第148話 これから目指す答えと返ってきた結果らしいです

 丘に集合し終えた軍がパラメキ国、王都セーヨォへ侵攻しようとしていたが城門を固く閉じられ、攻城戦の用意を進められていた。


 そんななか、義勇軍扱いである雄一達は侵攻作戦には参加の義務、守る為の戦いではないので、自由参加であった為のんびり静観するという立ち位置にいた。


 本来なら別に帰ったところで後ろ指を差される筋合いもないのだが、結末は見て帰らないという思いで天幕で家族で集まっていた。


 そんなか、帰りの遅かったリホウがパラメキ王の首だけで持ち帰ってきた事により、女王、その部下の一部も雄一達の天幕にやってきていた。


「リホウ、先程、俺に説明した内容を女王に報告を」

「はい。パラメキ王を護送中、モンスターの襲撃に遭い、囲まれたのでパラメキ王から手を離してモンスターと交戦。戦っている最中に目を覚まされたのか寝たフリをされてたのか不明ですが、腕を縛られている状態で逃走を計られました」


 首だけになったパラメキ王、自分の兄を悲しそうに見つめるポプリは唇を噛み締める。


 その小さな体を包むように後ろから抱き締めるホーラを横目に女王は説明を促す。


「モンスターの意識が私に集中した事で隙が生まれたと勘違いされたパラメキ王は包囲網を突破しようとされ、包囲を抜けたと歓喜の表情をされて油断したところをモンスターの一撃で首を狩り取られました」


 そう説明するリホウは、モンスターを撃退に成功するも遺体を全部持ってくる事はできず、首だけを持ち帰ったと説明すると口を閉ざす。


 その説明を聞き終えた女王は黙考するように目を瞑る。


 何も言わない女王に替わって、先程、ホーラにやりこめられた文官達が息を吹き返し、どう責任を取るなどと騒ぎ始める。


「すまない、俺がその可能性を考えずにリホウ1人に護送させたミスだ。戦争している所にわざわざ近寄ってくるモンスターがいるとは思ってなかった」


 文官達の前で頭を下げる雄一の存在に圧されて黙る文官達。


 勿論、雄一は威圧などは放ってないが、ナイファ国の王宮に乗り込んできた時の姿や、この戦争での戦果などを知る文官達が勝手に気合い負けしただけである。


 そして、女王に頭を下げる雄一に倣うようにリホウも平伏するように頭を下げる。


 女王は、目を開くと首を被り振る。


「いえ、リホウ殿の実力を考えれば、どうにもできなかったとしたら、我が兵に護送させても結果は同じでしたでしょう」

「しかし、女王。我が国の兵を100、いえ、1000で護衛させれば違う結果に……」


 雄一に文句が言えない文官達は女王に上申する形で噛みつくが、冷めた目をした女王に見つめられて口を閉ざす。


「100? 1000? 本気で言っているのですか? 我が国の兵や、エルフ軍はパラメキ兵を捕縛、連行していたのですよ? そんななか、それだけの人数を割いたらパラメキ兵が反旗を翻す、逃亡したらどうするのです。モンスターに襲われる可能性とどちらが高いか考えての発言であるなら、その職を辞して頂いても結構です」


 グゥの音も出ない女王の言葉に黙らされる文官達に更に追い打ちをしかける。


「しかも、戦争で何もできないのはいい、その後の戦後の処理を考えるはずの文官である貴方達がこの後の事の献策をせずに、今ある責任がどこにあるかと騒ぐしかしないのであれば、置き物のほうが余程、私達の目を楽しませるだけ価値がありますよ」


 悔しげに唇を噛む文官達であるが、今の心境をまったく理解できない女王でもない。ホーラとの一件から失態を晒して、謝罪を強要される可能性を示唆され、これ以上、自分達に課せられるモノを増やしたくない思いが突き動かしていた。


 だが、それはお門違いの話であると判断する女王は敢えて辛辣な対応をしていた。


 確かに、ゴードン達に与していなかった文官達ではあるが、あくまでアレと比べると真っ当というだけで、女王が文官として求めるモノを持ち合わせているとは言い難かった。


 女王は、したたかである。


 これを機にふるいをかけるつもりであった。


 今回の事を体験し、変革していこうとする者とそうでない者の見極めをする為に……


 それにリホウほど頭と腕の立つ者、頭は戦争の軍議などでも力を振るう姿を見せた。


 団長などもリホウに敬意を払っていたのが分かる。実現する話だとは思ってはないが、リホウを側近に欲しいと切実に女王は思っている。だが、リホウは決して雄一の下から離れる事はないであろうと理解もしていた。


 そんなリホウが本当に話通りの事態が発生した、もしくは、そう見せかけたにせよ、女王にとっては歓迎すべき結果である。


 パラメキ王は生かしておくことはできなかった為であるが、女王の決断で処刑する流れはできれば作りたくなかった。なぜなら、ポプリとの距離を作りたくなかったのである。


 これが自分の兵の失敗でそうなるとポプリに不信から壁を作られる恐れがあった。


 しかし、自分達の身内、しかも雄一の信を得ているリホウが起こした事であるならポプリは悲しむ事はあってもそれ以上のマイナスの感情は持ちにくい。


 内心、安堵の溜息を吐く女王であるが、未だに頭を下げてこちらを見ないリホウを見つめて、軍議などでみせた慧眼や頭の回転の良さを考えるとどちらか真実か追及を文官達にさせる訳にはいかなかった女王は強い言葉で黙らせた。


「お二人とも頭を上げてください。不測の事態というのはいつでも起こり得る事。リホウ殿、パラメキ王が死んだという証明を手にして無事に帰って来られた事を誇ってください」


 女王の言葉に雄一とリホウは更に頭を深くする。


 まだ何か女王が口を開いて何かを言おうとしたところで天幕に兵が入ってくる。


「報告させて頂きます。パラメキ国に降伏をあれからも継続して伝えていたところ、向かった使者を殺害。徹底抗戦の構えを解きません。攻城兵器を用意させていますが、日が暮れるまでには間にあいそうにありませんので明日にもつれ込むと思われます」


 それに黙考する女王。


「誰が……そんな馬鹿な決断をしたのか……」


 ポプリは辛そうな表情をする。


 それはそのはず、この状態ではパラメキ国の勝機はなく、いかに自分達に不利が少なく交渉のテーブルに着くかを考える時なのに取った手が余りにも悪手過ぎた。


「そうなると出来る限り、早く手を打ちたいところですが、しょうがありません。明日、総攻撃……」

「ちょっと、いいか?」


 雄一が女王の言葉を遮り、手を上げて意見があると意思表示をする。


 手を上げる雄一に意見を述べるのを許す為に頷いてみせる女王は雄一に向き直る。


「ここからは、義勇軍の俺達が出しゃばるのは余り良い事ではないのだろうが、城壁を壊したいなら俺が壊そう。今回の失態の補填の足しにして貰えると助かる」


 雄一は、すぐに壊す事ができると自信を感じさせる瞳で女王を見つめる。


「どうされるのですか?」

「いやなに、ナイファの城壁も壊す時にやろうとした事だ。したらゼクス達に悪いと思ってしなかったがな」


 それを聞いた女王は、ゼクスが確かそんな事を言っていた事を思い出し、雄一ができると言うのであればするという信頼の下、任せて見ようと考える。


 何より、雄一がナイファの城壁にどうするつもりだったか興味があったからである。


「では、お願いしてもよろしいでしょうか?」

「ああ、構わない。壊れたらすぐに包囲できる準備をしてくれ。俺は軍の準備の出来次第、城壁を破壊する」


 そう言うと雄一は天幕を後にする。それに着いていくように北川家の一面とゼクス兄妹も出ていく。


 女王とすれ違うようにして去るリホウに聞こえる声の大きさで「ご苦労様」と伝えるとリホウは口元に笑みを作るだけでその場を後にした。




 雄一達は、セーヨォが一望できる場所を歩いていた。


 一緒に着いてきてる面子のリューリカが雄一に質問をしてくる。


「で、ダーリンはあの街を更地にするのか?」


 まるで今日の夕飯は肉? という気軽さで雄一に問うのを見て、北川家の面子は驚いた顔を見せる。


 だが、当の本人の雄一は、抱き抱えているアリアと肩にいるミュウに笑いかけながら答える。


「そんな事したら、復興にどれだけかかると思ってる。精霊獣にとったら何十年なんて、あっという間なんだろうが人間には大半の人生という時間を消費する事と同じなんだぞ?」


 そういいつつも、それが一番、人の被害が少ない方法ならする用意はあると言うのを聞いた北川家の面子は、やっぱりできるんだ、という空気に項垂れる。


「向こうが牙を剥いてきておるのだから、遠慮する理由はないように思うが、人間は面倒なのじゃ」


 本当に面倒そうに言うリューリカが思い出したように雄一の肩に乗るミュウに声をかける。


「それはそうと、その場所をわらわに譲るのじゃ。わらわはお前のエラーイご先祖様じゃぞ?」

「ヤッ!」


 ノータイムでリューリカの言葉を切って捨てるミュウの言葉にフルフルと震える。そして、威嚇するように牙を見せるリューリカの頭に雄一がチョップを入れる。


「ちっちゃい子に威嚇すな。種族的に格付けみたいなのがあるんだろうけど、家では、ちっちゃい子が優先だ」


 雄一にチョップを入れられて涙目で見上げるが、その視界で嬉しげに「がぅがぅ」と笑うミュウの顔が入り、眉尻を上げる。


「腹が立つのじゃ! 良く見たら、お前はわらわの妹の幼い時とそっくりなのじゃ!」


 両手を突き上げて叫ぶリューリカに溜息を零す雄一は、置きやすい位置にあるリューリカの頭を撫で始める。


 その撫で方が良いのか上げていた眉尻が落ち始め、幸せそうな顔をしておとなしくなる。


 そんな事をしている雄一の後ろにポプリがやってくる。


「あの本当に国民に危害はありませんか?」


 心配からどうしても聞かずにいられなくなったポプリが雄一に問いかける。


 その言葉に雄一は笑みを浮かべて答える。


「ああ、国民どころか中に引き込んでいる兵達までが無条件降伏してくるかもしれない程、安全だ。ただ、城壁は綺麗さっぱり消えるがな」


 そう答える雄一に近寄ってくる兵がいた。


 少し、待つと雄一の前に来ると憧れが籠った視線を隠さない兵が敬礼をしてくる。


「報告に参りました。セーヨォを包囲するのが完了しました。後は、城壁を壊れるのを確認と共に動き出します」


 それに分かったと頷く雄一に一歩近づく兵が、緊張した様子で再び、声をかけてくる。


「あ、握手して頂いてよろしいでしょうかっ!」

「構わないぞ?」


 そう言う雄一が気軽に手を差し出すと兵は自分の服で手を拭くと嬉しそうに握手してくる。


「貴方のような人がいるなら兵ではなく冒険者になっておくべきだした!」

「いや、兵も誇りある仕事だ」


 雄一に自分がやってる仕事も意義があると言われて、本当に嬉しそうにする兵が再び敬礼すると別れの挨拶をして立ち去ろうとする。


「これからも貴方の活躍を楽しみにしております。ノーヒットDT殿!」


 その言葉に雄一は笑みを凍らせる。


 兵は雄一の様子に気付ける余裕もなく、微妙な表情をする北川家の面子に会釈すると自分の持ち場に戻るために駆けて行った。


 固まったままの笑顔のままで北川家の面子に顔を向ける雄一は、「犯人は誰だぁ?」と底冷えする声を洩らす。


 その場に居るリホウを除く面子が自分に疑いが来たら困るとばかりに目を反らす。


 凄い胆力というべきか、この状況下でリホウはクスクスと笑い続ける。


 雄一にターゲットロックオンされたリホウは、雄一の威圧に押されるようにして口を開く。


「スゥちゃんですよ。空に『ドラゴンを倒した、『ノーヒットDT』がくるの!』と光文字で書いちゃったんで、アニキの二つ名が完全に軍に浸透してしまったようですよ」


 ショックのあまり、両膝を地面に着ける雄一に意味は分からないがショックを受けていると感じたアリアとミュウが雄一の頭に小さな手をポンと置く。普段ならニヤける雄一であるが今日ばかりは悲しみで泣き崩れそうになる。


 スゥに怒りをぶつけられない雄一がギロッとリホウを睨むが、「光文字をしっかり教えろと指示したのはアニキですぜ?」と本当に嬉しそうに笑われて、奥歯を噛み締める。


「スゥ、何か悪かったの?」


 ふわふわの赤い髪を揺らしながら可愛らしく首を傾げるスゥにありったけの精神力を持ち合わせて、笑みを浮かべてスゥの頭を撫でる。


 その背中を見ていたテツが目端に大きく涙を浮かべる。


「ユウイチさんの背中が泣いているっ!!」


 ノーヒットDTの意味は理解してないテツであったが、雄一の背中が語る言葉を理解して雄一の代わりに滂沱の涙を流した。

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