み締める。
アリアは顎で砂時計とカウントダウンしていく数字を示す。
「あれはどういう意味?」
「砂時計とカウントの時間は合ってないと思う。カウントダウンの方が多分、10分以上先に0になるからね。砂時計はこの罠の解除時間上限、カウントダウンは、あくまで予想だけど、モンスターの暴走かな?」
必死にレイア達のフォローをしながら、少しでもゴブリンを仕留めようと奮闘するダンテは、なんとかカウントを27にする事に成功していた。
「暴走? どういう事……まさかなの!?」
「多分、あのジャスミンという人が起こしたあのリミッターが外された状況になるんじゃないかな? と僕は見ている」
ダンテの言葉を聞いたスゥとアリアも動きを丁寧にして、仕留められそうな相手は確実に仕留め始める。
「これだけでも最悪だと思うんだけど、これ以上はしてない人格破綻者じゃない事を祈りたいところだよ」
ダンテがそう言うのを聞いている2人は、更なる最悪なシナリオがダンテの予想にはあるという事実に身震いがしそうであった。
そんな事を話していると浅い切り傷だらけのレイア達が返ってくる。
これをこのまま放置してゴブリンキングとゴブリンクィーンとの戦いまで持ち込むのは危険と判断したダンテはアリアに指示を出す。
「アリア、10秒だけ『水牢』でゴブリンから隔離する。その間に3人の傷だけ塞いで」
「了解!」
アリアが集中する体勢に動くのを見たダンテが、掌を叩きつけて拝むようにして中腰になる。
するとダンテを中心に仲間のアリア達だけが入れる空気の玉が生まれるとその外は水で覆われて、そこにいたゴブリンと飛び込んだゴブリンが酸素を求めてもがき始める。
「アリア、早く済ませて! まだ、自分以外の人を入れて行使するには経験が足りてなく無駄に魔力消費が激しいんだ!」
「黙ってる、すぐ終わらせる!」
アリアは両掌で水を掬うようにして、その上に生まれた光の砂のようなモノを3人に投げかける。
小麦粉を投げつけられた時のように粉塵が舞う状態で輝くと3人の傷が塞がっていく。
アリアは必死に制御するダンテに振り返り、頷くとダンテは止めてた息を吐き出すようにして制御を手放す。
周りに維持されていた水は床に沁み込んで消える。
動けるようになると6人は一斉にゴブリンを倒し始める。
「レイア、ミュウ、ヒース。当面はあのカウントダウンが終わる前にゴブリンを合計で80匹倒すのがやるべきことだ」
ダンテはカウントを指差し、指しているカウントが100を切ったところで、ゴブリンの討伐数は35匹、かなり大変であった。
だが、ダンテを信じている3人は迷わず、動く事を選び、手当たり次第、ゴブリンと戦い始めた。
スゥはガッシリとダンテの護衛に付き、アリアは補佐的にくっ付き、『水牢』により気絶しているゴブリンを仕留めて廻っていた。
「僕も負けてられない!」
額に汗を掻きながらも、水球を生み出し続けて、ゴブリン達を攻撃し続けた。
それから、しばらくして、
「これで、ラストだ!」
そう叫ぶレイアの一撃がゴブリンの顎を捉えて壁に叩きつけると討伐数が80/80となって、その数字が消える。
「やったー!」
ヒースがそう叫んで、レイアとミュウに抱き付いて喜びを露わにするがレイアは大変な事になっており、ミュウはジッとゴブリンキングの方を見つめて、納得がいってない顔を見せていた。
露骨に頬を引き攣らせるダンテはある場所を見つめている。
その視線を追うようにアリアとスゥも見つめて、眉を顰める。
見つめる先はカウントダウンされてる数字で今は13で12へとダウンし続けていた。
レイア達もダンテ達の様子がおかしい事に気付いて近寄ってくる。
「本当の最悪なシナリオとしては頭にあったけど……誰が何と言おうが、このダンジョンの製作者は人を苦しめるのが好きな最悪な性格の持ち主だ……」
ダンテが、そう言うのを聞いて、鈍いレイアは勿論、考える事を放棄しがちなミュウですら、自分が感じているモノと兼ね合わせて答えに行き着く。
そして、カウントダウンしていき、0になった瞬間。
『GYAAAAAAaaaaa!!』
ゴブリンキングとゴブリンクィーンが白目を剥き、涎を垂らす。
ただでさえ大きかった体は更に大きくなり、腕回りも膨れ上がる。
それを離れた所で見ていた6人は心を一つにする。
「「「「「「ぶん殴ってやるから、責任者出てこ――――い!!!!」」」」」」
まさに魂の叫びであった。
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