第8話 世界の事について
太陽が昇り、周りが明るくなったころ、朝食を済ませた凍子と町長の雪乃は二人で凍太の今後の方針について議論していた。
「あの子は武官として育てるべきです」これは雪乃。
「いいえ。凍太は文官にするべきです」これは凍子。
王宮である
雪乃曰く、「文官は諸侯または貴族が通例としてなるもの。庶民の出でなったものなど一握りしか、いませんよ」と言い
凍子は
「武官なんて戦争に駆り出されるんですよ!わたしはこの子をそんな危険な目に合わせるわけには行きません」
と言う。
「それに戦といっても前線だけではない。この子に十分な知識を教えれば、諸侯の軍師になれる可能性はあるのです」
「それだって、妖術や魔術、弓矢が飛んでくる事だってあるじゃないですか?それに・・・・私はこの子に人殺しの手助けはさせたくないんです」
「甘い。文官は人殺しの手伝いを知らない間にしていることがあるのですよ?王宮は権謀術数に毒殺等が往々にして起こるところ。人の皮をかぶった悪魔たちの住処ですよ?そこに凍太を文官として、上げるなど、この婆は反対です」
でも!、しかし!
かれこれこんなやり取りが半時ほども続いている。
どちらも、凍太を思ってのことだったのだが今、凍太はここにはいない。
部屋で紗枝がお守りと、学習を行っている時間帯なのだ。
2
「仮に、武官として、育てるにしたって、私は術士にするべきだと思います」凍子は強い口調で言った。
武官になるにしても、なるべく被害の少ない、剣で切りあったりすることが少ない所で凍太を生活させてあげたい。そんな思いからの意見だった。
「術士ですか・・・・確かに雪人は、氷雪の術を得意としますが・・・・それは、あくまでも『雪人』として生まれた特性からにほかなりません。あの子は人族。生まれつき「水雪氷」の術に有利な体質を持っているわけでもない」
「でも・・・・」
「それに、武だって己の身を守るということに対しては、重要なことなのですよ? 私わたくしは自分の身を守れないで死んでいく文官を何人も見ました。毒殺。撲殺。あるいは事故に見せかけての殺人。暗殺者に襲われたなんてのも、ありますよ?」
「真にあの事を思うなら、『文』だけでなく『武』も教える必要があるのではないですか?凍子」
3
そのころ――――
紗枝さんと俺は、自室での学習を行っていた。
今日の科目は地理と社会学。ノリとしては今ある状況を学んでいる。そんな感じだった。
大陸は3つ。 西の大陸。 東の大陸。 南の大陸。学名は付けられていないらしい。
西の大陸は大型で北に半島突き出ている感じらしい。そして東の大陸----雪花国もこの大陸の一部は西の大陸からみて北東の方向にあって
年中通して涼しい気候なんだそうな。 南の大陸は別名、『荒れた大陸』なんてよばれて、ならず者や犯罪者、魔物や危険生物がわんさかいるらしい。
国に関しても説明があって、まず西の大陸の大半を占める ローデリア共和国。
商業国家の寄り集まりで、人族や白耳長族エルフと呼ばれる人種がいること。 貴族議員制で王族はおらず――――弑逆されたそうだ――――今は商業で儲けた、一部の成金や貴族等が町の代表者として地域を統治して、年二回の議員会議で町間の取り決め等を行っているのだそうだ。
対して、東の大陸は月狼国という王政国家が大陸を統治し、国主のもとに各諸侯が集うという方法で成り立っている。
政を行う、
その二つの下に諸侯、及び、貴族層があり、士と呼ばれる層があり、その下が庶民となっている。上から、王 狼卿/月史 諸侯/貴族 士 庶民。でも最も驚くべきことは、奴隷制度があるということで、これはこの世界のどこでも-----ローデリアでも月狼国でも南の大陸でも変わらず、奴隷は、最下層で庶民の下となっているらしいことが、紗枝さんの講義でわかったことだった。
ほかにも、各地方での特色などと----
立て板に水な速さで、紗枝さんは本を片手に説明をしてくれる。もちろん、ノート、シャーペンなんてものがあるわけでもないので対面しながらの読み聞かせで。
(内容が多すぎてさ・・・頭いっぱいなんだけど)
そんなことを思いながらも、あくびが出ていた。
「凍太さま?」
一瞬びくっとして、すぐさま紗枝さんに向きなおる。と----そこで、「ご飯ですよ」
襖の向こうから おばあさまの声が掛かった。
4
お昼は温かいフォーによく似た食べ物が出てきた
温かいスープに平たく延ばされた麺状の物体が入り周りには、トッピングやらおかずやらが、多めに盛り付けられていた。
「まんま!まんま!」
目の前の食事を見ながらはしゃぐ俺。紗枝さんのお乳はありがたかったが、最近は離乳食ぽい食べやすいモノが食卓に並ぶことが多くなっていた。
「おなかが空いていたんですね。眠そうにしていましたし」
紗枝さんは隣左となりに座って小皿に俺用のフォーを取り分けてくれた。ちなみに、使っているのは竹でできた箸。
右隣にすわる母さん(トウコさん)は俺の顔をじっと見て何かを思案しているようだった。
「では、今日もおいしいご飯が頂けることに感謝して――――」
「「「いただきます」」」
おばあさまのいつもの言葉に続いて「いただきます」が言われて食事が始まる。
最初は静かに食べていたのだが、おかずや、トッピングが少なくなるにつれて、みんなの箸の動きが素早くなって、やがて腕全体を使ったガードや箸で相手の腕をぴしゃりと叩いて、その返しでおかずを掻っ攫う。そんな動きが出始めた。
(またか…)
目の前で行われるカンフー映画のような動きに目を奪われていると、母さんが、蓮華のようなスプーンでエビによく似た揚げ物を上空に引っかけて飛ばした。弧を描いて俺の小皿へエビがダイブしようとしたその瞬間、箸が横からものすごい速さで動いて――――エビを攫っていった。
「そのエビは私が狙っていたのです」
平然と租借しながら、紗枝さんがしれっと答える。悪びれた感じはない。
「・・・・・!」
キッと悔しそうに目を吊り上げて母さんは、次の獲物---蒸し鶏を自分の皿へと回収しようとしたのだが、もう一方をおばあさまが箸で突き刺すようにして、鶏肉を離さない。
「・・・・・ふふふ。甘いですねぇ」
「この子の為のお肉なんです!箸をどけてください!」
ぎりぎりっと力は拮抗し、鶏肉は動かない。
「ほしいのならば、力で奪ってみなさいな」
おばあさまが動くのと母さんが動くのはほぼ同時。箸をそのままで、空いた片手で、打ち、貫き手、裁いて、ブロック。果ては目を突くような動作まで入って、二人の動きが止まる。
「ずいぶんと出来るようになったのですね」
「昔は取られてばっかりだったけどそうはいかないんだから」
(昔からこんなことしてんのかよ)
素早い応酬に、目を剥きながら、おかずの取り合いを昔からしてきたらしい二人を馬鹿らしく、でもちょっとお母さまがかっこよく思えて
「かあたま がんばっ」
思わず、応援していた。
「!・・・・ありがとう!凍太。お母さん凍太にお肉をとってあげるから!」
目を輝かせて気力を漲らせる母さん。対しておばあさまは
「やれるもんならやってごらんなさい」
と笑った。
結局――――
「ふう。ごちそうさまでした」
おばあさまが最終的には接戦を制した。
もぐもぐと、租借されていく鶏肉を見ながら、母さんは残った自分の主食を悔しそうな顔で平らげた。
「次は絶対負けないもん」
小声でそうつぶやく母さんを俺は見ていることしかできなかった。
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