第166話 根が深そうで困ったらしいです
ゼペットは、レイア達を家に入れると「適当に座ってろ」というとダンテの襟首を掴んで持ち上げると「手伝え」と睨みつけ、強制的に頷かせると奥へと消える。
奥に2人が消えて、お湯が沸くぐらいの時間が経つと色んな器にお茶らしきものを入れた2人が帰ってくる。
それを配膳されるのを見ていたアクアが笑みを浮かべる。
「お茶は出さないのではなかったのですか?」
「ふん、本当に出さなかったらクマと大差ない爺さんだと言われたら堪らんからな」
見た目は怖く、口も悪いが性根は優しい老人を見て、シホーヌとアクアはどことなく雄一との共通点を感じて、クスッと笑いを零す。
見透かされたような気がした老人は鼻を鳴らして明後日に目を逸らす。
そんなシホーヌ達の様子と一緒にダンテも作っており、ダンテからの何のサインもないところから安全と判断した子供達はお茶に口を付ける。
「美味しい、これは凄く美味しいの!」
一口飲んだスゥは感激したように瞳を輝かす。
他の子供達も美味しそうに飲んでいる。
レイアなど、「良く分からんけど、美味い」と言って飲み干すとダンテにおかわりを催促していた。
また機会があったら次も飲みたいと思ったスゥが聞く。
「これはハーブティですよね? どちらで売ってるの?」
「そこの林でワシが獲ってきたヤツじゃ、欲しかったら帰りに分けてやる」
最初は驚き、くれると言われて喜びを前面に出したスゥは「ユウ様に素晴らしいお土産ができました」とアリアと手を取って喜びあう。
それを見ていたレイアが頷く。
「アンタ、いいクマ……ゴホゴホ、いいジジイだったんだな!」
「言い切ってからでも誤魔化せられると思った、お前さんに乾杯じゃ」
半眼でレイアを見て、本当に杯を掲げるようにするゼペットに乾いた笑いで必死でなかった事に奮闘するレイア。
呆れる気持ちは溜息で逃がしたゼペットが正面に顔を向ける。
「で、何を聞きにきた?」
「まずは、依頼内容のほうからお願いなの。聞いた話では、ゼペットお爺ちゃんがゴブリンを北の海岸にある洞窟で見かけたと聞いたのだけど?」
スゥがまずは依頼のゴブリンの目撃情報の確認から入り、ゼペットはその時の事を思い出すように唸る。
「確かに、目撃して村の者達に伝えたのはワシじゃ。じゃが、冷静になると自分で見たモノなのに見間違いじゃないかと思い始めとる」
「ゴブリンが海の傍で棲みつく違和感ですよね?」
アクアがそういうとゼペットは一瞬、目を大きく見開くが頷いてみせる。
やはりそうかとばかりにゼペットの頷きに頷き返したアクアは注目を浴びている事に気付いて話始める。
「宿の女将さんから話を聞いた時から引っかかっていた事なのですが、ゴブリンは基本的に自分の背丈より深い水がある場所では棲みません。何故なら種族的にカナヅチだからです」
「その通りじゃ。後1つ付け加えるなら、ワシが見たのは2匹じゃったが、あそこで目撃された割にはあそこに至るまでの目撃情報が0というのが気にかかるのじゃ」
アリアとスゥ、そしてダンテは何かが引っかかる程度には気になりだし、考え出すが、元々、考えるのが苦手なレイアとミュウは顔を顰める。
「ジジイ、何がおかしい?」
そう言うミュウの頭を叩くスゥ。もう少し言い方を考えろということらしい。
一笑いするだけで気にした風ではないゼペットは説明を始める。
「ゴブリンは普通、コロニーを形成して生活しとる。だが、カナヅチな奴らが棲むにはおかしい場所である事を差し引いても、距離的に村を襲い1度ぐらい来てておかしくはない」
だが、ゴブリンの襲撃の話は一切ないとゼペットは説明する。
確かに襲撃があれば、村の者達も、もっと緊迫した空気に包まれた状態になっていたが、どう見ても困った話よね……と言った軽い雰囲気しかなかった。
「仮に本当に2匹しかいないのであれば、コロニーから追い出されたか、どこかで討伐された生き残りのはずじゃが、この村周辺の村や街のほうでもゴブリンのコロニーが発見されたという話は聞かん」
それを聞いて、なるほど、と思うと同時に雄一が偶然やってきて蹴散らしたという馬鹿みたいな発想が浮かんだがそれを振り払ってダンテは思う。
そうであるならば、ただでさえ胡散臭いと思っていたこの依頼はかなり危険だということになるという結論に至った時、ダンテは愕然とする。
何故、発見したのが目の前のゼペットであるから信頼できる目撃情報なのは、まず間違いなく確かなはず。
なのに違和感を感じるダンテは、その正体を知る為に自問自答を始める。
まず、ゴブリンとは言え、食わずには生きてはいけない。
勿論、少し移動すれば山もある、そして目の前には海があり魚を獲ったりする事も可能だろうが、先程の説明からカナヅチなゴブリンにそれをする可能性は少ないのではないかと思う。
なら、一番、簡単な方法で村を襲う方法があるのに実行しない。一度、襲いかかって撃退されて学習したとかであれば分かるが、それすらないとゼペットの証言から伺える。
その状況証拠からゴブリンはそこから動けない理由があると考えるのが正しいのではないだろうか?
結界のようなもので出られなくなっている。それの可能性は少ない。そんなものがあったら入る事もできないだろうし、タイミングが良かったと話なら放置しても問題はない。出られないのだから餓死を待てばいい。
となると答えは1つである。
「おそらくですが、統率者がいる……と言う事でしょうか?」
結論を口にするダンテにゼペットは頷いてみせる。
これがゴブリンキングやゴブリンクィーンであれば、戦う準備はしてる時間はあっても村を襲ってるはずである。
そこから導かれる答えは……
「でもさぁ? ゴブリンキングがいたとして、村を襲わない理由は何なんだ?」
「統率者は、人という事になる、と言うの?」
レイアが呟いた内容を改めて言われたスゥはダンテが言わんとする意味を理解する。
そして、結論には行き着きたくなかった、とスゥは顔を顰め、答えを口にした。
「それで、ゼペットお爺さんはそれについてどう思ってる?」
ゼペットに質問するアリアはジッと見つめる。
その瞳からアリアの意図を見抜いたレイアに「それはさすがに不味くねぇーか?」と耳打ちされ、困った顔をした後、いつものアリアの雰囲気に戻り、返事待ちする。
質問されたゼペットは、それに答えずに違う事を口にする。
「そうそう、お前達はワシに前村長と現村長の話も聞きに来た、そうじゃな?」
話を切り替えるゼペットに噛みつこうとしたレイアであったがダンテに肩を掴まれて止められる。
ダンテに止められたのが腹立たしくて怒鳴ろうと思い、振り返った時のダンテの顔を見て口を噤む。
何故なら、ダンテの顔が滅多に見れない真剣な顔をしていたからである。
「どこまで聞いとるか知らんが、ワシと前村長とはお互いハナタレ小僧の頃からの付き合いでのぉ。昔は一緒に悪さをして良く村のモンに仲良くしばかれたもんじゃ」
懐かしい思い出を振り返るように遠い目をするゼペットを止めるのは憚れた面子は黙って頷く。
「お互い、家庭を持ち、若干疎遠にはなったがそれでも腐った縁。よく酒を飲み交わしたわい」
そう言うゼペットは楽しげな笑みから辛そうな顔に変わる。
「お互い年を取ってもそういう関係を今後もしていけると思っとったら、突然、現れたヤツの遠縁と名乗る男が現れるとアイツはワシに言ったよ、「二度と顔を見せるな」と」
まるで泣くのを耐えるように目を瞑るゼペットは、それに腹を立てずにおかしいと感じて調べていれば……と悔しげに語る。
そこでやっと感づいたスゥが聞きにくいという気持ちを押し殺して聞く。
「何があったというのですの?」
「ヤツは毒殺された。一般の村人には病死と伝えられとるが……ワシは、すぐにアイツが頭を下げてくると思って待っても来ないから殴り込みに行った時に見たのじゃ、アイツがこっそりと外に運ばれる所を」
「でも、それだけでは毒殺かどうかは分からない」
当然のようにアリアが質問するとゼペットも「わかっとる」と頷いてみせる。
「3年ほど前じゃったか? 国中に役人が説明に廻った毒薬、ぺリは知っとるな? あの症状が顔に出て、真っ黄色になる肌をして頬が欠けとった……始めは別人と祈ったがデコにある傷が否定したわい。ワシと一緒に遊んでた時にこさえた傷を見間違えたりせん」
ぺリという言葉を聞いた瞬間、一同は顔を強張らせて、誰からと言わずにダンテを見つめる。
見つめられたダンテは顔を真っ青にしながらも悔しげに唇を噛み締めていた。
何故なら、雄一と出会うキッカケになったダンテが飲まされてた毒がぺリだったからである。
薄めて飲ませば、治療法が分からない限り、不治の病のように見せかけられ、原液に近ければ近い程、致死率の高い毒薬と姿を豹変させる。
その薬を今後もダンテのように使われないように雄一がナイファ国、パラメキ国に指示し、末端の名もないような村にまで連絡を徹底させた事により、ぺリを使った犯罪が、なりを顰めさせる事に成功していた。
だが、先にも述べたが原液であれば致死性の毒な為、対応策なのはありはしない。
充分、毒殺には使える薬品であった。
「それで前村長を運んでたのが……」
まるで別人のように迫力が出たダンテがゼペットを射殺すように見つめる。
一瞬、怯む様子を見せたゼペットだが口を開く。
「スマン、そうだと断言はできん。覆面をしとったし、背格好などは類似しとる。家から運ばれていたのに気付いていない訳はないはずなのに、普通にしとるところから考えれば、明らかにアイツが犯人だとは思うんじゃが……」
ゼペットにしても本来なら糾弾したかっただろうが証拠がなくて声高に叫ぶ事ができなかったそうである。
あれからも色々、調べても何も出てこないそうである。
「そして、友であったアイツの遺書が発見され、アヤツが村長になった。それと同時にゴブリンを発見したのがその2日後。突然、現れた遠縁の者、今では入手も難しい毒薬、村長就任後、すぐのゴブリンの発見。3カ月も経つのに村には一切こない」
海岸傍の洞窟に行けば、時折、姿が見れるそうで移動したという話ではないらしい。
それだけの材料が揃うと勘繰りと言われるかもしれないが全部繋いでしまいたくなる。
つまり、ゼペットはそう言いたいのである。
「ゼペットお爺さんは、現村長が統率者と思ってるの?」
「……あくまで可能性の話じゃ、これがワシがお前さん達に話してやれる事は全部を話した。そろそろ帰れ。林の中は暗くなるのが早い、今の内に帰らんと足元が危ないぞ」
そう言うとゼペットはドアを開いて脇に退く。
つまり、これ以上、話したくないから帰れということらしい。
ゼペットの友を思う気持ちも理解できるし、殺された事を立証したくてもどうにもできないという事実に打ちのめされてた後の老人に文句を言える者はここにはいなかった。
素直に出て行こうとしたレイア達を見て、思い出したかのように呼び止める。
奥に引っ込んだゼペットは小さな革袋を片手に戻ってくる。
それをスゥに手渡す。
「これは何なの?」
「約束しとったじゃろ、ハーブじゃ、持って帰って飲むとええ」
律儀なゼペットは約束を忘れずにスゥにお土産を渡す。
感謝の気持ちを伝えようとしたスゥの頭に大きな掌が載る。
そして、屈んだゼペットが言い含めるように伝える。
「今回の件はお前さん達には荷が重い。帰ったほうがええ。帰って……例えば、北川コミュニティの凄腕の冒険者に声をかけてくれんか? それこそ、できればノーヒットDTと呼ばれる男に来て貰ったほうが良いかもしれん」
この依頼は依頼書の内容のような気楽なモノじゃないというのは、既に子供達も充分、肌で感じ始めていた。
その言葉を投げかけられて即反応するように口を開いて叫びそうになったレイアの口をアクアが苦笑しながら塞ぐ。
この中でも1,2を争う程、モノ分かりの良いスゥであったとしても素直に頷けずに固まっていると嘆息したゼペットが立ち上がる。
「嬢ちゃん達には分かりにくいじゃろうが、急いで生きてもええ事なんぞ、そうそうない。一時の恥、屈辱を飲む事で次に繋げられるなら飲む事も覚えんと長生きはできんぞ?」
そう言われても沈黙を守る子供達、いや、今も憤慨して顔を真っ赤にしてアクアに口を塞がれて暴れるレイアの姿もあるが視野外にされる。
ゼペットは後ろにいるシホーヌとアクアに視線をやると頷かれたので、任せたという思いを込めて頷き返す。
「嬢ちゃん達、命は大事にな」
という言葉でゼペットに見送られた子供達は重い足取りを村へと向けて歩き出した。
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