第19話 教育パパになる事にしました

 早朝、台所に立つ雄一は、今日のお昼、最悪、夜の分も賄える物を作ろうと考えていた。


 トラブルがあるかもしれないし、最悪、帰るのが次の日になる恐れもあるからっと食材を見つめて、レパートリーから飽きがこなさそうなモノをチョイスしだす。


「となると、王道は、カレーかシチューかな~」


 カレーは、やっぱりご飯でという雄一の拘りから、今回は見送り、シチューならパンでも問題ないと判断して、シチューにする。


 人の好みは色々だろうが、雄一はシチューにご飯も容認派である。


 シチューの具材のチョイスを材料を見ながら考えていると、小さな女の子ばかり(一名、中身だけの者もいるが)である事から、遊び心を入れようと少し手を加えて、肉をそのまま入れずに肉団子にしてやろうと、豚肉を細切れにして、叩きながら、細かくなる続ける。


 細かく切った肉を確認して一旦、ボールに移すと今度は玉ねぎを微塵切りにして、同じくボールに移す。

 そして、卵、パン粉、牛乳、塩コショウを混ぜ合わせる。

 移したミンチ肉と玉ねぎを混ぜ合わせ、粘り気が出てくるまで混ぜながら、その混ぜている間に鍋を2つ用意してあった、片方の鍋にお湯を沸かし、沸いたところに酒を入れて、練り上がった肉を団子状にして、鍋に入れていく。

 肉を茹でてる間に、白菜を手早く切り、玉ねぎをクシ形に切ったものを空いてる鍋に油をひいて炒める。

 少し、火が入ったあたりで酒を少々入れる。

 白菜が水分を持っているので入れ過ぎにならないように様子を見ながら入れる。

 そして、一旦、火を止めて、小麦粉を混ぜながら投入していく。粉っぽさがなくなるまで、しっかり混ぜる。

 隣を見ると、肉団子もいい感じになってるのを確認した雄一は、肉団子の煮汁ごと、白菜が入っている鍋に投入するのと同時に、牛乳、コンソメを投入して、消していた火を再び入れて、煮立つまで混ぜながら、見つめ、煮立つと弱火にしながら、塩コショウで味を調整する。


 味見をしようと小皿にシチューを掬って、飲もうとする雄一のズボンを引っ張る存在に気付き、下を見ると指を咥えたアリアがいた。


 おそらく、目を覚ましたら雄一がいなくて、捜してたら匂いに釣られてやってきたのであろう。


「なんだ? 味見したいのか?」


 屈んだ雄一が、笑顔でアリアに問うと、アリアは小皿に視線を釘付けにしながら、ウンウン、と力強く頷き、若干、鼻息を荒くしていた。


 苦笑した雄一は、小皿のシチューを息を吹きかけて、冷ましてやってから、ほれっと、アリアに手渡す。


 目を嬉しそうにしながら、おそるおそるといった感じで小皿を口に持って行き、口に入れると眠そうにしてた目がぱっちりと開き、ピョンピョンと跳ね出す。


 雄一は火傷でもしたのかと心配して、コップに水を入れて差し出すが、目をキラキラさせたアリアが首を横に振りながら、小皿を雄一に差し出すようにして、まだ跳び続ける。


「アリア……もしかして、おかわりの催促か?」


 更に嬉しそうにしたアリアが、ん、んっと皿を差し出す。


 溜息を吐いた雄一は、皿を受け取る。


「これは、お昼のシチューだから、これ以上は駄目」


 そう言うと、裏切られたような表情をしたアリアが、両腕の小さい拳で雄一の逞しい太股を、交互に肩叩きをするように叩き、抗議しているようである。


 アリアの可愛い抗議に、ニヤけそうになるを耐えているつもりの雄一は、我慢しきれず漏れた笑顔で、アリアの頭を撫でながら屈むと言い聞かせるように大事な事を伝える。


「アリアが気に入ってくれたシチューだが、お昼に食べる時に温める必要があるんだが……絶対にシホーヌにはやらすなよ? 今日はホーラを置いていくから、ホーラに頼むんだぞ?」


 プンプンと擬音が聞こえそうな顔で怒っていたアリアであったが、シホーヌの件のあたりで真顔に戻り、生唾を飲み込むとゆっくりと頷く。


 その姿を見た雄一は、あの駄女神は見てない所で何かやらかしたな? と頭をガシガシ掻きながら、溜息を吐いた。





 シチューに時間をかけてしまったのが悪かったのか、朝食の準備に使う予定の時間が、思ったより無くなっている事に気付いた雄一は、慌てて朝食の準備に取り掛かった。


 シチューの匂いに釣られてきたアリア以外の3人娘を追い払い、買い置きしていたロールパンに切れ込みを入れ、バターとマヨネーズを塗り込み、レタスを挟み、それと一緒にスクランブルエッグを冷ましたモノを入れる。

 少し、多めに作り、余分が雄一のお昼に持って行く用にキープする事にした。


 振り返るとシホーヌが、ロールサンドを積んだ大皿に手を添え、これ、持って行けばいいのですぅ? と雄一に訴えるように見つめていた。


 呆れながら見つめる雄一は、シホーヌに問う。


「取り皿は?」

「アリアが持って行ったのです」


 間髪入れずに言ってくるので続ける。


「コップと牛乳は?」

「レイアとホーラが運んでるのです」


 なるほど……と呟く雄一は、シホーヌを静かに見つめ、


「良し、持っていけ、忠犬シホーヌ!!」

「ワン、ワンなのですぅ~」


 嬉しそうにワンワンと言いながら大皿を抱えて、台所を出ていくのを見つめる雄一は頭を抱える。


「いいのか? お前は一応、女神だろ? 女神としての威厳皆無だな……」


 そう呟きながら、手早く、残りのレタスを手でちぎり、皿に盛って、トマトと黄色のパプリカを色合いに添える程度、カットしたものをレタスの上に盛り、塩コショウを振りかける。


 皿を持ち、嘆くようにした雄一は、言いだしたのは自分だが、躊躇なく便乗するアホ毛女神を残念に思い、溜息と共に追いかけて食堂へと向かった。



 そして、今日、新たに決意した事が雄一にはあった。


 遂に動く時がきた、あの食事のマナーを知らない者への鉄槌を下す。


 がっつくように食べる2匹の獣にアクションを取る事を決めた雄一が、食い散らかして、口の周りを汚すレイアの口許を甲斐甲斐しく拭う事で、顔を真っ赤にするレイアに微笑むという攻撃を仕掛けると、若干、おとなしく食べるようになった。


 シホーヌは、鉄拳制裁という訳ではないが、チョップ制裁で勘弁してあげたが納得できないようだったので、デコピンを入れる事で、涙を流しながら、おとなしく食べ続けた。


 あれほど泣きながらでも、食べるシホーヌはおそるべしである。


 食べ終わった雄一は、今日の予定を特にホーラにしてなかった事を思い出して、牛乳を飲みながら話始めた。


「そうそう、今日は俺一人で行ってくるからホーラは留守番な?」

「えっ? あ、アタイも……ううん、分かった、そうするさ」


 ミチルダに1人でと言われた事と、足手纏いになると思ったようで、伏せる顔が痛々しかった。


 ホーラの身の安全を考えた事は否定しないが、今日はやっておいてほしい事もあったのである。


「ただ留守番して欲しいって話じゃないんだ」


 そう言うと、雄一は1冊の本を取り出し、ホーラに渡す。


「これは、何さ?」

「昨日、シホーヌから貰った本で、生活魔法の使い方が書いてる本なんだ。ホーラもまだ使えないだろ? 俺は、読んでもう使えるようになってるから、気兼ねなく使って覚えてくれ」


 雄一の言葉に、再び、俯くホーラを見て、どうしたんだ? と問いかける。


「せっかく貴重な本を貸してくれたのは、嬉しいさ。だけど……アタイ、字が読めないさ」


 驚いた雄一が、依頼書はどうやって読んでいたんだっと聞く。


「最初は、受付嬢に聞きながらやってたさ。必要最低限の単語だけ覚えて、なんとなく……」


 これは、必要に駆られてだったのだろうが、駄目なパターンだ、と思った雄一はシホーヌに目を向ける。


 雄一の視線を受け止めたシホーヌが、頷くのを見た雄一は話を切りだす。


「シホーヌ、今日、ホーラに生活魔法を教えてやってくれ。で、合間の時間をこれから使って、少しづつ、言葉を教える方向で頼む」

「分かったのです。任せて欲しいのです」


 ドンと胸を叩いて、胸を揺らす。


「ありがとうなのさ。勉強できる機会がくると……思わなかったさ……」


 嬉しそうにするホーラの頭をグリグリと撫でながら雄一は聞く。


「計算はできるのか?」

「両手の指の数を超えると……」


 なるほど、そのレベルか……と思った雄一が、シホーヌを振り返ると明後日の方向を見つめていた。


「シホーヌ……お前もか?」

「違うのです! 私は頑張れば100ぐらいまでは、足し算できるのです!!」


 駄目だこれは、と思った雄一は、


「シホーヌ、ホーラ。2人とも四則演算はできるとこまで鍛えるからな?」


 2人が顔を青くするのを見つめるが、絶対に覚えて貰うと雄一は腹を決める。



 この世界では、四則演算ができるという事は、元の世界で高学歴と呼ばれる、一流大学を卒業するようなモノである事を、雄一が知るのは、何年も先のお話になったりします。

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