第76話 オシャレの為なら寒さなど我慢らしいです

 雄一達は、ダンガからそれほど離れてない所にあるスネ湖にやってきた。


 北川一家総出で遊びに来たのがメインのように見えるが元々の予定は、シホーヌとアクアに指示された3つのアイテムの内の1つを手に入れる為である。


 スネ湖で手に入れるモノは、鳥なのに淡水の湖の中で産卵する卵らしい。


 水鳥のように水面に浮かびなら排卵するらしく狙ったかのように、水深50m前後の辺りを狙ってするとアクアは言う。


 色々な常識から当て嵌めると絶対に死ぬと思える状態から羽化して生まれてくる常識外れな鳥という話だ。


 それを突っ込んだらシホーヌは、「それは、不思議パワーなのですぅ!」とドヤ顔をしてくるのでデコピンをして、「お前の頭が不思議だよっ!」と突っ込んだものの、どうやら誰も知らないようであった。


 仕方がないので不思議パワーで納得する事にしたら、涙目のシホーヌに両腕で肩を起点にして回転させながらの、「駄々っ子パンチ『連打』」の奥義を発動された。


 何をともあれ、今回のターゲットは、その卵。卵でもいいし、殻でも問題ないらしい。


 それを取ってくるだけだから傍で見てる分の雄一達には危険などありはしない。

 勿論、想定外のモンスターに襲われる危険はあるが、エンシェント級のモンスターでも出ない限り、この面子、雄一、シホーヌ、アクアがいるので慌てる事はないであろう。


 だが、雄一に限り、ちっちゃい3人が泣いただけでも大騒ぎしそうではある。


 街からそう離れてない場所の湖にこないだのようなドラゴン襲来という展開はそうそうありはしない。


 次に問題になるのは、どうやって捜すかである。


 この世界にスクーバダイビングなどありはしない、シホーヌが来る直前に手に入れようとしたようだが、「あのイケズ大魔王ホルンに申請を弾かれたのですぅ!」と憤っていた。


 雄一としては、友達が保護者機能のような役割をしてくれてくれている事にホッとする。


 シホーヌに好き勝手させると何をし出すか分かったものではないと雄一は溜息と共に重い気持ちを吐き出す。


 水深50mぐらであれば、それなりに休憩を入れながらであれば空気の問題さえなんとかなれば、やってやれない事ではない。


 そこで出番となるのが雄一だったのだが、シホーヌとアクアもやってきたので誰でも良くはなったが、水魔法で水泡で体を覆い、水中にある酸素を取り出す方法があるのである。


 それをテツ達に行使して潜るアシストをするのであるが、水泡に覆われるが濡れるのは防げないのでテツ達は、今、着替えに行っている。


 だから、この探索で一番堪えるのは水の冷たさであろう。


 そろそろ春を迎えるとはいっても、さすがに水温はかなり冷たい。


 なので、テツ達には来る途中でも口を酸っぱくして休憩はこまめに取るように言って聞かせてある。


 湖の畔で、テツ達の休憩場にするつもりで焚き火の準備をしていると人の気配が木々の奥から近づくのに気付き顔を上げる。


 上げた視線の先には、水着姿になったホーラとポプリの姿がそこにあり、雄一は疑問そうに首を傾げる。


「なんで、あえて、ビキニ? このまだ寒い中、布地が少ない水着を何故選んだ?」

「ユウ……女には実用よりデザインを重視しないといけない時があるのさ……」


 遠い目をしたホーラを嘆息して見つめる雄一は、ホーラを呆れた目で下から上へと見つめる。


 白のスポーツブラのビキニの着ており、太ももには革ベルトと思われるものを巻いてあり、そこに何本かのナイフを仕込んでいる。


 それを見た雄一は、スリットが色っぽい女刑事を思い出したとかないとか。


 その隣でモジモジと体を隠そうとするポプリに目を向ける。


 モジモジしてる割に攻めたビキニを着ており、ビキニのお手本と言わんばかりの必要な個所以外は紐といった大人を意識したビキニを着ている。

 しかも、黒の辺りあのモジモジした行動はどちらかと悩む問題であった。


「水遊びしにきたのなら、それでもいいんだろうが、その格好で探索してたら水着が脱げてしまうぞ? 何せ、引っかかるモノが……」


 鋭い殺気を感じた雄一は、その場から跳躍する。


 先程まで雄一がいた場所に、ナイフが投げ込まれ、地面に突き刺さるのを確認する前に目の前に火球が襲いかかるので着地する前にウォータボールを叩きつける。


「お前ら、今の殺してもいいという思いで放っただろっ……?」


 2人から発する殺気に尻すぼみする雄一は、目で周りに助けを求めるが誰も味方はいなかった。


「ユウイチさん、未来の妻だって聞き流せない、いえ、未来の妻だからこそ、流しちゃ駄目な言葉があるんですぅ!!」

「ユウ、アタイは悲しいさ……ユウの不用意な言葉から事故が起こってしまうという事実に……」

「待て、いや、待ってください。お話し合いをすれば解決する問題って結構あるって言うぜ?」


 雄一は、必死な説得をしつつ、にじり寄ってくる2人から距離を取るべく下がり続ける。



 『雄一!暁に死す!!』



 というタイトルコールを追い詰められた雄一は聞いた気がした。


 だが、シホーヌじゃない神は見捨てていなかった! 雄一に救世主が現れる。


「ユウイチさん、結構、着替えるのに手こずりましたが、やっと、着替えられました」


 そうだ、俺にはシールドがいた! と喜ぶ雄一が振り返る。


 振り返った先には、まさに空気を読めないテツがこの息をするのも一苦労する現場に躍り出る。


 テツは、周りの状況を理解せずに呑気な顔をして雄一のほうへと歩いてくる。


 そんな呑気な行動をするテツをギロッという擬音が聞こえるような目で見つめたホーラとポプリの目が点になる。


「何故か、この格好になると気が引き締まると言いますか、強くなった気がしますね!」


 雄一は、冗談のつもりで渡したモノをテツが着けているのを見て、コイツは何者なのだろうと本気で悩む。


 だが、このテツの登場と行動でホーラとポプリが停止状態に追い込まれた事に心の中でテツに、グッジョブ! とサムズアップする。


 まるで王者の如く、戦場を闊歩するようにホーラとポプリの前を歩き、雄一の下へやってくるテツをもう一度見つめる。


 真っ赤な布をお尻のほうから股下へと潜らせて、腰ひもで落ちないように巻くと長方形の形をした布がエプロンのように見える。


 そう、『ふんどし』である。


 専門用語で言うなら、越中ふんどし。つまり、赤フンである。


 雄一の後ろから駆けよってきたシホーヌが、お玉で雄一の頭を狙い、狙い違わずお玉をヒットさせる。


「ユウイチ! 何、テツに馬鹿させてるんですぅ! テツ、それはユウイチの国の何百年前にしてた男性用の下着ですぅ。ユウイチ、ちゃんとしたのも用意してあげるのですぅ」


 プンプンと怒るシホーヌを見つめて頭を撫でる。


 本来ならもっと引っ張って遊ぶつもりだったが、今回は助けられた事もあり、騙されたと気付いてフリーズしているテツのトランクスを取り出すと受け取らせる。


 フリーズが解けたテツが目をウルウルさせて、


「僕も何か変だなぁ……とは思ったのですけどユウイチさんが良い顔して渡してくるから信じたのに!」


 やっぱりおかしいとは思ったんだ……と泣くテツを同情的な視線で見つめる女性陣。


 トランクスを抱えて逃げるように木々の向こうに走っていくテツを見つめて、少し罪悪感を感じて頬を掻く。


「帰ったら、テツの好きなコロッケでも作ってやるかな」


 せめての贖罪と言わんばかりに、近日の食卓に並ばす事を決めた。



 テツ達が湖に入っていくのを見送った雄一達は、予定通りに釣り糸を垂らして釣りを楽しむ。


 2時間ぐらいすると明暗がはっきりしてくる。


 意外と短気そうなミュウが一番上手に釣りをしていた。


 今も、「ガゥ!」と声を上げると同時に竿を上げると魚を釣り上げている。


 その魚を針から外して雄一に見せてくるのを受け取って血抜きをして持って帰れるように陽の当たらないところで保管する。


 レイアは、釣りをする格好はカッコ良く決めているが、釣果は付いてきておらず、先程、1匹釣ったばかりである。


 そして、先程から静かに釣り竿を立ててるアリアであるが、コックリコックリと船を漕いで寝ている。


 アリアは、釣りよりもお昼寝のほうが楽しいらしい。


 ちっちゃい3人と対照的にイライラしながら、この調子だと坊主が確定しそうな2人がいた。


 大きな子供のシホーヌとアクアである。


 2人共、釣りたいという気持ちが強過ぎて、エサに魚が突っつく行動をするだけで、「来たのですっ!!!」と竿を上げるという行動を繰り返すのでエサだけを消費していた。


 しかし、アクアを見つめた雄一は思う。


 水に関わる同士は裏切れないみたいな事を言っていたが、これは問題ないのであろうかと……


 雄一は、ヤレヤレとアリアを胡坐を掻いた真ん中で座らせて、日向ぼっこをしながら溜息を吐く。


 ミュウのおかげで、どうやら冒険者ギルドの依頼は果たせそうである。


 スネ湖の魚を20匹納品という5の冒険者用の依頼が張られているが誰も受けないと言う不良依頼があったので、ついでにテツに受けさせてきた。


 湖を見つめていると岸に向かってくるテツ達に気付く。


 どうやら休憩を挟もうという事のようである。


 それを見た雄一は、焚き火の火力を上げる為に薪を放り込む。


 先程見た顔を見る限り、どうやら本命は難航中のようである。


 これは泊まり込みする覚悟で準備してきたら良かったかもしれないと少し後悔し始める。


 とりあえず、3人から話を聞いてからの事だと思った雄一は、火力の上がった焚き火でお湯を沸かし始めた。

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