◆Middle13◆決意と決断

 翌日、学園中の生徒たちが、ぞくぞくと闘技場に詰めかけてくる。

 武闘大会は予定通り開催され、集まる参加ギルドの中には、結城菫率いる“ヴァイオレット”の姿もあった―――。


GM:というわけで、次のシーン……武闘大会当日のシーンに入ろう。昨日は特に大きな問題が起きることもなく、あいにくの曇り模様ながら無事に大会当日を迎えた。

フジヤマ:ついに武闘大会の朝になっちまったでごわす。

GM:というわけで、大会のルールは以下の通りだ。


・参加するギルドは、全部で8チームあり、四チームずつがAブロックとBブロックに分か

 れている。トーナメントスタイルで試合が行なわれ、勝敗はダイスによる判定となる。

・チームにはそれぞれ「戦闘力」いう値が設定されており、それに+2D6して達成値を計

 算、試合の勝者を決定する。フェイトは使用可能。判定はチーム内の誰が行なってもよい。

・同値の場合は、同じ条件で振り直す。なお、ファンブルが出ると即座に負けが確定する。

・チームの勝敗を予想し、所持金を賭けることも可能(自分たちの試合で賭けるのは不可)。


菫:お金を賭けられるんだ! みんなの装備を調えよう!

ルイン:できることならばサークレットがほしいな!(笑)

GM:あきらめてないな(笑)。なお、キミたちはBブロックに所属している。Aブロックの一試合目はガートルード率いる「ブラックロータス」対「学園の風紀委員会チーム」だ!


 Aブロック一試合目は、ガートルードの的確な指揮により、ブラックロータスがあっさりと風紀委員チームを制した。

 続く二試合は、マッスル先輩率いる「第一寮チーム」と、ユーカリ王国なる国によりやってきた外部ゲスト……「聖弾チーム」の戦いだ。ゲストチームは覆面神官と覆面魔術師……たったふたりだったにも関わらず、寮長チームは一歩及ばず、魔術師の放つ水の魔法をまともに食らって倒れた。

 なお、菫たちはマッスル先輩率いる寮長チームに掛け金を投じており……。


菫:ああ―――っ、掛け金の一○〇Gが消えた……っ!(一同爆笑)

クロウ:(謎の覆面魔術師になって)ふふふ、しょうがないな。俺、強いもんな!

フジヤマ:つまり、この惨劇はアンタのせい!?(一同爆笑)

クロウ:文句はにーやんに言って!?(笑)


 この謎の覆面神官および魔術師の正体は、『アリアンロッド2E・リプレイ 聖弾のルーチェ』の登場人物、神官のルーチェと魔術師のベルダーである。同作品を未読の方のために解説しておく。なお、ベルダーのプレイヤーはクロウと同じく浅見正義である。


GM:それではBブロック、つまりキミたちの出番になるぞ。

菫:よぉしっ……みんなっ、いっくぞーっ!


 Bブロックの初戦は、現代地球人の少女菫が率いるギルド「ヴァイオレット」と、メンバー全員がメイジというギルド「エレメンタラーズの弟子」の対戦だった。最初から強敵にぶち当たったものの、クロウがフェイトをたたき込み、どうにか勝利をもぎ取った。

 二戦目の「ゲーム部」VS「冒険同好会」は、戦術を駆使した前者が勝利を収める。

 なお、先ほどは賭けに負けた菫たちだったが、以後は好調に予想を当て……。


菫:やった! お金が550Gになった!

GM:堅実に賭けて稼いでたからね(笑)。ともあれ、これで戦いはブロック決勝戦へと突入する。まずはAブロック「ブラックロータス」VS「聖弾チーム」!


 両者ともに実力者だけあり、戦いは激しい接戦となった。

 だが、ガートルードの巧みな指揮と戦術によって、「ブラックロータス」は外からやって来た謎のふたり組チームを見事に打ち破った。


GM:ルーチェとベルダー、出番終わり。

クロウ:もう終わりかよ!(笑) ええいっ! 次は俺たちの番か、やってやるぜ!

菫:うん、がんばろう!


 そしてBブロック「ヴァイオレット」VS「ゲーム同好会」の試合は、フジヤマがフェイトを使い、危なげなく勝利を収めて終了し―――。

 決勝戦、「ヴァイオレット」VS「ブラックロータス」の試合が始まった。

 闘技場にて菫たちと相対するのは、黒い甲冑に身を包んだメンバーと、それを率いる“紅髪の戦姫”のふたつ名を持つ少女ガートルード。

 観客の誰もが、エリートギルドたる「ブラックロータス」の勝利を確信していた。


GM:それでは、判定に移ろう。キミたちは2D+7、ブラックロータスは2D+10だ。なお、倍率はブラックロータスが1.5倍、キミたちが3倍だな。フェイトは使う?

菫:ここは使わない。ここで勝つことが、わたしたちの目的じゃないんだから! 力を示したいわけじゃない。ただ、友達を助けたいだけ!

クロウ:ああ。フェイトはそろそろ温存しよう。結城さんの判断に従う。

GM:「ブラックロータス」のメンバーは、上質の黒い鎧で身を固め……一糸乱れず、キミたち四人の前に整列した。

ルイン:ガートルード様……お手合わせ、よろしくお願いいたします。

GM:そう告げたルインは、違和感を覚えた。

ルイン:違和感?

GM:そう、ガートルードの目に光はなく、その意思も感じられない。通常、試合前には互いの健闘を祈って言葉を交わすのが彼女の習わしだが……今日は、その様子がない。

ルイン:これは……。


挿絵↓(お手数ですが下記URLをコピーして、ブラウザに入力してください。イラストを閲覧できます)

http://www.fear.co.jp/kakuyomu_gazou/23illust08.jpg


GM:「では試合を開始する! 礼!」審判の掛け声が上がった……と、同時に。ガートルードは礼をすることなく、地を蹴って走り、斬撃を放つ!(ダイスを振る)達成値17!

菫:11以上で勝ち……お願いっ!(ダイスを振る) ファンブルだ―――っ!?(一同爆笑)

GM:わははは(笑)。では、勝負は一瞬で決着した。菫たちが礼をした直後、斬撃と魔法が雨あられと飛来し……キミたちは吹っ飛ばされた。「……勝負あり!」と審判は宣言する。


 ……そう、戦いは始まった瞬間に終わった。

 奇襲に混乱した菫たちが、なんとか気を取り直して立ちあがろうとしたところに、ガートルードは左手を差し伸べる。


菫:え? あ、ありが……。

GM:ガートルードはそのまま菫の腕を掴んで押さえつけ、右手の剣をキミに突き立てる。

菫:ちょっと……っ!

クロウ:(ぼそりと)やっぱり俺たちを殺しに来たか。ダンジョンの時と同じく。

GM:その瞬間だった。「……かかれ!」周囲に待機していた一〇人ほどの会場スタッフ……いや、それに扮した生徒会スタッフが、一斉にガートルードに飛びかかって抑え込んだ。

一同:おお……っ!

GM:「諸君、ご苦労だった。ふん、間に合ったようだな―――」眼鏡をくいっと直しながら、生徒会長がキミたちの背後に立った。

一同:生徒会長―――っ!!

GM:「やはりガートルードさんが黒幕…………のはずもなく」

クロウ:ああ、ちがう(笑)。ガートルードさんの様子は?

GM:取り押さえられた彼女は、まるで人形のように抵抗をすることもなかったが……ふと正気を取り戻した。「……う。私は、なにをしていた? 記憶が、ぼやけて……」

クロウ:……やはり何者かに操られていたか。大丈夫。悪い夢を見ていただけだ。

GM:「……悪い、夢?」それだけ言って、彼女は意識を失った。その後、彼女は担架で闘技場の外へと運び出されていく。

クロウ:……不思議だ。これはゲームだ。たかがゲームのNPC、たかがひとつのイベントが済んだだけなのに、俺の中でやり場のない怒りが燃えている。

菫:……その気持ちが大事だよ。それが友達ってことなんじゃないかな。

クロウ:友達、か。

GM:では、キミたちがガートルードを見送ったのと入れ替わり、心配そうな表情のエレイン先生がやってくる。「……みんな、大丈夫~? なにがあったの?」

クロウ:………ああ。全員、無事だよ―――エレイン先生。


 クロウはそう告げたあと……一拍の間を置いて、こう言葉を続けた。


「―――じゃあ、そろそろ教えてもらおうか? なんで俺たちの生命を狙った」


       *   *   *


GM:……クロウの言葉に一瞬、場が静まりかえった。最初に言葉を発したのは先生だ。「……やあね、なに言ってるの~?」

クロウ:ごまかしても無駄だ。こっちはもう確証があるんだよ。

GM:「確証?」

クロウ:ダンジョンのモードを切り替えたのも、ガートルードさんに俺たちを殺させようとしたのも、副会長を襲ったのもあんただよ。

GM:「もう! なんのためにあたしがそんなことを~? 先生、怒りますよ~?」

クロウ:なんのため? ある儀式を実行するためだろ? あんたは、結城さんの親友であるみさとさんを地球から召喚し、儀式の触媒にしようとしている。そしてあの実験塔に、彼女は幽閉されている。だろ?

GM:そこまで聞いて、ふいにエレインの目がすっと細まり……これまでの彼女にはそぐわない冷笑を浮かべた。「―――どこで気づいた?」

菫:失言しましたよね! ヒルダさんが病棟に運ばれた時、先生はこう言いました。「……どこから落ちたの」って。あれ、変だな、って思った。

クロウ:たしかに副会長は校舎の屋上から落ちて大怪我を負った。でも、病棟に運ばれた段階ではわからなかったはず。診断結果は、出てなかったんだよ。

ルイン:つまり、落ちたという事実を知っているのは彼女を襲った犯人だけだ。くいくい。

GM:「……ああ。しゃべった瞬間に『しまった』とは思ったのよね」

クロウ:先生が犯人と考えれば、いろいろ見えてくる。あんた、俺たちがこの世界に来た時からずっと俺たちの味方だったじゃん? でも、ちがった。あんたは俺たちが、邪魔だったんだ。だから俺たちがダンジョンでテストするよう、後押しもしてくれたんだよな。

フジヤマ:ミーたちを殺すためにダンジョンに放り込もうとしてたわけデスな。

GM:「―――正解。でも失敗しちゃったからね、だからそのあとは学園の外に追い出そうと努力したのよ? 理事長室で、外に行きたいっていうあなたたちの希望を後押ししたり、生徒会長を口説き落とすために弱点を探せって焚きつけたり」

菫:つまり、わたしたちに協力してくれたわけじゃなかった。

GM:「そう。外出許可を取らせ、学校外に追い出したかっただけ」

クロウ:あんたさ、ミスしたよな。俺たちがみさとさんを校内で見つけて、学校の外に行くのを中止した時から、明らかに意見が変わった。あれがまずかったよ。

GM:「……まずかった?」

クロウ:うん。俺たちの希望に沿わない行動を取り始めたろ。学校外に出すことばかり強く勧めてきた。こっちにその気がないのに、外出許可を取らせようと武闘大会で成果をあげるよう言ってきたし。もう、違和感ばりばり。

菫:よくわかったね!? 先生、いい人って思ってた!(笑)

GM:ほんとだよ。そこで違和感を覚えるとか……心がねじ曲がってるんじゃないか。

クロウ:にーやんに言われたくないよっ!(笑)

フジヤマ:で、ミーたちが学校内の捜索を決めたから、無理に出場参加を決めて武闘大会で殺す作戦にシフトした……と。根性ねじ曲がってイマス。

クロウ:一話のダンジョンの時と同じだ。俺たちを殺そうとするのは想像ついたからなー。

フジヤマ:ふつう、想像つかないからっ!(笑)

GM:「―――なるほど、ちょっと焦っちゃったわね。それで、生徒会のチームを闘技場内に配置するよう頼んでおき、事が起こったら迅速に対応できるようにした、と。でも、すべては推測よね? 推測だけでそこまで……」

クロウ:確信がある、って言ったろ。お前が黒幕だという明確な証拠があるんだよ。と、ここであの人に登場してもらいたい! 出てきていいぞ、副会長!

GM:うむ。では、闘技場への出入口のひとつ……その奥の通路より、車椅子に腰掛け副会長ヒルダ・ユンカースが姿を現わす。エレイン先生も、さすがに驚きの様子を見せる。「……どういうこと? 一〇日は意識が回復しないって―――」そう言いかけて、はっとなにかに気づく。「……引っかけたわね」

クロウ:そうだ。医務の先生に、頼んだんだ。……エレイン先生の前で、副会長が意識を取り戻すのに一〇日はかかると言ってくれ、って。


 「◆Middle11◆推測と確信」の後半のクロウの動向を見直してほしい。

 この時、エレインがほぼ黒幕と気づいたクロウは、自分の考えを全員に話し、彼女をどう追い詰めるかまで相談していたのである。


GM:ヒルダは、車椅子に座ったまま、USBメモリの刺さったタブレットを操作して……全員にその画面を向ける。「……これ。隠蔽されていたダンジョンの記録ログ。自分のIDを、生徒会長のものとして偽装したのは―――エレイン先生」

クロウ:ということだ。ダンジョンで俺たちを殺そうとしたのがあんたなら、それは黒幕であることを示す。……いやあ、うまく引っかかってくれたよ。副会長の意識がしばらく戻らないって思えば、彼女にトドメを刺すのは後回しでよくなる……そうだろ? 彼女は比較的安全になるわけだ。で、俺らは隙を見て副会長から証拠をGET、と。

GM:ったく、めんどくさいことしやがって!(笑) これ、どーやってリプレイを書くんだ! 病棟で仕掛けを打った段階で犯人がほぼ特定できてたのに、それを読者に隠したままネタをばらしまで引っ張らないとだめじゃん!(笑)

クロウ:そこはにーやんが考えることだっ!(断言)

フジヤマ:なお、今回の最大の被害者は生徒会長。最初からあいつの言うとおりにしておけば……恥ずかしいポエムを暴露する必要はなかった!

菫:ごめん、会長! 「邪魔なクソ眼鏡だな」って思って!(一同爆笑)

GM:「……響みさとは、たしかに私が召喚した者。儀式の触媒として、ね。彼女には特殊な力があるの。優秀な“鈴”になれる資質と魔力を持っているのよ。かの音色は世界の外にいる我がの眷属たちを呼び出すための力。触媒になれる子を探すのは、苦労したんだから。……ぞくぞくしない? 無数の魔族がこの世界に呼び寄せられ、蹂躙する様を想像すると」

クロウ:なるほど、儀式ってそういう計画なのか。生徒会長の言って話にも繋がるな。

菫:じゃあ、今、みーちゃんは……。

GM:「ええ、彼女の精神は私の支配下にある。優秀な鈴とするために、意識なんて邪魔。だから彼女から意識、視覚、聴覚を奪い―――」

菫:みーちゃんになんてことを―――っ!?

フジヤマ:ガートルードさんを操ったのも、その力デスか。

GM:「ええ。でもね、響みさとの意思の力は強く、完全な支配下には置けていないのよ。どれだけ外界からの情報を遮断しても、彼女の心の奥にはひとつだけ邪魔なものがある。……それが彼女の大切な親友である結城菫……あなたへの想いよ」

菫:わあっ! なんだこの感動的な展開―――っ!!

GM:「あなたは閉ざされた響みさとの心に唯一、干渉できる存在。それをめざとく見つけ、送り込んできたあの三下女神……本当によけいなことをしてくれた」

フジヤマ:三下女神って!! 新しい単語すぎるでしょ!!(一同爆笑)

ルイン:つまりあの手この手で我々を学外に追い出そうとしてたのは……。

GM:「……ええ。すべては学校内にいる、響みさとに結城菫を近づけたくなかっただけ。とても邪魔なのよ、あなたは」

菫:あなたの事情なんて関係ないっ! みーちゃんを物みたいに利用するのが許せないっ!!

GM:「……でも、もう遅いわ」ふいに、どこからともかく、そして町中に響き渡ったのは、妖しい鈴の音色で―――では、ここで小さなマスターシーンを挟もう―――。


「な、なあ。あれ、なんだ……?」

 街を行き交う人々のうち、ひとりがふと空を指でさした。

 そこには、空を覆う黒雲が街の四方を取り囲み、少しずつ寄り集まり、大きな塊となっていく様が広がっていた。

 東西南北より雷光が渦巻き、放たれる。雲の側面には巨大な穴が穿たれ……やがてそこから無数に湧き出たのは真っ黒な影・影・影。

 北より出でしは、両手に剣を掲げた山羊頭の悪魔たち。南からは蝙蝠の翼を背負う人型の悪魔が群れを成し、東からは馬面と竜の翼の魔族が現われ、西からはもはや数え切れないほどの小悪魔たちが街に向かって押し寄せていた。


クロウ:もう、召喚の儀式って完成してるのかよっ!?

GM:「いいえ? 呼び出せているのはまだまだ下位の妖魔と魔族のみ。これが、真に力を発揮すれば―――」

フジヤマ:下位ぃっ!? いやいやっ、ディブロウにザガンにハゲンティがいマスよね!?

菫:え、そんなにやばいの?

フジヤマ:ディブロウはレベル12のエネミーデス! ミーたちじゃ歯が立たないデスよ!

GM:鈴の音に引き寄せられるように、集まる魔族たち。そう、音の源は学園の一角にある石造りの黒い塔。鈴の音は不自然なほど澄み渡り、街中を覆い尽くし―――。

ルイン:むう、つまり……この侵攻を止めるには、塔に囚われているみさと君を解放しろ、ということか!

GM:「―――正解。でもね、それをされると……とても困るの」

菫:そんなの知らない! あなたの考えてることなんて、わたしにはぜんぜん理解できないし……そんなことよりみーちゃんを返してっ!!

GM:「いやよ。今、使ってるんだもの」

菫:みーちゃんはものじゃないっ!!

GM:「困ったわね~……じゃ、結城菫。私と取引しない? 響みさとの心を開けるのはあなただけ。だから塔に向かうのはやめてくれない?」

菫:は!?

GM:「もちろん、報酬は支払う。儀式が終わったら、あなたと響みさと……ついでにそこのクロウ君を、現代地球に送り返してあげる。それで手を打たない?」

菫:待って、そうしたらこの世界はどうなるの?

GM:「あなたの知ったことじゃないでしょ? 現代地球人のあなたにはね。そうしなければ……あなたも響みさとも故郷に帰れず、ここで死ぬのよ?」

菫:死なないよ! ふたりで生きて帰るもん!

GM:「どうやって? この世界の人間にその技術はない。でも、私にはあなたたちを送り返してあげることができる。ね? いい話でしょ?」

菫:ここまで来られたのは、フジヤマさんや、ルインさんや、エリンディルのたくさんの人たちのおかげ! 見捨てるなんて、できない! これは……ゲームじゃないのよ!

フジヤマ:言ってくれるじゃないデスか……へへ。

ルイン:そうだ、それでいい。約束を守るような奴とは限らない! なあ、クロウ君。

クロウ:(わなわなと震えながら)ゲゲゲゲームじゃないのかっ! 俺の対人恐怖症がぶり返しそうなんだが……っ!

菫:そこ――――――っ!?(笑)

クロウ:冗談だ。俺が見てきた結城さんは、エリンを忘れて元の世界で安穏とした生活を送るなんて、絶対できないと思う。それは俺も同じだ。それをすれば一生……心残りになる。

菫:……クロウくん。

GM:「……ふふ、儀式はあと三〇分もすれば完成する。そうすれば完全に門は開き、最上位の魔族たちが現われる。残念ね、結城菫。その美しい友情を貫き、最後に後悔して死ね」

菫:……ひどいこと言う!

GM:「……そうそう。私にもひとつ、心残りがあったわ。この地を滅ぼすと……缶ビールを飲めなくなることね」そう告げて……微笑を浮かべたまま、エレインの姿がかき消えた。

ルイン:くそっ、最後にしゃれた台詞を……っ!(笑)

GM:では、そろそろシーンを閉じるが最後に……「結城菫!」菫の背後から声が掛かる。

菫:誰っ?

GM:と、振り向けばそこには生徒会長の姿がある。「これを持って行け!」彼はなにかキラリと光るものを投げ……菫はそれをキャッチした。

菫:これは?

GM:塔の鍵だ。「……先ほど、理事会の方から借り受けた。生徒会で管理していた鍵は、エレイン先生に盗み出されたようなのでな」

菫:おお、ありがとうございます!

GM:彼は優しげにひとつ頷くと……逃げ惑う人々に向け、表情を引き締めておもむろに大声を上げた。「大学都市オーカーに住まうすべての者に告ぐ! 現在、街の四方より魔族の群れが集結しつつある! 一時、武闘大会は中断とし、全戦力をもってこの地の防衛に当たる! なお、本任務の指揮は―――我々生徒会が執る……っ!」

フジヤマ:チクショ―――っ! 妙にかっこいいことしやがって!(笑)

GM:生徒会長の言葉は、たちまち周囲に伝播していった。直前まで、混乱していた生徒たちはたちまち落ち着きを取り戻し、会長の前に整列を始めた。生徒会長は、副会長ヒルダとマッスル寮長のサポートを受けながら的確な指示を次々と出して……恐るべき速度で形成された戦闘団は、一糸乱れぬ動きで自らの持ち場へと向かい始めた。

クロウ:会長、有能だった……っ!

GM:「当然だ……っ!」そう言いながら、彼は眼鏡のずれを直し……菫に視線を送る。「四方の魔族どもは我々が抑える。だからお前は……大事な友を救い出して来いっ!」

菫:会長かっこいいっ!? なにこれ、泣きそう……っ!?(笑)

GM:……では、ここでミドルフェイズを終了し、クライマックスフェイズへと移行する!

クロウ:さあ、ギルドマスター。俺たちに命令を出せ。お前を、ゲームに勝たせてやる!

菫:うん! みんな、わたしに力を貸して―――


「……みーちゃんを、取り戻すんだっ!」

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