2章 DT、先生になる

第34話 トトランタに来てから1カ月が経ちました

 雄一は巴を肩にかけ、目の前で煩く騒ぐモンスター、オークの群れを睥睨する。


 首を鳴らし、一考するような表情を見せて首だけで後ろを振り返り声をかける。


「一度に30匹ぐらいならいけるか?」


 今日の夕飯はパンがいいか? ご飯がいいか? ぐらいの軽い感じに後ろにいる男女というには幼すぎる2人に問いかける。


「ユウイチさんが、僕達ならできると信じてくれるなら応えてみせます!」


 男女の内の男、少年は、胸だけを守るタイプの白いハーフアーマータイプを着こみ、髪は白髪で服が真っ黒というツートンと言う出で立ちをしている。


 白髪の少年は、目をキラキラさせそうな瞳で雄一を見つめてツーハンデッドソードを握り直す。


「バッ、馬鹿テツ、アンタは考えなしにユウの言葉に踊らされて、『はいはい』答えるんじゃないさ! ユウは、やるって言ったら本当にヤル男なんだからぁ!!」


 女の方の少女は、ミリタリーベストを羽織り、白のシャツの首元の隙間から細い鎖で編み込まれたモノをチラつかせてる。

 どうやら鎖帷子のようなモノを着こんでいるようである。


 辺りを警戒しながら、ベストから何を取り出すか悩んだようであるが、パチンコを取り出し、ビー玉サイズの鉄球を装填して見渡す。


 そして、能天気な事をのたまう少年、テツを後ろから背中をヤクザ蹴りして、こけさせる。


 顔から突っ込むようにコケたテツだが、立ち上がり土が付いたままの顔を輝かして少女にサムズアップする。


「ホーラ姉さん、男なら、取り返しが付く無茶は買ってでもヤレ、ですよ! ってユウイチさんがいつも言ってます!!」

「アタイは女さっ! 馬鹿やりたい時は、アタイを巻き込むなっ!!」


 少女、ホーラは、もう既に20匹を相手に戦った後という事を忘れてるのかっ!とテツの鼻を親指と人差し指で力一杯掴んで引っ張る。


 テツは、「ホーラ姉さん、痛い、ごめんなさい」と半泣きにさせられながら謝る。


 2人のやり取りを離れて見ていた雄一は、オークが痺れを切らして襲いかかろうとするのを目で威圧して押さえつけてから、2人に話しかける。


「そうだな、確かに、テツだけなら、頑張らせるところだが、ホーラは可愛い女の子だ……俺も譲歩が必要だと感じるな?」


 うんうん、と頷きながらホーラに笑いかける。


 ユウ……と呟き、目を潤ませるホーラ。


 テツは、仕方がないか、と諦め気味で、嘆息する。


「だったら、選ばしてやるよ? 2人で目の前のオーク100匹と戦うか、オークキング1匹と戦うか、好きな方を選ばしてやるぞ?」

「なっ、無茶な! しかも、最初の要求より酷くなってるさ!!」


 全力で突っ込むホーラと、一度、落ちたテンションが跳ねる事で、さっきほどよりも気合いの入るテツ。


「ホーラ姉さん、僕はどっちでもいいですよ! 好きな方選んでください!!」


 雄一は、「早く決めないと両方だぞ!」と区切るように言ってくる。


 ホーラは苦虫を噛み締めたような顔をして、今の装備の状況を確認する。


 投げナイフは使い切ってるし、ボーラもない。スリングはあるが、石を拾いながら常に戦うのは困難。パチンコの鉄球は20個少々……


 物理的に選択肢は1つと、ホーラは全開で溜息を吐く。


「オークキングを狩るさっ! テツ、アンタはアタイを死ぬ気で守るんだよ!」

「任せてよっ!」


 2人が腹を決めたのを見届けた雄一は、オークキングへと向かう進路にいるオークを巴の一振りの真空波でなぎ払う。


 そして、2人を見つめて、口の端を上げて笑う。


「いってこい」

「はい、いってきます!」

「ユウの馬鹿ぁ―――!」


 2人は、雄一が作った道を駆け抜けた。





 オークキングの前にやってきた2人は、ホーラが手始めにパチンコで頬に一撃を入れるが、痛みを感じさせる事はできているようだが、ダメージと呼べる威力は出せないと判断する。


「テツ、アタイが3発打ったら、一気に決めてきなっ!」

「はい、ホーラ姉さんっ!」


 そう返事を返したテツが、オークキングのホーラへの意識を奪うように、気合いを入れて両手剣を掲げて威嚇と共に殺気を飛ばす。


 テツの行動に威嚇し返すオークキングを見たホーラは、死角に飛ぶように移動する。

 すると、剥き出しになっている両足の親指を目掛けて同時に打ったかのように2発の鉄球を両方にほぼ同時にめり込ませる。


 さすがにこれは痛かったようで暴れるオークキングの足に意識が集中する、


 このチャンスを逃さず、3発目の鉄球をホーラから見えている左目を狙い、吸い込まれるよう打ち込まれる。


 見事に狙い通りに左目を潰す。


 オークキングは痛みから雄叫びを上げる。


 それを見たテツが、「いきますっ!」と叫んで跳び上がると大上段からオークキングを真っ二つにしようとする。


 運悪く、こん棒を痛みから無差別に振り廻され弾かれる。


 何度か、切り込みにかかるが、後先を考えない暴れ方で懐に入り込めず、それでも突っ込もうとするテツをフォローするためにパチンコを飛ばし続けていたホーラの残玉が1つになる。


 テツも膠着状態に陥り、緊張のせいか、体力の消耗からか、それともどちらとものせいか、滝のように汗を流しているのを見て、長くは持たないとホーラは思う。


 ジリ貧になり、負けるという思いが頭を過った時、ホーラとテツは思わず、後ろにいる雄一に目を向けてしまう。


 雄一は、既にオークを壊滅させて、腕を組みながら、静かな目でホーラとテツを見守り、口の端を上げて言ってくる。


「お前達なら勝てる。後の事は考えなくていい」


 その言葉で腹の決まった2人は前を見て、暴れるオークキングを睨みつける。


「最後の1発をお見舞いするよ? アンタも気合いを入れなっ!」

「はい、ホーラ姉さん!」


 テツは両手剣を斜め後ろに下げ、弓を絞る姿が見えるように力を溜め出す。


 ホーラは最後の鉄球を装填して引っ張りながら精神集中を始める。


「強化するのは、スピード。付加するのは、爆裂」


 何かの工程をイメージするように目を瞑るホーラが引っ張るパチンコの鉄球がある辺りに魔力が掻き集まる流れが感じられる。


 そして、収束する。


 瞑っていた目を開くとホーラは打ち放つ。


 先程までのとはケタが違う速度で跳ぶ鉄球が、オークキングのこん棒に直撃すると爆薬が爆発したかのように爆音と共に炎が上がる。


 オークキングの叫び声と炎の切れ目から見えるこん棒を持っていた右手の消失が確認される。


 炎が収まりきってない状態の中、白黒の塊がオークキングに切りかかる。


「あの馬鹿テツっ!」


 その言葉の直後、右手とこん棒もなく防ぐ術のないオークキングの首を刈り取るテツの姿がそこにあった。


 テツは、剣を掲げて高らかに叫ぶ。


「勝ったぞぉ―――!!!!」


 息が切れるまで、叫ぶと電池が切れたように、意識を刈り取られて地面に倒れ行くテツを慌ててホーラが支えようと抱き抱える。


「ほんとにこの馬鹿は……アタイも色々、限界なのに……」


 ホーラは、貧血を起こした人のように、ふらつき、テツを支えきれずに倒れようとするが逞しい腕にテツと共に抱えられる。


 見上げると、思ってた通りの人物に抱き抱えられ、微笑まれる。


「お疲れ様。よく頑張ったな……でも、俺は絶対にお前達ならできると信じてたぞ」

「それは、嬉しいさ。でも、次はもうちょっとお手柔らかにお願いしたいさ……」


 手のかかる弟を心配する姉の顔の下の1人の少女の顔を覗かせて、抱き締められ、安心したホーラは、少し胸をときめかせる男に甘えるように逞しい胸板に頬を寄せる。


「ホーラ、お前も魔力切れで起きてるのが辛いだろ? ちゃんと家に連れて帰ってやるから寝ておけ」


 そんな微妙な乙女心を解する神経を持ち合わせない雄一に苦笑をする。


「じゃ、お世話になるさ。本当のところ、起きてるのも辛くて、つら……くて……」


 ホーラは、話している途中でゼンマイが切れたオルゴールのように言葉尻が切れ、ゆっくりと瞼を落とし眠りにつく。


 雄一は、ホーラの顔に付く爆裂による土煙が起きた時に汚れたと思われる汚れを優しく払い、頬笑みを浮かべ寄りそうように眠るテツを見つめる。


 テツは、満足気に緩ませる頬を紅潮させながら、えへへ、と寝言を呟く。


「やっぱり、ウチの子は最高だな。どこの子にも負けてない!」


 ホーラ達が起きてる時には見せなかった、親馬鹿全開の緩んだ表情を晒して、しっかりと2人を抱えると我が家へ帰る為に馬車がある方向へ歩いていった。

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