第165話 残念な子供達のようです

 宿屋の女将から手に入れた情報を頼りに南の外れを目指して歩いていると民家らしきモノが途切れ、行き過ぎたか、見逃したか不安に駆られる子供達5人。


 もう少しだけ行ってみようという事で進む事、5分程した林の中でミュウが木々の間に向かって指を差す。


「家、あった」

「はぁ? どこだよ。ミュウが指差す先って葉っぱが邪魔して見えないぞ?」


 レイアが掌を額の上で屋根を作る様にして遠くを見るような目を細めるが、やはり葉っぱがあるせいで光が漏れてるぐらいしか分からなかった。


 残る面子も見えないようで困惑した表情を浮かべるがシホーヌが結論を口にする。


「ミュウが見えるというのだから、行ってみればいいのですぅ。違ったら戻ってゼペットさんのお家がどこにあるか聞きに戻ろうなのですぅ」

「そうなの。いい加減、結構、奥に来過ぎて村外れというより、村から出たんじゃないかと不安に思ってたの」


 スゥとアリアは見切り場所を求めて、お互い目配せし合っていて、そろそろダンテに言わせようとしてたところで丁度いいキッカケがきてホッとしていた。


 みんなに信じて貰えてないのかと勘違いしたミュウが憮然な表情をして「家、ある!」とガゥガゥと唸りながら言うが、アリアに「そこがゼペットお爺さんの家か分からないと思ってるだけ」と言われて納得したようで1つ頷くといつものミュウに戻る。



 それからしばらく歩くとレイアが声を上げる。


「あっ、本当に家がある。良くあそこからアレが見えたな?」


 レイアに驚いた眼で見られたミュウは澄ました顔をしながら胸を張り、ガゥ、と声を出す。


 同じように見つけたアリアとスゥは顔を見合わせると心配げな表情を浮かべる。


「あんな崖の上に建ってるけど、本当に誰か住んでるか不安なの」

「んっ、あれ、見て、煙が上がってる。誰かが生活してる」


 話をしてる最中で煙の存在に気付いたアリアがスゥに伝える。


 スゥも目を凝らして見ると背景の雲で分かりにくかったが煙が上がっているのに気付く。


「とりあえず行く理由ができて良かった。住んでるのがゼペットさんじゃなかったら、そこで話を聞いてみようよ」


 纏めるようにダンテが言うとアリア達は頷く。だが、レイアは「ダンテのくせに生意気」と言うとダンテの膝裏を足裏で押して膝を着かせる。


 レイアはフンッと鼻を鳴らすとダンテを置いて先頭を歩いていく。


「僕が何をしたというの……」

「ダンテ、強く生きろ」


 涙目のダンテの肩に手を置くミュウはサムズアップして励ます。


 北川家の男子、ダンテの宿命との戦いはこれからが本番だっ!





 崖を目指して歩くと途中で人の足で踏み固められたような道に出たのでそれに沿って歩く。

 直線距離ではもっと近いように見えたが遠回りをさせられた為、疲れを見せていた。


 勿論、体力的な話ではなく、シホーヌが「疲れた、疲れたのですぅ。少しお休みしましょうなのですぅ」と騒ぐ大きな子供を宥めたり、聞き流す事で5人の子供達は精神的に疲弊していた。


 座り込みそうになるシホーヌの背中をダンテが押しながらやっとの思いで崖の上の家の前に到着する。


 到着してその家を見上げるように見て、遠目でも子供達も思っていた事ではあるが、


「きたねぇ家だな」


 とレイアの言葉が集約されたようなボロ家、もとい、木こりの家といった山小屋である。


 その言葉を吐いたレイアを見たアリアは背中に手を廻すと、どこから出たと言いたくなる程の大きなハリセンを振り翳して迷いもなくレイアの後頭部に叩きつける。


 ハリセンの衝撃を叩きつけられたレイアは顔を地面に突き立てるように『へ』の字になるような体勢で可愛らしいお尻を突き出す。


 プルプル震えるレイアが、ガバッと起き上がると顔に付く土も払わずにアリアの胸倉を掴んで唸る。


「人の頭をポンポンと気軽に叩くなよ!」

「レイアも少しは考えてから口にする」


 微動だしない瞳に見つめられたレイアは怯むように手を離してしまうが、どうしても納得がいかない事がある。


 レイアは顔に付いた土を払いながら、拗ねるように唇を尖らせながらアリアに聞く。


「そのでっかいハリセン、どこから出したんだ? 持ってる事すら気付かなかったんだが?」


 そう言いながらアリアの姿を下から上と見るが持ってるのは紐を肩に通して持っているカバンのみであのカバンに入るとは到底思えない。


「んっ、ホーラ姉さん直伝」


 誇るように言うアリアは胸元からアリアの腕より太い分厚さの本を取り出す。タイトルは『女の賢い収納術 ①』と書かれていた。


 アリアはホーラ直伝というが本家は傍で垂れパンタ状態のシホーヌである。


 実は神の御技なのだが、ホーラも、また、アリアもその事実に行き着いていない。


 今、目の前で起こる出来事が色々と納得できなくて眉間を揉むレイア。良く分からないから流すしか、と自分を言い聞かせようとするが……


「いや、どう考えても無理だからな? そんな分厚い本が入ってたら体のラインで分かる!」


 レイアの言葉が聞こえないような顔をして空を見上げるアリア。


 こっちを向かないアリアに苛立ち出したレイアが更に叫ぼうとした時、


「誰じゃっ! ワシの家の前で騒ぐ馬鹿モンはっ!」


 勢い良くドアが開き、バァンと音をさせる。


 それにビクついた5人の子供達は逃げ腰になるなか、スゥが叫ぶ。


「お家からクマが出てきたのぉ!」


 その叫びと共にミュウはその場でうつ伏せで大の字になる。


 レイア達が踵を返して逃げようとするとクマが更に叫ぶ。


「ガキンチョども! 良く見ろ、どこがワシがクマじゃ!」


 ビクつく子供達のなかからレイアがおそるおそる近寄り、出てきたクマ(決めつけ)を突っつきながら1周する。


 ぼさぼさの髪に仙人のように長くふっくらとさせる髭、レイアの胴ぐらい太い腕には濃い体毛がふさふさしており、毛皮を羽織っていた。


 そして、1つ頷くと後ろを振り返ったレイアは告げる。


「マジもんのクマだ!」

「所々、体毛が薄い所はきっと怪我して生え換わり始め、優しくしてあげよう」


 双子の診断に頷くスゥとダンテ。


 その双子の診断を聞いてプルプル震えるクマ(確定?)は雄叫びを上げるようにして両手を突き上げる。


「ワシは人間じゃっ!」

「うわっ、怒って襲いかかろうと威嚇してきたっ!」


 両手を上げる仕草がクマが威嚇する姿そのものを見せられたレイア達は臨戦態勢になるが逃げるか戦うかで悩む。


「いい加減せんかっ! 良く見ろ、そして聞け、喋るクマなんぞおらん」

「そうなの、捕獲に成功すれば王都で『クマの進化理論』を唱える学者が大喜びなの!」

「えっ? そんな研究する学者さんっているの?」


 スゥの言葉を聞いたダンテが驚いて問うと頷くスゥを見て、暇な学者もいたものだと違う驚きに包まれる。


 そして、どうやって捕獲するかの話し合いをする子供達は徐々にヒートアップしていくのを余所にクマ(認定)は子供達に背を向けて蹲りながら地面に『の』の字を書き始める。


 それを見ていたシホーヌとアクアは面白かったので黙っていたがちょっとクマさんが可哀そうになってきたので口を挟む事にする。


 アクアは熱の入る子供達の注目を集めると笑いを堪えた顔で伝える。


「この方は本当にクマではありません。れっきとした人ですよ」


 それを伝えると本当に驚いて声を上げる子供達が面白過ぎてシホーヌはその場で笑い転がる。


 子供達もシホーヌも役に立たないので仕方がないのでアクアが切り出す。


「家の子供達が失礼しました。貴方はゼペットさんですか?」


 アクアに人扱いされたのが嬉しかったのか、急いで振り返るクマ(疑いの余地あり)だったが、その情けなさに気付き、咳払いをして誤魔化すと立ち上がる。


「そうじゃ、ワシがゼペットじゃ。何の用じゃ」

「村から出された討伐依頼に絡む話から、現村長、前村長についてお聞きしたくてやってきました」


 村長の件の時に目の色が変わったのをアクアは見逃さなかった。


 溜息を鼻で吐くようにするゼペットは、


「やってきた冒険者はそこには疑問を挟む程度には頭が廻る奴がきたようじゃな。人とクマと見分けがつかんボンクラだったりするのが少々、不安じゃがな」


 そう言うと中に入ろうとするゼペットがアリア達にも中に入るように指示する。


「お前らの相手で疲れた。歓迎もしないし、茶も出さんが座りながらなら聞いてやるわい」


 そういうとノシノシとクマさんのように歩くゼペットの後を追うようにアクアが子供達の背を押しながら山小屋へと入っていく。


 入っていくのを見送るように立ち止まってるダンテが未だに地面で大の字になりながらタヌキ寝入りをするミュウに声をかける。


「どうして、ミュウは寝たフリをしてるの?」

「がぅ、困ったり、どうしたらいいか分からなくなった時の必殺技、テツ直伝」


 順調に年長の姉、兄の薫陶を受けてスクスク育っている子供達。


 だが、ミュウの育ち方に偏りを感じるダンテだったが、なんと言えばいいか分からなかったので流す事にする。


「とりあえず、起きよう。もうみんな中に入ったよ?」


 そうダンテが言うと飛び起きるミュウは適当に土を払うと山小屋へと入っていく。


 それを見送ったダンテは溜息1つ吐くとダンテも入り、扉を閉めた。

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