第67話 お前の目で捜せ、らしいです

 テツが会場入りしたベルグノートを見つめる顔を見た雄一は、裏でコソコソやられた事を知ったようだと理解する。


 そんなテツを見つめて笑みを浮かべる雄一の脇腹を肘で突っつかれる。


「あの馬鹿、滅多に見せないマジ顔してるけど……ユウは何か知ってるように見えるんだけど、どういうことさ?」


 ホーラの言葉を聞いた面子が一斉に雄一を見てくる。


 こうも一気に見つめられて、ちょっとビビったのは秘密にしようと顔に出さずに顎に手をあてて誤魔化す。


「どうやら本格的に冒険者ギルドに介入されたらしく、ベルグノートは不正祭で、ヒャッハー、してるとこだな」


 何でもなさそうに、サラッと言ってくる雄一の言葉の重みを感じず、みんなは、「へぇー」と流しそうになるが意味が浸透して慌て出す。


「どういうことさ! そんな苦しい戦い、ううん、ヘタしたら戦いにすらならないさ」

「そうです。テツ君にそんな事を強いて何があるというのですか、先生っ!」


 憤るホーラの頭をポンポンと優しく叩き、静かな目でティファーニアを見つめる雄一が口を開く前に雄一は声をかけられる。


「やっぱり、冒険者ギルドに報告したほうが良かったんじゃないんですか? アニキ」

「来たか、で、アイツの反応はどうだった?」


 声をかけてきたのはリホウであったが、雄一はリホウの問いかけを無視してエイビスの反応について問いかける。


 リホウを見て目を丸くするティファーニアは、雄一とリホウを交互に見つめ、混乱しているようだ。


「はぁ、それが俺もあれにはビックリでしたよ。あの大商人が、感情を爆発させるようにして喜ぶ姿を見る機会に出会えるとはね……後、アニキの言う通り、準備完了だそうです」

「やっぱりな、こっちがやりそうな事はお見通しだったか……正直、ヤツとは縁を持ちたくはなかったな……」


 溜息を吐く雄一に、もう我慢できないとばかりにティファーニアが揺さぶってくる。


「何故、テツ君を放置するんですかっ! なんで、剣聖リホウが先生をアニキと呼び、先生の為に動いているんですか! そ、それから、それから……」


 混乱が混乱を呼び、パニックになりかけるティファーニアを見て、逆に周りの者は冷静になったようでティファーニアを心配げに見守る。


「誰です? アニキに食ってかかるガキは?」

「あんまり機嫌を損ねるような事を言うとお前は後悔する事になるぞ? 俺がお前の居場所にと考えているポジションの大きい意味を持つ少女だ。逆にこの子が駄目だった時は、お前との約束はナシだ」


 リホウは、ゲッと唸るとティファーニアに「お嬢様、大丈夫です。一つ一つ、解決していきましょう」と変わり身の早さを見せる。


 フットワークとこの固執しない柔軟な頭とプライドを捨てられるところは、やはり適任だな、と雄一は思う。


 涙目で見つめるティファーニアの目線に合わせる為に屈む。


「まず、リホウは、ポメラニアンと縁を切った。俺の方に付きたいと言ってきたから、お試しでコキ使ってるところだ」


 雄一の言い様にリホウは、「アニキ、それはヒデェーですよ」と項垂れる。


 ティファーニアは、頷いてくるが本命はそっちじゃないと目が訴えていた。


「で、テツを放置したのは……何故さ?」


 いいから、さっさと話せ、とばかりにジト目で雄一を見てくるホーラに苦笑する。


「理由は2つある。1つは、前にティファーニアには話したと思うが、事務長の件を覚えているか? ポメラニアンと深い繋がりのある商人との話を?」

「はい、その商人と繋がりから冒険者ギルドに介入してる動きがあるとか?」


 それに頷く雄一を見つめるホーラは目を細めて考え込むと何かに感づいたようで、目に理解の色が宿る。


「中立でなければならない冒険者ギルドが介入されて動かされる状態では、今後、一般冒険者も困るが、コミュニティが下手をすると、とある者達の私設軍隊と変わらなくなる恐れがある」


 雄一の言う意味をやっと理解したらしく、顔を強張らせるティファーニアは声を震わせながら反論をしてくる。


「そこまで分かってるならギルド長などに直訴して、事務長を更迭するとかの手でも良かったんじゃ……」


 そういうティファーニアの肩にホーラが手を置いてくる。


「それじゃ、駄目なのさ。やっと、ユウがやろうとしてる事が分かったさ。ユウがやろうとしてるのは、不穏分子のあぶり出しと見せしめだよね?」

「ああ、いくら権力があると言っても事務長1人でなんとかできる訳ではないはずだ。それで済むなら、おそらくギルド長がとっくに手を打って終わっている」


 こういう地下に潜みそうなモノは、活気づくと抑えていた感情を爆発させるように表に出てくる。

 全てを駆除はできなくとも、後は自浄作用的に撲滅していける数まで減らす事ができる。


「それで、2つ目は何なのさ?」


 そう聞くホーラを見つめるティファーニアは、


「あぶり出しと見せしめで2つじゃないの?」

「その2つはセットで1つさ、だよね、ユウ?」


 頭の回転の良い長女に微笑み、頭を撫でてやる。


 雄一に頭を撫でられて顔を真っ赤にして睨むようにしてくるが、手を弾いてこないあたり、満更でもないらしいと分かり、笑みを深くする。


「そうだ、2つ目は別にある。ティファーニア。テツを良く見ておけ」


 そう言うと雄一は、開始の合図を待ちながらストレッチをするテツを眺める。


 やはり、それだけでは理解できなかったようで雄一は続きを口にする。


「ティファーニア、お前の将来の行く先に影響を及ぼす男をしっかり見ておく必要がある」


 そう言ってくる雄一の言葉にティファーニアは何やら勘違いしたようで、あたふたしてくる。


「べ、別に私はテツ君の事をなんとも思って……」

「悪い、少し、言い方が悪かったようだ」


 雄一は、勘違いして慌てるティファーニアに詫びると言い直してくる。


「今回の大会で、きっとテツは、お前になくてテツにあるものを見せるはずだ、絶対に見逃すな」

「先生、それは、どういう意味なのでしょう?」


 雄一の真意を探ろうとするように、ティファーニアは見つめてくる。


 その目を見つめ返す雄一は、


「その意味は、お前の目で捜せ」


 雄一の言葉を繋ぐように審判の開始の合図が響き渡った。




 開始の合図と共に飛び込んだテツが、見えない壁に剣を弾かれるような現象に戸惑っているのを見たリホウが唸る。


「やっぱり、そうか! あのクソガキが着けてる腕輪を見た時から、もしかしてとは思ってたが、それまで持ち出してきたのかよっ!」


 舌打ちしながら毒を吐くリホウに雄一は問う。


「あれは何なんだ?」

「あれは着けている本人に危害が及ぶと見えない壁を構築するんです。ポメラニアンは、ドラゴンのブレスにも耐えれると言ってましたが……正直、眉唾ですよ。なにせ、俺が魔剣で殴りかかった時、手応えを感じたところから壊せない事もないと思いましたから」


 リホウの言葉を聞きながらテツが乱打する姿を見て、頬を掻く


「どうやら、テツも同じ結論に至ったようだな」


 そして、テツが何かをやりそう、いや、やらかしそうな雰囲気を北川家一同が感じる。


「あの馬鹿、また、やらかすさ」


 ホーラが代表して、おでこに手をあてて、カチューシャの位置を直しながら溜息を吐く。


 ティファーニアとポプリ、リホウは、北川家の一同のする表情とホーラの言葉の真意が分からず、お互い、顔を見合わせるが、どうやら、分かってないの自分達3人だけと理解する。


 テツは、半身立ちするとベルグノートに指を突き付けて叫ぶ。


「絶対、お前を泣かすっ!」


 テツのやらかしを見た面子は、溜息を吐く者、目を覆って見ないフリをする者、カッコイイと呟くレイアと記憶の蓋が開いた者がする苦渋の表情のリホウがいた。


 雄一は遠い目をしてテツを見つめてティファーニアに語りかける。


「俺が見ろって言ったのは、アレじゃないからな?」

「ええ、勿論、分かってます」


 クスッと笑うティファーニアは、剣を構え直したテツを見つめ直した。



 そして、テツは再び、ベルグノートに斬りかかる為に飛び出した。

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