◆Opening02◆最強のプレイヤー

“ブラックフェザー”の異名を持つ男がいた。

 それは、全世界で流行しているバーチャルMMO・RPG「アリアンロッドMMO」で覇を唱える伝説のプレイヤーだった。

 レベルがカンストしていることは当然、保有資産は数千億G、あらゆるスキルとアイテムとチートを使いこなすと言われ……そして性格は悪く、ネットでは叩かれ、カリスマもない。

 はたして、その正体は―――。


GM:次は、クロウのオープニングに入ろう。キミはこの数年、ひとつのMMO・RPGにはまっている。その名は「アリアンロッドMMO」このゲームは、世界中でたいそうな人気を誇っている。

クロウ:うむ!

GM:このMMOの背景世界はエリンディルという名がつけられているのだが、その唯一の王にして英雄とユーザーたちから言われているプレイヤーがいる。それがキミだ。

ルイン:だが、アンチからは叩かれる。

GM:そう。掲示板上では、キミへの称賛と悪口の言葉で溢れている。キミのバンクボックスの中には、すべての装備がズラリと並び……後衛タイプの魔法使いであるにもかかわらず、護衛もなしに万の数のモンスターを圧倒。一部のユーザーからはバグ技やチートなのではないかと疑われたりもしている。だが、そうでないことは、キミ自身がよく知っていた。

クロウ:ふふふ、当然だ。

GM:キャラのレベルはカンストしており、しかしスリルのないゲームにクロウは満足できない。それゆえ、一定の高レベルプレイヤーだけが入れるナイトメアモードというシステムで遊びまくっている。このナイトメアモードではキャラクターが死ぬと、そのデータがロストするというモードだ。

クロウ:おお! それでも、生き残り続けている俺はなんて最強。きっと、五年くらいやり続けているにちがいない。

フジヤマ:もし、PVPもOKだとしたら、けっこうな数のキャラをロストさせていることになる。そりゃあ、恨まれもする(笑)。

クロウ:この世界に俺以外のPCはいらない! いるのは、俺とアイテムだけだ……っ!

ルイン:ひどいな!(笑)

GM:そんな環境で、キミは戦いに明け暮れている。今日もまた、キミの寝首をかこうと、とあるギルドが襲ってきたが……。「だ、ダメだ……強すぎる」バタリ、クロウの一撃で一〇人ほどが同時に倒され、ログアウトする。ドロップ品と経験値が、キミの元に入った。

クロウ:ふ、今のは《ルインストーム》ではない。ただの《エアリアルスラッシュ》だ。

GM:では、そんな感じで(笑)。キミは、このナイトメアモードのエリンディルに、七つあった大手ギルドのうち、すでに四つまでを滅ぼしていた。

クロウ:俺は個人要塞か! すばらしい! でも一応、配下に四天王がいるくらいにはしておこう。その方が風格があるからな。

GM:今日、クロウは敵対している残り三ギルドの連合軍が集まる城へとひとり向かっていた。今、キミを囲んでいるのは、防衛ラインの最外殻に配置された部隊らしい。「今日こそ現実世界という名の異世界に飛ばしてやるよ。二度とエリンに戻ってこられないようにな」

クロウ:現実世界? それはごめんだな。このエリンディルこそが俺の現実。俺の生きる道。このゲームこそが、俺の人生なんだよ。

ルイン:うわー、だめな子だー。

GM:「この人数相手にたったひとりで勝てると思ってるのか?」

クロウ:戦いってのはな、始まった時にはもう決着はついているんだよ―――と、そこで俺の周囲の空間が大爆発を起こして敵は全滅しました。

GM:なんでだよっ!?(笑)

クロウ:これぞ、超ランダムダンジョンの九九九九階層から持ち帰った範囲攻撃魔法。遅延誘発型でな、昨日のうちにここに仕掛けておいた。お前たちが、ここに防衛戦を張るのは予想済み。だから無駄な会話をしながら、爆発するまでの時間を稼いでおいたんだよ。

GM:そんなダンジョンと謎のスキルが実装されていたのか……(笑)。

クロウ:言っただろう? 戦いは、始まった時には決着がついてるってな―――(と、ここで素に戻って)やだ、これは気持ちイイ。

GM:「くそ……」と、倒された四〇人のPCが光と共に一斉にログアウトした。それと同時に、眼前にそびえる居城の門が、重く軋んだ音を立てながら開き始めた。

クロウ:わざわざ招いてくれるのか? 面白い―――と、城に向かって歩いて行く。

菫:なんかかっこいい。

GM:ではここで、カメラを現実世界に向けてみよう。

クロウ:右手にマウス、左手でキーボードを叩きながら、座椅子に座ってゲームしてる俺がいる。あ、もちろんパソコンは最新最強スペックで、グラボも二枚差し。親の金に物を言わせた、最新パソコンに高速回線だ。

一同:親の金かっ!?(笑)

クロウ:さらに家のクレジットカードの暗証番号はすべて把握済みだ!

フジヤマ:最悪デス、この人!(笑)

GM:(クロウの母親になって)「羽黒ーっ、ご飯できたわよ! 食べないのっ!?」

クロウ:今いいとこなんだよっ! 部屋の前に置いといて! あとで食べるからさ!

菫:なんか最低だよっ!?(笑)

クロウ:も、戻して! 俺の現実世界に!(笑)

GM:(笑)。では、クロウは今、エリチェンして敵の居城の中に入った。そこは、広大な面積を誇る城のホールだ。ここに入った瞬間、急激に動きが重くなった。それもそのはず、この部屋には三〇〇人はくだらない敵PCが集まっていたからだ。

クロウ:サーバーに負荷をかけて動きを封じようってのか? だが、足りねえ。俺を倒そうってのなら、この三倍は連れてこい。この程度なら、四天王にまかせておけばよかったぜ。


挿絵↓(お手数ですが下記URLをコピーして、ブラウザに入力してください。イラストを閲覧できます)

http://www.fear.co.jp/kakuyomu_gazou/02illust01.jpg


GM:その言葉に、敵のギルドマスターらしき人物がほくそ笑む。「……安心しろ。こっちもそう思って、用意しておいたぜ? 我々の新しいメンバーを紹介しよう」パチンと指をならすと、キミと同じギルドマークをつけた……キミの四天王だ。

クロウ:おい、待て。俺の考えた俺の最強四天王が俺を裏切っている(一同大爆笑)。

GM:「この日を待ちましたよ、クロウ。あなたは魔術師だ。我ら四人のサポートなくして、この人数を相手にすることはできません」

クロウ:他に俺の仲間がいるとは思わないのか?

GM:「思いません。たしかにあなたは最高の武具と技、そしてプレイ技術を持っています。ですが、ただひとつ絶対に必要なものを1ミリも持っていません。人望です」

クロウ:さらっとひどいこと言うなよっ!?(一同大爆笑)

菫:ぼ、ぼっち……。

クロウ:ぼぼぼぼっちちゃうわっ! 俺はここで、超ランダムダンジョンで見つけた魔法を使う。威力はほとんどないが、グラフィックだけが無駄に派手な魔法。

GM:? なんだそれは。

クロウ:魔法の使用と同時に、この場にいる全員のパソコンの描画が一斉に処理落ちして動けなくなる。俺は、最高のグラフィックボードを六枚差ししてるので、平気。

GM:汚えなっ!? お前、さっき二枚差しって言ってたろっ!?

フジヤマ:ていうか六枚差しってなに!(笑)

GM:「なんだ、パソコンがっ!」「画面が処理落ちして動けねー!」「入力もできない!」

敵のギルドの音声チャットが大パニックを起こしている。「これじゃ、ブラックフェザーも動けないだろ……って、動いてる―――っ!」

クロウ:さあ、審判の時は来た。俺は本気の証として、これまた超最新のヘッドマウントディスプレイを装着、画面を飛び交う光のエフェクトの中をゆっくり歩く。

GM:“ゴォオオオオオオォ……”

ルイン:? なんの音だ。

フジヤマ:グラフィックカードのファン?

クロウ:では、最後にでかいのをぶっ放して終わりだ。これで、このエリンディル・ナイトメアで俺に刃向かう奴はいなくなる。魔法の詠唱を始め……。

GM:“ゴォオオオオオオオオオオオオォ……”

クロウ:では、魔法が完成したところでぶっ放す!

GM:―――と、その時だった。ここで一旦、場面が現実世界に引き戻される。今まさに、キミが魔法発動のマウスのボタンをクリックしようとしたその瞬間……。

一同:……?

フジヤマ:あ(と、配られていたハンドアウトを読み返す)。

GM:“ゴオオオオオォオ……ドウン……っ!” “ブラックフェザー”クロウの……いや、舩本羽黒の部屋で大轟音が鳴り響いた。……舩本羽黒を襲ったこの事象は、お昼のニュースにおいて以下のように淡々と語られることとなった。


「……次のニュースです。今日、午前八時頃、●●区の住宅にトラックが激突するという事故がありました。運転手は逃走したと思われ、その足取りはつかめていません。なお、トラックが突入した部屋にはその家に住む一七歳の少年がいたと思われますが、行方がわからず、安否が気遣われます」


 こうして、舩本羽黒こと“ブラックフェザー”クロウはエリンへと転移した。

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