第200話 北川裁きらしいです
ロゼア達がパラメキ国に帰って来てから2週間後、パラメキ国にあるペーシア王国とシキル共和国の丁度、中間に位置する領主の館を借りきって和平会議と言う名の大岡裁きではなく、北川裁きが開催される。
法? そんなの知った事かと、雄一の独善によって進められる。
雄一が開き直りのようにしてるのは、今回の主導を雄一が取っている事もあるが、4カ国のトップが顔を突き合わせる。
その4カ国が同じ法体系で国の舵取りをしているのなら問題はないが、国それぞれ独自の法を用いられている。
そこで、話し合いが始まって、
「我が国の法では……」
だったり、
「前例では……」
などと言い出されると纏まる話も纏まらない。
この和平会議が5年、10年と時間がかけられるなら、それもありだろう。
だが、間違いなくペーシア王国にはその時間がない。
雄一は考える。
この和平会議の落とし所を、着地点を。
そこに至る道は柔軟に対応だ、とアバウトに考える。
ドアをノックする音がする。
「ユウイチ様、皆様が会議室にお集まりになられました」
「ああ、ありがとう」
雄一は立ち上がる。
目的地を見定めたら、例え、廻り道になろうとも、そこに至る道を決して途切れさせない。
その強き意思が雄一がブレない芯であった。
そして、今日もまた雄一が雄一である為の戦いが始まる。
▼
雄一が会議室に入ると一斉に視線が集中する。
それに笑みを浮かべる雄一は4人の少女を連れて空いてる席に着席する。
「お待たせした。早速だが、和平会議を始めよう。まずは事の発端をパラメキ国の女王からして貰う。その内容に異論がある場合は説明が終わった後に受け付ける」
辺りを雄一が見渡すと異論はないようで頷かれる。
雄一はポプリに頷いてみせるとポプリは立ち上がり、話し始める。
「事の発端は、不幸にもペーシア王国であるモノが発見された事から始まります。災厄の報せと言われる『ホウライの予言』が発見されました」
その言葉にざわつくシキル共和国側。
当然のようにナイファ国、パラメキ国は平静を保ち、ペーシア王国の国王ジンガーは静かに目を伏せるのみであった。
「予言の内容は、『秋の実りの時期、ペーシア王国が海に沈む……』と書かれてました。それに焦ったペーシア王国の重鎮が……今日は来られておられないようですが」
「すまない。和平会議の報せが来る少し前に姿を消して行方が分からない」
本当にすまなそうするジンガーは頭を垂れる。
ジンガーの脇を固めるのもハミュの兄達らしい。
シキル共和国側もペーシア王国の侵略に動き出した理由は知らなかったので驚きながら話を聞いていた。
「大丈夫だ、所在は常に追っている。上手くギリギリ逃げ続けられてると思ってるようだが、逃がして貰えてる状況を維持して精神的に追い詰めてる。こいつ等の処遇についてはペーシア王国の国王と後で話し合いを設けよう」
ジンガーは驚いた顔をして雄一を凝視し、大統領は雄一を敵に廻すとこういう目にも遭わされるのかと恐怖から震える。
今頃、ヤツ当たりする気で追いかけているリホウとペーシア王国の保護を受けていたから手を出せなかった、昔、エイビスに苦渋を舐めさせた商人を追い詰めて、ヒャッハーしている頃だろう。
かなり私怨が籠ってる気がするが仕事をするなら、と大目に見ている。
雄一はポプリを見つめて続きを促す。
「そのペーシア王国の侵略の動きを察知したシキル共和国は、パラメキ国の次は自分達かもしれない、と恐れ、同じように侵略をしようと思索した。それを裏付ける証拠は提出させて貰っているので反論はないかと思います」
ポプリがそういうと大統領は雄一の後ろにいるリューリカを見て、黙って頷く。
「その両国の動きを止める為に、私がユウイチ様に救援要請を致しました。そのおかげで両国が止まってくれましたが、問題解決とはいきません。それについてはユウイチ様の方からお報せがあります」
ポプリから再び、発言権を与えられた雄一は、周りを見渡し、頷くと口を開く。
「『ホウライの予言』を聞いた者のほとんどはペーシア王国は津波にあって海に沈むと思ったのじゃないだろうか? だが、事実は違う」
雄一の言葉を聞いたペーシア王国側は驚いた顔を見せる。
後ろを振り返った雄一が少女に頷いてみせる。
「それについてはレンから話をして貰おう」
「続きは私から。細かい話は省いて、手っ取り早く海の精、ポセイドンに直接聞いてきたわ。はっきりと否定してきたし、起こるなら全力で阻止すると言ってたから津波ではないわね」
ペーシア王国とシキル共和国は、「手っ取り早くって」と呆けるように呟く。
まあ、受け入れ難い事実なのは仕方がない。
「どうやって海の精から聞いた、と思うのは致し方がないのは認める。でも、レンは水の精霊獣だ、海の精に会うぐらい訳はない」
驚く両国を無視して雄一は続ける。
「ついでみたいな説明にはなるが、俺の後ろにいる子達は全員、精霊獣だ。火、水、風、土の四属性のな」
驚き過ぎて両国の者は口をパクパクさせる。
雄一は後ろの4人に簡単に自己紹介するように頼む。
「まずは私からね。ご紹介にあったように水の精霊獣のレンよ、よろしく」
煙草のようなものを咥えているが今日は火をつけていない。
白衣を翻して元の位置に戻るのを見たリューリカが前に出る。
「わらわは、火の精霊獣、リューリカじゃ。そこの者は、わらわが火の精霊獣である事は、よぅ、知っておるよな?」
リューリカが見つめる大統領は震えながら頷いてみせる。
ペーシア王国のジンガーは何があったのだろうとは思ったようだが、気後れして聞くのを止めたようだ。
緑髪のブラ、短パン姿の少女が前に出る。
「んっ、エリーゼ」
そう言って引き下がろうとしたのをリューリカが噛みつくように言う。
「馬鹿モン、属性ぐらい言わんか!」
「んっ、風」
エリーゼの適当さにリューリカが髪を掻き毟る。若干、リューリカはエリーゼに苦手意識がある。
意外な話だが、属性的にアクアとアグートのように水のレンと仲が悪いかと思われるが実は良好な関係を築いていた。
「では、最後になります。ワタクシが土の精霊獣、アイナと申します。以後お見知りおきを……」
栗色のウェーブがかかったロングヘアーは光に当たると光沢を放ち、聖母かと言いたくなるような柔らかい笑みを浮かべ、出る所は出て、引っ込むべき所は引っ込むという非の打ち所がない完璧なプロポーション。
ある意味、女性の理想の体型を実現させているアイナが軽く会釈すると後ろに戻っていく。
両国の者達は魂を抜かれたようにアイナを目で追う。
だが、この場に居る雄一とポプリは頬に汗を滴らせ、心を同じくする。
誰だ、こいつは?
勿論、誰かなんて分かっているが、家の子達が今のアイナを見ても本人と分かる子がどれくらいいるだろう?
家に居る時のアイナとはまるで別人である。
「アイナ、ペーシア王国に海に沈む理由を教えてやってくれ」
そういうと笑みを浮かべたアイナが頷く。
「ペーシア王国は自国の地下がどうなってるか御存知でしょうか? 無計画に採掘し続けて、地面を支えている大事な場所を傷つけてしまっております。放っておいても1年もすれば地盤沈下を起こすでしょう」
「ば、馬鹿な、それがあるのは我ら側でも自覚してあり、そこを避けて採掘をすると決定しました。それを知らぬ者は……」
思わずと言った感じでペーシア王国の王子、体つきから長男だと思われる王子が口を挟んでしまう。
国王であるジンガーに窘められ、代わりにジンガーが雄一に謝罪をしてくる。
それがキッカケでざわつきだしたが、雄一が指でテーブルをコンと叩くと会議室に良く響き、皆が口を閉ざして注目する。
「安易に戦争を選ぶような奴らが5年、10年先を見定めて動かない。だから愚か者という言葉がある」
雄一は視線だけを大統領に向けると露骨に雄一の視線から逃げる。
「すまない、私の統率能力の欠如から出た錆は何かしらできっと……」
「いや、それについては俺から何か言う気はない。というか、もう支払った後、という状態で、これには俺もペーシア国王には同情させて貰う。後、地盤沈下の対策もあるから悲観的にはなるな」
鳩が豆鉄砲を食らったような顔をするジンガーに、「後で報告書という形で渡す」と告げる。
一度、目を閉じて間を取る事で気持ちを切り替えた雄一は、
「ペーシア国王の支払うべきものについては、今は良いとして……」
手を伸ばして、その内訳が凄く聞きたそうにするジンガーを無視する。雄一に同情されるレベルである事を想像するとさすがに怖くなったらしい。
「それで、シキル共和国は何か言い訳を考えてきたか?」
そう問われたシキル共和国側は大統領を見つめるが首を横に振る。
大統領の行動に慌てる者と致し方がないと顔を伏せる者がいるところを見ると何かしらの言い訳を考えていたと見える。
だが、四大精霊獣を従える、実際には少々、毛色は違うが集う雄一の逆鱗に触れるのを恐れたためであった。
「なら、こちらからの要求を伝えよう。シキル共和国が戦争を起こそうとしてたのは、国の経済が停滞してた事が大きな要因だ。その為、貧困層が酷い事になっている」
雄一が言う事がもっともだったのでシキル共和国側は頷いてくる。
それを見て、利益の匂いがちらつくと現金だな、と吐き捨てたい気持ちを抑えて続きを口にする。
「こちらから出す選択肢は2つ、それ以外は敵対行動と判断する」
雄一の視線に殺気が籠る。
リホウの調べで、貧困に喘いで何もできずに死んでいく人々の話を聞かされていた。
上が利益を独占するやり方ではなく、国を豊かにする方向に何割か割けば豊かな国になる事もできるのに目先にしかいかない上層部に怒りを覚えていた。
先日、シキル共和国入りしたホーラとテツからガリガリの子供達を見て胸を痛めたという話を聞いた瞬間から怒髪天な雄一であった。
僅かに込められた殺気だけでガタガタ震えるシキル共和国側に雄一は伝える。
「1つ目の選択肢、内政干渉をさせろ。お前達の国に巣食った膿を全部吐き出してやるぞ?」
そういうと後ろに振り向き、リューリカとレンを見つめる。
頷くとどこから出したか分からないが大量の用紙を抱えて、シキル共和国側のテーブルの上に置く。
「それはお前達の国でやらかしてる奴らの裏付けが取れてる悪事の証拠だ。それはまだ一部だ。しっかり膿を出してやるから任せて安心だぞ?」
顔を青くして書類に目を通す大統領達に獰猛な笑みを浮かべる雄一。
無理だ、と言葉にしながら震える大統領。
「2つ目だ。国民達の国籍を変える事の自由を与える事」
「はっ? それだけですか?」
次はどんな無茶を言われるかと身構えていたら、言ってきた内容が国を鞍替えして良い自由だけと言われて拍子抜けする。
「ああ、俺達のほうで各自に確認して廻る。本人の自由意思のみで他者がそれを遮った場合、こちらの判断で処断する」
そう言われて大統領も周りの者に目を向けると、それなら、と頷かれてるのが見える。
それをみて雄一はほくそ笑む。
「一応、国に持ち帰り、会議にさせて貰った後に返事でよろしいでしょうか?」
「構わない。ただ、移動に3日、会議に2日しか時間はやらん。エリーゼを寄こすから、書面で答えるように。分かってるとは思うが、期間延期要請も無回答と同じ扱いになる事を忘れなければな」
引き延ばしが出来ない事をはっきり言われて、怯む様子を見せたが拒否できないと判断して頷く。
「これで俺のほうからは以上だが……」
雄一は、ポプリとミレーヌを見つめると、何もない、と頷かれる。
では、会議を終了を宣言しようとするとジンガーが身を乗り出すようにして雄一に話しかける。
「すまない、む、娘に会いたいのだが!」
雄一はミレーヌを見つめる。
「こちらは構いませんよ。この後、私は国に戻りますのでご一緒しましょう」
「おお、有難い。ハミュ! パパがこれから行くからな!」
嬉しそうにするジンガーを横目に雄一は唇を噛み締めて被り振る。
「ペーシア国王、心を強く生きて欲しい……」
雄一の呟きは、隣にいるミレーヌとポプリしか拾う事ができずに2人は笑みを浮かべた。
会議の終了を宣言し、それぞれの代表は次の行き先、自分の国だったり、娘に会う為に他国に移動を開始した。
こうして、和平会議という北川裁きはスピード解決したのであった。
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