第63話 水際の攻防
「エリオットさん。僕明日から仕事で少しお休みしないといけないんだ」
「へぇ。そりゃあ、急だな。「特務」の関係か?」
休憩時間。お茶を飲みながら、凍太はエリオットへ呟いた。
「うん。月狼国に海賊団討伐の為にしばらくお休みするんだ」
「はぁ―――やっぱりこうなっちまったか。仕方ねぇ。で、仲間は?一人って訳じゃねぇんだろう?」
「うん。今回はハンナさんと皐月。僕、ミライザだって」
「特務が二人。後は騎士課と科機工の一桁組か。随分、豪勢なメンバーだ。そういえばいつものエルフの友達はどうしたい?」
「アナトリーは今回はランドルフ先生と出張中だって」
「そうか。まぁ、女ばっかりでめんどくさいだろうががんばれよ」
ぽん――――と肩を叩かれた。
「もう慣れたよ」
とうたは諦め顔でつぶやく。
男が少ない以上こうなるのは、仕方ないこと。
この世界にすむ以上これは仕方がない。
とうたもこの11年を生きてきて周りが女だらけと言うのは慣れたし、下手な男よりも女のほうがよほど実力があることもわかっていることだ。
「だから代わりを雇ってください」
とうたはご免なさい・・・・とつぶやく。
「なあ、別に気にすることじゃねぇんだ。また帰ってくる時までお前さんの席は開けておくさ」
エリオットはとうたのほうを見ないで言った。
▽▼▽▼▽▼▽▼
「来ないほうがいいわ」
南吠より前に襲われ廃墟となった崔西の港町に入るなり
ハンナは凍太を現場より遠ざけようとして、皐月に振り向かずに声を上げた。
「皐月、凍太ちゃんをお願い」
「畏まった」
ハンナは死体の側で静かに言った。
皐月が前にいるために、良くは見えなかったが、おそらく死体の状態がひどいのだろう。
「他のところを見分するでござるよ」
皐月が凍太の手を引き、死体のないほうへと誘導していく。
(ありがとうね。皐月)
ハンナは離れて行くとうた逹を確認してから、再び、死体へと向き直った。
「どうにゃ?」
「何度も犯されたんでしょうね」
目の前には複数の女の死体があり、とれも、ひどく犯されたあとがあった。
下半身は割けている跡まで見受けられた。
「埋めてやるのがいいにゃ」
ミライザは瓦礫をどかしながら呟き、ハンナもその意見に従うのに
反対する気はなかった。
(酷いでござるな)
皐月はもとは港であった辺りを見分しながら歩く。
潰された船や死体が海に浮かび、漂っていた。
「あまり良く見ない方がようござる」
皐月は凍太にあまりに酷い現場を見せたくないのだが、死体はそこかしこにあるため、見ない訳にはいかないかった。
「大丈夫だよ」
「無理をせず、拙者の影に居なされ、凍太殿にはまだ早うござる」
皐月は凍太を抱きしめ、自分の胸に凍太の頭をホールドした。
「死体なんか平気だよ」
「今は見なくてようござる。どのみち後には海賊征伐がござるゆえ」
皐月の声が風に冷たく溶けた。
「それじゃどうしようかしら」
街の死体をあらかた埋め終わったあとでハンナが呟く。
「どうしようとは?」
ミライザは耳をピクリと動かした。
「ここを捨てるか、ここで闘うかよ」
「南吠港を守る方がようござる」
皐月ははっきりと告げた。
「海賊の次の的は、南吠で間違いないにゃ」
ミライザも同じ意見だった。
「でも、そうなると市街戦になるわ。きっと街の人逹を巻き込んでしまう」
「それでも、ここには海賊は来ないでござる。南吠だけは守らねばならぬ」
「でも・・・・」
「大丈夫だよ」
静に響いたのは凍太の声だった。
「きっと僕逹が何とかして見せるから」
凍太はハンナに、小さくうなずいて見せる。
「どのみち、アタシ達が負ければ、南吠港は全滅にゃ。それなら町中で多少犠牲が出ても一丸となって戦うべきだとアタシは思う」
「左様。どのみち無傷とは行かないはず。なれど、傷がない戦いなどあり得ん」
皐月も頷いた。
暫く沈黙をしていたハンナだったが――――
「もう後がないんだものね―――決めたわ。私も南吠に行く。そこで何としても海賊を止めてやるわ」
「その意気だよ。ハンナさん」
ハンナの一言に皆が頷いた。
▽▼▽▼▽▼▽▼
「何とか間に合ったわね」
ハンナはあの後、少しの休息をとり、急いで南吠港へと向かった。
廃墟となった崔西の港から、半日ほどで南吠の港町は姿を4人の前に現した。
街には各ところに篝火が焚かれ、夜でも街をあかるく照らしている。
それだけではない。逆茂木が組まれ、バリケードとして浅瀬にいくつもの壁を作っていた。
おそらく、船の侵入を少しでも送らせる為に。
街道に続く通路は門が閉ざされ、門衛が上から常に見張りをし、滅多なことでは門を開かない有様だった。
「蛇の王国所属の4名。ハンナ、凍太、皐月、ミライザです。街長はいらっしゃいますか?」
街の奥に立てられた木造の大きな屋敷に街長はいた。
「あたしがここの領主、
領主の顔が落胆に代わる。が、
「並の魔術士ではないにゃ。安心すると良い」
横合いから口をはさんだのはミライザだった。
「へぇ――――お嬢ちゃんも並じゃないのかい?」
「左様。我らは並ではござらん。特にこの子供とこの女人は別格にて。ご安心召されよ。領主殿」
皐月が凍太とハンナを指し示す。と、領主が肩をすくめて見せた。
「この子とこのネーさんがなんだっていうんだい?相手は海賊だ。場違いにもほどが――――」
「お言葉ですが、このハンナ・キルペライネンを信用していただきたい」
ハンナが名を名乗ると、領主の周りにいた住民の一人が
「もしかして『聖女』ハンナか?」
と言い出した。
「ええ――――間違いなく『聖女』です」
ハンナはわざと大きめに声を張った。肯定の意味を込めて――――すると、
「すげえ!『聖女』が来てくれたぞ」
「本モノの聖女だ」
と周りにどよめきがはしる。
「ちなみに、この子は凍太。我が蛇の王国が誇る『氷帝』です」
自己紹介をされ、ペコリと頭を下げると―――― 一斉にまわりがざわつき始めた。
「おい・・・・・アレが氷帝だってよ」
「随分小さくねぇか?」
「馬鹿!――――聞こえたらどうすんだ。殺されてまうど」
ハンナの時とは違い、明らかに腫れ物に触るような、怖がっている印象がまざまざと見て取れる。
(なんでこんな退かれてんの?)
ハンナの時は希望が、自分の時には畏怖が。
正直に言ってとうたは悲しい気持ちになった。
「聖女と氷帝か、、、で、あんたらは?」
拙者は皐月。騎士課で序列は3位でござる」
「科機工課、ミライザ。序列は4位ニャ」
「へえ、ずいぶん序列が上なんだね。安心したよ。王国もそれなりに本気って訳だ」
「必ずこのまちは守って見せますので、御安心を」
おおおおーーーー
ハンナが最後に締めの言葉を放つと
場が一斉に沸き立った。
「市街戦になります。被害を減らす為にも待避をお願いします」
「いや、ここはあたし逹の街だ。あたし逹も残って闘うよ」
領主の声はそのまま、意志を反映しているかのように硬い。
「それは、皆の総意なんですか?」
「ああ、崔西の街のやつらの仇も取ってやりたいしねーーーーそうだろ?皆」
「そうだ!」
「海賊なんかにこのまちをやらせるもんか」
口々に、住民が呟く。
「わかりました。では、住民の皆さんにも協力して頂きます」
ハンナは頷き、決意を固めた。
南吠街は港を中心とした街作りがされている。
具体的には、港を中心に三本の通りが東側、西側、真ん中に走り、西側の道はそのまま、今は閉じている大門と、陸路へ繋がっている。
「敵を分散した方がいいわ。皐月はどう思う?」
「拙者も、どう意見でござる。ただ――――」
「どうやって分散させるか?だにゃ」
ミライザが補足をした。
「それなら、港から一斉に三方向に逃げりゃいい。敵は皆殺しが心情の連中ばかりだ。それに相手が女と子供なら、なおのこと、追いかけてくるはずさ」
「わかりました。合図は私―――ハンナと、皐月。それに凍太で。お願いするわ」
「あたしは?」
「海賊の親玉を狙撃して貰うわ。できるわよね?」
「任せるにゃ。頭に風穴を開けてやる」
ミライザは不敵に笑って見せた。
「合図は独自の判断でいいの?」
「任せるわ。とりあえず港で少し食い止めてから、敵を分散させる。各通りには――――そうね。投網でも用意しておいて欲しいかしら」
「投網?そんなもんなんに使うんだい」
領主が怪訝そうな顔をハンナに向けた。
「敵が真下を通ったら上から被せるの。絡まって身動きできなくなるはずよ」
「はっは。そりゃいいな。投網なら沢山あるしね!」
領主はにやついてみせた。
「あとは油ね。投網に染み込ませておいて。頃合いをみて燃やすわ」
「油も魚からとったもんがあったはずさ」
領主が聞くよりも早く住民の一人が
「在ります。魚油なら」
そう答える。
「なら決まりだね。皆、投網と油を用意しとくれ」
領主の一声で、住民逹が動き始めた。
「あとは、どうするんだい?」
「放火なんてどうかな?」
凍太の意見にハンナは首を傾げる。
「えっと、ミライザさんに相手の首領をやっけてもらうんでしょ?だったら船も燃やすのはどうかなって。油があるなら、相手の船に撒いて火をつけちゃえば」
「そうね。ミライザやれる?」
「まあ、行けるとは思うにゃ」
「なら、決まりね。あとは――――」
こうして軍義は夜まで続き、相手を殺す算段が着々と練られて行くのであった。
▽▼▽▼▽▼▽▼
それから、7日がたった頃、海賊は夕闇と共に姿を表した。
一艘の大帆船がゆっくりと港にちかずこうとしている。
が――――
ガガガガガ、と船がなにかにぶつかるような音がしてうごきを鈍くした。
「どうしたぁ?」
「流氷です!お頭!」
「流氷だぁ。バカ言うな!この海域はそんなもん出るはずかねぇ!」
「本当なんでぇ!前が流氷だらけで進めません!」
急いで舳先へと向かう――――そこで目にしたのは海面を覆う辺り一面の流氷だった。
「なんだこりゃ!この間来たときはこんなもん何処にも―――」
目の前にはすぐ、獲物となる港が見えているというのに。
頭である男は、ぎりぃ―――と奥歯を悔しさで噛みしめた。
「こうなったら流氷を渡って上陸しろ!いいか!お前ら!」
後ろを振り返り、激を飛ばした瞬間だった。
―――――タァン。
何かが弾けるような音がして、次いで―――頭であった男の頭が弾け、甲板に血が飛び散った。
「――――――!!」
声にならない悲鳴を上げる海賊。ついで、その海賊も―――
―――――パン。
側頭を何かに打ち抜かれて頭の中身を弾けさせる。
数瞬後―――
船内は大騒ぎとなった。
▽▼▽▼▽▼▽▼
「取ったにゃ」
港の先で寝そべったままの姿勢のまま――――ミライザは銃に取りつけられた望遠レンズをのぞき込んでいた。
「奴ら、大騒ぎしてる。どうやら当たりだったかにゃ」
ミライザは今しがた撃ち抜いた相手が頭であると確信した。
(派手な格好してるからだにゃあ・・・・くく)
ミライザの銃は特別製の狙撃特化型だった。エンリケが開発した新型銃をコピーした最新型でおよそ500メートルは殺傷範囲。
新型の望遠レンズを合わせれば止まっている相手を打ち抜くことなど造作もないことだった。
「さて――――つぎは」
ミライザはから流氷の上を夜陰に乗じて走り出した。
動く流氷の上は足場が悪かったが、猫族の身体能力とバランスをもってすればなんなく移動できた。
(ふふん。軽い軽い)
ミライザはハンナの指示を頭の中で反芻した。
『いい?狙撃した後は、船に移って船員として内部を攪乱しなさい。ここに居ると殺されるぞ!って言って回るのよ。ついでに燃やしちゃっていいわ』
船体後方から上がりこみ、手近にあった空木箱の中魚油を注ぎ込み――――魔術で火を付ける。
一瞬にして火は燃え広がり、船体後方に火の手を広げだした。
「よく燃えるにゃ」
火の手が存分に船体に移ったことを確認したミライザは、頭を布で隠して船体後方から甲板へ移動し始める。
そこで――――すでに混乱している甲板上で声を上げて叫んだ。
「後ろから火がついてるぞ!!焼け死ぬ間に早く岸に移動しろ!」
――――と。
船員たちの幾人かが消火の為に船体後方へと向かうと、既にそこは火の海。
消火できないことを悟った船員たちは甲板全体に避難をするように叫び始めた。
(くくくく・・・・逃げるがイイにゃ、ただしその先は地獄だけど)
ミライザは甲板上へあらかたの人影が無くなったのを確認して自分も外へと飛び移った。
▽▼▽▼▽▼▽▼
「おい!ここ渡れそうだぞ!」
帆船から降りた海賊たちは流氷の一部がなぜか固まって一本の道になっているところを見つけて、進みだした。
固まっている部分の幅は人2人がようやく通れそうなほどで、ところどころ亀裂はあったがなぜか一本橋のように港へと続いている。
「やった!助かるぞ!」
列をなして、前にすすむ海賊達だったが―――その先には一人の人影が待っていた。
「なんだありゃ―――じゃまだ!どきやがれ!」
目の前に立ちふさがる人物に先頭の海賊が手に持っていた剣で切りつけようとした瞬間――――首が落ちて、辺りに切り口から血をまき散らしながら海賊の身体が倒れた。
「残念で御座るな。おぬし等はここで全員なかよくあの世行きでにて―――」
海賊の頭を切ったであろう人物が大刀を抜いて立ちふさがる。
「誰だてめぇ!」
「蛇の王国『騎士課』第三位。皐月。故あって主らを根切りに致す」
「なにしてんだ!早く進みやがれ!」
海賊たちが詰まって進めなくなっていると、そのうちに前から大刀を振りながら皐月がずんずんと進んでくるのが見えた。
たなびく金髪と血しぶきが前から上がり、前からは悲鳴がひっきりなしに聞こえていた。
「ひぃぃぃぃ」
すぱり、すぱりと首を撥ねるが――――そのうち皐月がくるりと身を翻しながら一目散に港へと引き返していった。
何人か前で斬撃が止まり、かろうじて生き延びた男は――――ざくり―――
後ろから他の海賊に心臓を貫かれることになった。
「止まってんじゃねぇ!」
「アイツを追え!生かして返すな!!」
誰かが叫ぶ。
海賊たちは呼応して、皐月を追うべく次々と氷の一本道を進んで行くと、ようやく港の桟橋が見えた。
が―――――
「ご苦労様」
そこには今度は皐月とそのほかに、二人、人影が見えた。
「ご苦労様」と呟いた女の方が手に持っていた金属杖で一本橋を「ごつん」と強めに叩きつけると一本橋の終端が砕けて海中に没した。
「な―――」
勢いのついていた海賊たちは終端が無くなった一本橋の上で渋滞を起こし、一人、また一人と、海に落ちて行った。
ようやく浮かんで、流氷にしがみついた者もいたが、
「雷よ!」
港の先に立っていた女――――ハンナの放った雷を食らって皆、黒焦げになって焼け死んだ。
それでも、海賊たちは止まらなかった。
海に浮かぶ流氷を足場にして、一本橋以外からどうにか上陸した者もいた。
「手こずらせやがって」
逆茂木を乗り越え上陸した海賊達は目の前にいた子供目がけてナイフを付き込むが
ナイフは空を切り、逆に海賊は手首を極められて、地面に膝をつく羽目になった。
「氷棺」
子供はなにかを呟くと、続いて二人目を氷柱に閉じ込め、後ろに続いてきた海賊も飛び蹴りで海へと突き落とし―――
「凍れ!!」
再度、海面を凍らせることで身動きを封じた。
子供―――凍太の放った広範囲の魔術によって海に浮かんでいたものはすべて氷と成り果てた。
そこまでしてようやく――――
岸に上がろうとしていた海賊たちの動きが止まった。
「あたしたちが憎いかしら?だったら追いかけて来るといいわ」
ハンナは上からの目線で。
「どうにも弱い御仁ばかりにて――――拙者と張り合えるものはおらんのかのう?」
皐月は挑発的に笑う。
「こんなガキに負けて悔しくないの?僕が一番ねらい目だと思うけどなぁ」
凍太は小馬鹿にした様子で相手を焚きつけた。
この時点で相手は推定40人ほどが残っていた。
魔術士3人にしては少ない数だが――――完全に駆逐しなくては意味がない。
それに崔西の港で殺された者の親族もここには大勢いるのだ。
その者たちに仇討の機会を与えてやるところまでやらなければならない。
中央、東側、西側それぞれには民家の屋根の上に住民が油のしみ込んだ投網をもって待機している。
「なんとしても引きずり込んで、塵にしてやらなければ」
それが魔術士4人と住民の総意だった。
▽▼▽▼▽▼▽▼
「ガキが、待ちやがれぇぇえ!」
「あの女を追え!捕まえて犯してぬいてから、殺せ!」
「舐めやがって!あの金髪ぷっ殺してやる」
3方向に逃げる3人を海賊たちが追っていく。
その光景を確認したミライザは銃の望遠レンズを覗きながら屋根の上から戦況を眺めていた
(東が11。中央が20、西が9)
東側はハンナ。中央は凍太。西に逃げているのは皐月だった。
(加勢は要らないにゃ。後は逃げるやつを潰すか)
ミライザはそう判断して港の入り口近くの屋根へと飛び移る。
(ここなら逃げるやつは丸見えにゃ。打ち漏らした奴は任せてもらう)
猫は銃眼をのぞき込みながら神経を研ぎ澄ませていった。
一方その頃、中央の道に逃げた凍太は予定の場所を通過し――――
クルリと相手側に向きなおって――――とん。と足を道の石畳の上で打ち下ろした。
「――――!」
気づいた時にはもう遅い。
あっという間に石畳の上が凍結し海賊達の足元を凍らせスリップさせていった。
一人転び、二人転び―――20人のうち半数以上の足が止まった所で
「いまだ!」
凍太は上に向かって合図を叫ぶ―――と、
「おらぁ!食らいやがれ!」
上から罵声と共に油がしみ込んだ投網がいくつも投下された。
「ぐあ――――なんだコレ。絡まりやがる!それもベトついて――――」
「油だ!油が塗ってある!」
「くそ!下が滑って――――」
凍太が手を上げ――――「用意!」叫ぶ。
と、いままで隠れていたのだろう。屋根の上から何本もの火矢を持った住民たちが姿を見せた。
「嘘だろ!こんな状態で火矢なんか――――」
「やめてくれ!助けてくれ!」
海賊達はもはや恐慌状態だった。が――――
「放て!」
無情にも凍太は手を振り下ろした。
投網の上から火矢が次々と打ち込まれる。矢が海賊たちの身体に何本も刺さり、火は油のしみ込んだ投網に引火して燃え盛り、下に居た海賊どもを焼く。
すでにこと切れている海賊たちが殆どだったが―――中にはもがき苦しんで焼け死んでいくものもいた。
やがて、最後の一人がこと切れると――――中央通りからは歓声が上がった。
▽▼▽▼▽▼▽▼
中央から歓声が上がるのを、皐月は西に逃げながら聞いていた。
(やったでござるな)
9人ほどの人数しかついてきていないが――――仕方ない。
皐月は大門の前でクルリと敵に向きなおった。
「このアマ―――――追い詰めたぜ。覚悟するんだな」
海賊の一人が武器を手にじりじりと詰め寄る。
「今でござる!」
皐月が叫ぶと、上から何かが海賊どもに振りかけられた。同時に門衛が上から火矢をつがえて海賊達を狙っている。
「キタねぇぞ!テメェ」
「汚い?――――何をいまさら言うかと思えば」
皐月は相当に不快なのだろう。犬歯をむき出しにして唾を吐き捨てた。
「なら――――相手してやる。かかって来るがいい。クソ虫共」
「おい――――皐月さん。こんな奴らの相手をする事は―――」
門衛の一人が叫ぶが、皐月は
「ご案じめさるな。しっかりと首にして見せまする」
とん――――と大刀を肩に担ぎ、「膂力増幅」「反応速度増加」と小声でつぶやき魔術を自分の身体に上掛けしていく。
皐月の得意とする肉体増強系の魔術であった。
「スキありぃ!」
「がら空きだボケが!」
海賊のうち二人が両側から皐月の隙を狙って左右両方から襲い掛かる
が、
「な―――――んだと」
右から襲い掛かった海賊は喉を大刀で突かれ―――
左から襲い掛かった海賊は左手で引き抜いた小型の剣で手首を切飛ばされていた。
「う――――腕が!うでがァ」
「煩い」
そういうと大刀を振り上げ袈裟懸けに左の海賊を真っ二つに両断する。
「さぁ――――次は」
皐月が首を向ける。
視線の先ににはおびえ切った海賊共。
もはや、勝負は見るまでもない。
ただただ作業のように皐月は大刀を振るい、切っていくだけ。
攻撃をしようと海賊が腕を上げても、皐月はそれより先に首を落とす。
「助けてくれェ!」
逃げようとした海賊が背を向ける。
これも皐月が後ろから胴を薙いで真っ二つに分けた。
「すまぬな。皆さま。見苦しい所を見せ申した」
すべての海賊を殺し終えたあと皐月は住人に頭を下げたのであった。
▽▼▽▼▽▼▽▼
「追い込んだぞ!覚悟しな」
「こんだけの人数に犯されるんだしんじまうかもな」
「私を抱く?面白いわ。やってごらんなさい?できればだけどね」
そういうとハンナは鋼鉄の錫杖の束で手近にいた海賊の顔を突いた。
「てめえ!」
ふわりと今度は錫杖に乗って上空へとまい上がり
上から何かを蒔いた。
「さぁ巻き付きなさい」
ハンナは上空に浮いたまま下を見下ろしクスリと笑って見せた
上空から撒かれた物体は魔食植物の「種」であった。
撒かれる寸前に、豊富な魔力を、注入された植物は、地面に着くなり急激に成長を始め、海賊逹にからみはじめた。
「があああ」
悲鳴を上げながら海賊逹は植物の蔦に絡まれ、あっというまに動きを止めた。
「今よ!」
ハンナが合図をすると、通りの屋根から投網が投げこまれ植物に見る見るうちにからまり解けなくなっていった。
「ハンナさん。早く打たせてくれ!」
住人の一人が強く言った。
火矢をつがえたままで。
「そうね・・・あなたたちの手で最後は終わらせなくっちゃ」
食魔植物に覆われ身動きが取れなくなっている海賊達はハンナのその言葉を聞いて一斉に命乞いを始めた。
「悪かった!助けてくれ!このままだと潰れちまう!」
「助けてくれ!死にたくない!」
食魔植物内部から聞こえる悲鳴が幾重にも重なり合って―――やがて最高潮を迎えるころ。
住人の一人が叫んだ。
「お前らに殺された、俺の子供の恨みを思いしれ!」
「俺の恋人を返せ!」
「死んで――――償え!」
連鎖するように罵声が飛び交う。
そして――――やがて火矢が放たれて――――食魔植物もろともに海賊達は焼け死ぬことになった。
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