OPENING PHASE

◆Opening01◆結城菫には夢がある

 結城菫には夢がある。

 それは、幼き日より胸に抱き、今もなお持ち続ける夢。

 広大なるサバンナの草原に思いをはせ、その紺碧の空に響く歌声を奏でたい。

 美しく、どこか哀愁に満ちた夢だった。

 もし、その夢の実現にたったひとつの問題があるのだとすれば―――


 彼女の“歌の才能”が、生まれる前から枯渇していたことだった。


GM:では、オープニングフェイズに入ろう! 最初のシーンプレイヤーは、菫だ。

菫:やった! いきなりだっ!

クロウ:あ、そこがうれしいんだ?(笑)

庄子:うれしいです!

GM:(笑)。さて、この栄えある『アリアンロッドRPG 2E 改訂版』リプレイ、最初のシーン……その舞台は、東京都千代田区は秋葉原となる。

一同:…………。

クロウ:ありあ…ん……ろっど……?(笑)

GM:『アリアンロッド』です!

菫:『アリアンロッド』ですね!

GM:うむ。おわかりいただいたところで、あらためてシーンを始めよう。―――季節は冬。キミは今日、ふだんはあまり来ることのない秋葉原という街へとやってきた。親友のみさとから……「買い物につきあって?」……そう言われたからだ。

菫:来ることがない? なら、みーちゃんと街を歩きながらカルチャーショックを受けます。

クロウ:カルチャーショック?

菫:「……ああっ、メイドさんが道ばたでチラシを配ってる!」「街の中をコスプレの人がたくさん歩いてる!」「あっちでは、演歌ロイドが歌を歌ってるよっ!?」

一同:演歌ロイドっ!?

ルイン:コブシを回して歌ってくれるソフトが作られたのか……(笑)。

GM:で、では、街のあちこちで演歌ロイドの歌が流れている。

菫:すごい! ここは聖地じゃん……っ! みーちゃん、すごいよ! で、で? 今日はみーちゃんに誘われて買い物に? お昼くらいに待ち合わせて……。

GM:いや、ふたりは朝六時に改札口で集合した。

菫:店が開いてないよ、みーちゃんっ!?

GM:「秋葉に来たら、まずファミレスに入って作戦会議するものだよ? 目をつけた店舗の入荷情報や特売情報の確認しつつ、地図を見ながらお店をどういう順番で回るか作戦を練って……って。これ、秋葉原を効率よく巡回するためには必要なことだよ?」

クロウ:ウソつくなよっ!(笑) 秋葉原を知らない人が聞いたら誤解するだろう!

菫:信じます!

GM:素直でよろしい。そしてふたりはファミレスでモーニングをぱくつきつつ、やがて……作戦は決まった。「……行こう、すーちゃん!」

菫:すーちゃんっ!?

GM:「だって、菫だし。すみぽんでもいいよ」

菫:すみぽんっ!?

GM:ともかく四時間ほどで作戦は決まり、キミはみさとに手を引かれて街へと飛び出した。前を征くみさとはうねる人波の中、速度を落とすことなく縫うように進む。次々と店に飛び込んでは出てを繰り返し、その度に菫が抱える荷物が増えて―――。

菫:ついて行くのが精一杯! ま、待って……っ。

ルイン:そしてとうとうヨドバシの中ではぐれてしまった。

菫:それってもう絶対見つからないじゃないっ!(笑)

GM:大丈夫だ。ひとり彷徨した末、やがてキミはみさとと感動の再会を果たし……夕方の六時過ぎ、すべての買い物は終了した。キミの両腕と背中には、彼女の荷物が満載だ。

菫:へ、ヘトヘトかな……(笑)。

GM:では、休憩のために立ち寄ったのは神田明神の片隅だった。ベンチに座り込んでもたれかかる菫とは対照的に、みさとの表情は笑顔に満ち溢れ、生き生きとしている。

菫:笑顔で生き生き!? こんな生気に溢れたみーちゃんを見るのは初めて!(←なぜか爆笑)

GM:……あの……その発言はNPCにではなく、リアルの誰かのことを指してないかい?

菫:みさとって言われると、どうしてもこう……。で、今日はなんの買い物だったの?

GM:彼女は微笑み、キミの言葉をはぐらかすかのように冬の夕刻の空を見上げる。そしてつぶやくように切り出した。「あたし、夢があるんだ」

菫:夢? それが今日の買い物となにか関係あるの?

GM:「笑わないでね?」そう言うとみさとはキミの前にすっ、と華麗に立った。そして、まとっていたコートのボタンに手を掛けて外し始め―――。

菫:(ぶっ、と噴き出して)……どうしよう。この時点ですでに面白い(笑)。

GM:そして、彼女が両腕でコートの前をはだけると―――“シャラララン……” そんな謎の効果音と共に、レースがふんだんに使われた……オレンジ色を基調とするふりふりのアイドル服があらわとなった。

菫:似合う! オレンジが似合うよ、みーちゃん!

GM:「本当? 本当に似合う?」

菫:うん、かわいいよ!

GM:「……どん引きしてない?」

菫:みーちゃんは、まだ全然大丈夫っ!

ルイン:……まだ?(笑)

菫:あ、いや(笑)。あー……つまり、みーちゃんがなりたいものって……。

GM:「うん。あたし、アイドルになりたいんだ」

菫:だからそんな服を買ってきたと……。じゃあ、今日の他の買い物って……。

GM:「そう、衣装とか小物とかマイクとか動画編集ソフトとか」

菫:動画編集? ああ、動画サイトに自分の動画を投稿して知名度を上げる……?

GM:「そう、デビューの第一歩! 家族みんなは苦笑いするけれど……すーちゃんだったら、応援してくれるよね?」

菫:もちろんだよ~! わたしにも同じような夢があるから、応援するよ!

GM:「すみぽんの……夢? オリンピックとか、バレーボールの選手とか?」

菫:いやー、運動は嫌いじゃないけど、他に小さい頃からなりたかったものがあって。

GM:「うん」

菫:わたし、歌手になりたいんだ。

GM:彼女は、笑顔のまま固まった。

菫:あ、あれ?

GM:彼女は我に返って優しい笑顔で、そしてとても穏やかな口調で語る。「すーちゃんの能力ポイントは、そっちに割り振られてないと思う」(一同爆笑)

菫:みーちゃんはそんなこと言わないっ!(笑)

フジヤマ:落ち着いてクダサイ! GM、ハンドアウトと展開が食いちがってますっ!!

GM:(ハンドアウトを読み直して)ああ、夢を応援するんだっけ。

ルイン:GMがハンドアウトに従わないとか画期的すぎる!(笑)

GM:失礼しました。では、あらためて……みさとは優しい笑顔でこう言った。「そっか。……夢は、自由だよ」(一同爆笑)

フジヤマ:やっぱり応援してないデスっ!!(笑)

ルイン:むしろ突き放したっ!(笑)

菫:めげずに夢を語ります! ……わたしさ、小さい頃から子守歌代わりに演歌を聴いてたの。演歌は、今はいないパパとママが、わたしに直接くれた最後のものだから。だから、アフリカの風になったふたりに届けたくて……と、両親の話をする。

GM:その話に、みさとの表情が次第に和らいでいく。「そっか、その夢が叶うといいね……ううん、きっと叶うよ」

フジヤマ:みーちゃん、いい奴。

GM:「あ、そうだ。じゃあ、これをあげるよ。イベントで使おうと思ってたんだけど……今日買ったもの」みさとは、大きな紙袋をキミに差し出した。

菫:なに? 楽しみだなー……ガサガサ(←袋を開ける音)。

GM:「けっこーリアルだよ?」袋を開いて出てきたのは、皮や布で作られたなかなかリアルな西洋の剣やクロースアーマー、丸い形のシールドだ。

菫:ええっ!? なにこれっ!?

GM:「イベントとかで役に立つよ」

菫:みーちゃん……演歌をいったいなんだと……(笑)。

GM:「……とにかく、一緒にがんばろう! 歌やダンスは練習すればうまくなる。夢は願えば叶うんだよ!」みさとが、キミの手を取って強く握る。学校では物静かで、クラスでもどこか浮いた彼女だ。友達と言えるのも菫しかいないが―――。

フジヤマ:あ、そういう子だったのか。

GM:しかし今のみさとは、学校での弱々しい彼女ではない。ジャンルのちがいはあれど、菫が同じ夢を持つことに心底喜んでいる。

菫:わたしにとっても、みーちゃんは一番の親友です。両親がいなくなって、周囲が腫れ物を扱うような態度だったのに、みーちゃんだけが変わらず、ただ一緒にいてくれたから。

GM:彼女は微笑んで頷いた。「……じゃあ、行こう、すみぽん! せっかくだし、ライブとかもやってるメイド喫茶を回ってみよう!」

菫:すごいアクティブだー。じゃあ、その手を握り返して立ち上がります! 行こう!

GM:みさとは、キミの手を引いて神田明神から街へと続く男坂という長い階段に向けて走り出す。そして、その最初の一段に踏み出そうとした時―――菫は、唐突に違和感を覚えた。

菫:!? 待って、みーちゃん……っ!

GM:言葉を言い終える間もなく、キミが階段を踏みしめた……その瞬間だ。唐突に、夕焼けのオレンジに染まった景色がバンと割れ、周囲が真っ白な風景へと変わった。

菫:……っ!?

GM:直前まで存在したはずの神社も、階段も、景色もなにもない。上も下も右も左もなく……全天が白一色に染まっている。

菫:なにこれ!? あ、みーちゃんはっ!?

GM:気がつけば繋いだその手は離れ、白亜の空間の中……みさとの姿が急速に離れていくのが見えた。彼女は、必死にキミに向けて手を伸ばすが―――。

菫:みーちゃん!

GM:―――届かない。「菫ちゃん……!」その声を最後に、みさとの声と姿が白い景色の中に溶けて消えていった。

菫:ああ! どうしよう……っ!

GM:白い世界にキミの悲嘆にくれる声が上がった……そんな時だ。「―――結城菫。選ばれし者よ」ふいに、エコーのかかった優しい女性の声がこの白い空間に響き渡った。

菫:いきなりなんか超展開がっ!?

GM:「私は世界を守護せし女神。あなたは選ばれたのです。我が世界エリンを救う英雄として。今、恐るべき魔物たちが到来しつつあります。これを防げるのは、あなただけ……」

菫:いきなりなに言ってんのっ!? なにこれドッキリ!? カメラどこっ!? それとも夢っ!?

GM:「夢ではありません。リアルです」

菫:……あ、答えてくれるんだっ!?(笑)

GM:「さあ、あなたに力を授けましょう」言葉と共に、キミは光の球体に包まれ―――。

菫:力? 歌を上手くしてくれるとか?

GM:「その願いは、私の力を超えています」

菫:あ、そうなんだ……はは。でも、なんでわたし? 他に適した人はいないんですか!

GM:「あなたでなくてはならないのです。魔を呼ぶ音色を奏でるは友なる“鈴”。その“鈴”に声を届けられるのはあなただけなので……やんす」

一同:やんすっ!? 

フジヤマ:お前は誰だっ!?(笑)

菫:(シリアスな声で)キャラがブレた……っ!

GM:女神は、可憐な声で訂正する。「ああ、いかんいかん。コホン……カサカサ(←紙がすれる音)。……彼の地に立った時、あなたの存在は、言葉は、救済の鍵となりましょう」

菫:……もしかして、みーちゃんも関係してるのっ!?

GM:「すべてはエリンへと来ればわかること。さあ、時は満ちましたでやんす―――」

フジヤマ:だからっ! なんで語尾がやんすなんだっ!?

菫:語尾が強すぎて言ってることが頭に入ってこない!(笑)

GM:キミの抗議の声は届かない。やがて、周囲の風景は白よりなお白い光に輝き……キミの意識は一瞬、そこで途切れる。

菫:まぶしいっ!?

GM:と、反射的に瞳を閉じた時、ふいに身体に重力を感じた。そして再び目を開き、あっけにとられる。……気がつけばキミは、どこかの森の中に立っていた。

菫:は? え? あれ? 周囲を見回すと……?

GM:見回しても秋葉原の街並みはどこにもなく、付近には鬱蒼と茂る森が広がるだけだ。さらに空には月が煌々と輝き、闇に包まれたこの世界を淡く照らしている。

菫:ここはどこ!(笑) あ、スマホ持ってるから時間と……GPSで位置を確認!

GM:時刻は日本時間で一七時過ぎ。GPSは一切機能しておらず、地図も表示されない。ついでに言えば、電波がまったくきていない。

菫:なにこれ! 壊れてるよ! えっと、他の持ち物は財布と……みーちゃんからもらった、コスプレ衣装と小道具が入った紙袋……(笑)。

GM:だね。しかし袋に入った武具は、さっきよりもずっしりと重く、本物っぽく感じる。

菫:……えーと。え?

GM:「ああ、言い忘れた。それがあなたの初期装備でやんす」

菫:初期装備!? 本物!? これ、着るの!? ていうかまだいたの女神さんっ!?

GM:「いませんでやんす」この言葉を最後に、女神との交信は途絶えた。

菫:と、とりあえず着る……! 痴漢とか出たら怖いし!

GM:では、菫は装備を着込んで一息―――少し落ち着いて気づいた。昨日までは半月だったはずの月が、今、天に浮かぶそれは満月だ。さらに、近くに生える木々や草を、どれもキミは見たことがない。それが風景に違和感を与えて不安をあおられる。

菫:……ほんとに不安になってきた。どう見ても異世界だよここ。

GM:さらに気づいたのは、足下で月の光に反射するなにか。視線を落とせばそれは、小さなイヤリングだ。それは、まちがいなくみさとがつけていたもので―――。

菫:これ、みーちゃんの……! みーちゃんも、この世界に来てるってこと!? ……どうしよう。とりあえず、ここにいても仕方ないから、民家を探……。

GM:と、キミは足を踏み出してすぐに気づいた。周囲に生える木々の間の闇に、三〇はくだらない人影が蠢いている。その目はらんらんと輝き……。

菫:わー、救助の人かなっ!?

GM:「ぐるるぅ……」そんな唸りをあげる彼らの手には、ギラリとした鉈があった。

菫:わー、絶対に救助の人じゃないなー……。笑顔で後ずさりします。

GM:菫が視線を外さぬままにじりっと下がる。それに合わせて、闇の中から人影がぞろぞろと出てきて月の光の下、その姿があらわとなった。キミは、その姿にどこか見覚えがある。キミがよく遊んでいたゲームの中に出てくるモンスターの特徴に酷似しており……。

菫:え、これって……。


 菫は逡巡の末、どこか自信なさげにつぶやいた。


「もしかして……ゴ、ゴブリン?」


ゴブリン画像↓(お手数ですが下記URLをコピーして、ブラウザに入力してください。イラストを閲覧できます)

http://www.fear.co.jp/kakuyomu_gazou/01goblin.jpg

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