◆Middle03◆言葉はいらない、ただ拳で語るだけ

 人と人とがわかり合うために必要なのは言葉だけとは限らない。

 例えば視線、例えば人への思い、例えば筋肉―――。

 そんな真実を菫はこの日、初めて実感した。


GM:では、生徒会長のルームメイト・馬場豪一郎を訪ねる、菫のシーンといこう!

菫:はい! 第一学生寮に向かう!

GM:菫が第一学生寮にやってくると、午前中の早い時間にも関わらず、寮の前で筋トレをしている男がひとり。赤髪の短髪で、スポーツマンといった感じで筋骨隆々。口はいつでもへの字に曲がっていて、寡黙な雰囲気の男だ。彼が第一寮長だね。

菫:突然ですみません。わたし、現代地球から来た結城菫と言います。少しお話を……。

GM:男は、そちらに視線を送ることなく腹筋をしながら言う。「日課の腹筋三〇〇回、これが終わるまで待ってくれないか」

菫:いえ、腹筋しながらでかまいませんので。

GM:「そうか。で? なんの用だ?」

菫:馬場さんは、寮で五行さんと同室だって聞いたんですけど。

GM:「たしかに。あいつとはひとつの部屋で暮らしているが」

菫:お友達ってことですよね? 仲良しなんですか?

GM:彼は表情ひとつ変えずに、言う。「ああ、実に仲がいい」

菫:ええっ!?

GM:「自分で尋ねておきながら、その反応はどういう意味だ」

菫:あ、いや(笑)。五行さんに仲がいい人がいて、ちょっとホッとしただけです。わたしたち、彼にお願いしたいことがあるのですが、彼がなかなか承諾してくれなくて。

GM:「ああ、うるさい奴らがいるとブツブツ言っていたな。キミたちのことか」

菫:わたしたちのことは、どんな風に?

GM:「話がまったく通じない、ゲスな奴ら」

菫:ゲスなのはクロウくんとルインくんだよっ!?

クロウ&ルイン:えぇえっ!?

GM:「結城くん、と言ったな。キミがゲスではないのは、その筋肉を見ればわかる。ずいぶんと鍛えているようじゃないか」(一同爆笑) 「……で、五行のなにを聞きたい」

菫:かくかくしかじかと事情を説明します!

GM:「……なるほど。つまり、あいつの説得材料になりそうな弱みを聞きに来たのか」

菫:弱み、というか純粋に情報をですね……(笑)。

GM:それまで無表情に話を聞いていた寮長が、にやりと口元を歪める。「……あるといえば、ある。あいつのたったひとつの泣き所が、な」

菫:ええ!? そ、それを教えてください!

GM:彼はやおら立ち上がり、菫の前に仁王立つ。「だが、男の約束というものがある。もし、キミの筋肉が本物だと証明できるならば、教えてやろう。さあ、打ちこんでこい!」

一同:えぇっ!?(笑)

クロウ:主人公ヒロインに拳で語れと……(笑)。

菫:自分の夢のために、わたしもトレーニングを重ねてきました。この拳と身体でわたしの本気を知ってもらいます!(ぐっ、とダイスを握り込む)

GM:「笑止! その細い身体でなにができる!」難易度10の【筋力】判定だ……!

菫:(ダイスを振る)11! ……成功!

GM:鈍く、重い音と共に菫の拳が寮長の鍛えられた腹筋にめり込む。場の空気が静止した。彼は微動だにしないよう見えた。が、二秒後……グラリと身体が傾いて―――「すばらしいインナーマッスルだ」(一同爆笑) にやっと笑み、彼は地響きを上げて仰向けに倒れた。

菫:やった! じゃあ、情報をくれますか?

GM:「うむ、よかろう」彼は寡黙な表情のまま、ひょいと身を起こした。

菫:あ、あれっ? あっさり……。

GM:「五行には、意中の女がいる。名前は伏せよう。あえて言うなら、紅い髪の女だ」

一同:ちっとも伏せてないっ!(笑)

クロウ:やはりガートルードに惚れていたか。紅髪ってだけなら、この寮長もそうなんだが。

菫:うほっ!? それって、わたしも妄想が捗るヤツですか……っ!?(笑)

一同:捗るのっ!?

GM:「……大事なのはここからだ。奴の意中の女に絡んだ、ある恥ずかしい証拠がこの寮の使っていない部屋に隠してある。ゆけ!」

クロウ:男らしく生徒会長を売ったな。

菫:あ、あの、いいんですか? 大事な友人なんですよね? 会長、困るんですよね?

GM:「困る。ただな、俺はあいつが泣いたり困ったりする顔が―――大好きなんだ」

一同:さわやかに言い切ったっ!?(笑)

GM:心なしか、笑みをこらえるように寮長の口の端がつり上がり、頬も紅い。

菫:会長と寮長のペア、とてもいいかもしれないっ!(笑) では、遠慮なく……っ!


 よからぬ妄想をかましつつ、指示された部屋へと菫は突入した。

 しかし、その部屋はもぬけの殻だった。そこには、少し前までここにあったであろう荷物の痕跡だけが残されていた。

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