第8話 準備

翌日、俺は気持ちよく目が覚めた。

昨日はなんだかんだでヴリトラと戦って、

一回死んだと言って良いわけだし疲れてたのかな。

洞窟なので日が差し込まないのが難点だが特に問題は感じていない。



「おはようございますマスター」


「おはようエレア」



エレアは真面目な性格なので俺より先に起きている。



「ふぁ~。おはようございますマスター」



布団代わりのルナは俺が起き上がると一緒に起きる。

俺の上に乗ってるから起き上がったらわかるんだな。



「おはようルナ。ヴリトラは…まだ寝てるか」



俺の横で眠っているヴリトラはまだ起きていないようだ。

しかし、いつの間に裸になっていたのか…

まあ服が皺《しわ》にならないだけましかもな、俺の服は手入れ不要だから関係ないんだが、服も見繕わないと駄目だな。

人の街に行きたいんだが、俺が行くとなぜか敵視されて殺されるからな……



「今日の予定はどうしようか」


「それなのですがマスター」


「ん?どうした?」


「昨日少しヴリトラと話し合いまして、人の街に行って世界の情報を収集した方が良いのではと思います」


「俺が寝た後に話してたのか」


「その話私も聞いてないですわ!起こして下さればよろしいですのに」


「マスターには休んで欲しかったですし、ルナはまあ別に起こさなくてもいいかと思いまして」


「酷くありません!?」


「まあそんな些細なことは良いのです」


「些細な事って…」


「それよりも、ヴリトラに乗って街に向かうのは如何でしょうか」



確かに街に行く必要は少なからず出てくる。早いか遅いかの違いになるのだが。



「それが速くて楽なんだが、残念ながら俺は街に行けない。ここに落ちた時に街に行ったことは話したと思うが、俺が行ったら何故か衛兵に殺された。

確認もされずにいきなりだったから、多分何か問題があったと思うんだがそれがわからない事には俺は行けないな」


「ではその原因を突き止めないと行けませんね」


「どうします?」


「んー、どうしようか」


「ふぁ~あ」


「お、起きたか。おはようヴリトラ」


「おはようなのじゃ」



スライム布団を押し退けて起き上がる。服は着ていないので裸である。早めに寝具を作らないと駄目だな。



「取りあえず服を着ろ服を」


「あ、そうじゃった」



いそいそと昨日作った服を着ている。普通の人が見れば欲情する光景だろうが、生憎と俺は神様だったのでそういう感情は持っていない。

子供は作れるが作ろうとは思わない。厄介ごとになるのは目に見えているからな。



「ずっと裸同然じゃったから習慣がなくてな…で、何の話をしていたのじゃ?」



さっと着替え終えたヴリトラは改めて聞いてくる



「街に行って今必要と思うものを買いに行きたいんだが、色々と問題があってな…」



俺が街に行ったら衛兵に即殺されたことを話す。



「それは確かに問題じゃな」


「お前たち三人だけなら問題は無いと思うんだが、コミュニケーションとか取れそうか?」


「はい。マスターからの知識により人とのコミュニケーションは大丈夫だと思います。ただお金の問題があります」


「お金か。何か素材を買い取って貰うとかが一般的かな」


「それならわらわの寝床に色々眠っておるぞ」



確かにヴリトラの寝床は、人や魔物の骸が大量にあったので素材も期待できそうだ。



「骨系統で何か売れたりしないかな?」


「この世界には詳しくないので何とも…」


「それも含めて、取りあえず私たち三人で街に行ってみると言うのはどうですの?」


「事前調査も必要だから仕方ないか。ついでに情報も集めてきてくれるか?」


「かしこまりました」


「わらわが居れば怖い者など何も無いのじゃ!」


「ああ、よろしく頼むぞ」



今日やる事の一応の方針は決まった。後は何を調べるかだが……取り敢えずは寝具の値段と、どんな物の素材の買い取りをやっているか、

骨とか適当な素材なんかも持っていけば買い取ってくれるかもしれないな。

他には人間達の情勢とか、ついでに今どんな強者が存在するかもわかれば良いな。

俺はその間に家らしい家を建てるか。後は習得出来てない風と土の魔法を取れれば良いか。立派な家を建てる為だ頑張るとしよう。



「という訳で今日の予定は、お前たち三人は街に行って情報の収集、素材の売却の二つ。俺は魔法の習得と出来るだけ快適な家を建てる。

これで行こうと思う。何か意見はあるか?」


「一つ宜しいでしょうか?」


「なんだエレア」


「三人で街に行くのは良いのですが、マスターとの連絡が常に出来た方が宜しいかと思います。私たちは眷属同士で意思疎通できるのですが、マスターとの連絡手段が欲しいです」


「それには賛成ですわ」


「わらわも同感じゃの」


「そうだな。一応お前ら三人は俺の従魔って言うか眷属みたいな者になったわけだし、多分念話出来るようになってる筈…少し待っててくれ」


「待っててくれってそんな直ぐに出来るんですの?」



俺は意識を集中して三人に念話を飛ばす。



『こんな感じだが三人とも聞こえるか?』


「聞こえますわ!」「はい」「うむ」


『出来なくはないみたいだな』


「念話出来たんですのね…」


『そう言えば人にこうやって助言してた時もあったな。大分昔の出来事だから忘れてたよ。…よし。三人とのパスを繋いだから、繋げたいと思ってから『マスター』と頭の中で呼びかけると繋がるぞ。

念じるだけで良いからやってみろ。別に三人同時でも大丈夫だから何でも適当に話してみると良い』



頭の中でマスターと呼びかけ、念話が繋がる不思議な感覚がした後三人一緒に話しだした。



『私頑張りますから、帰ったらまた撫でてください!』

『情報収集頑張って来ますわ!ですので帰ったら私を撫でてください!』

『なるべく人を喰わないように頑張るから一人も喰わなかったらご褒美を欲しいのじゃ!』


『欲望がダダ漏れだが大丈夫なようだな。帰ったらちゃんとご褒美やるから頑張って来い。ヴリトラは絶対に人喰うなよ』


『流石マスター三人同時に聞き分けるとは』

『三人同時に聞き取れるとは流石マスターなのじゃ!喰わんから安心するがいい!』

『ご褒美楽しみにしてますわ!』


「ああ、もう念話じゃなくていいぞ」



頭の中でずっと三人同時はきついので止めさせる。



「ちなみにだが俺を通して全員と会話することも可能だ。眷属同士の会話とやらはよくわからんが、基本的に俺と話すときは俺だけに聞こえると思ってくれて大丈夫だ」



プライバシーはやっぱり必要だからな。眷属同士の会話に入り込むような無粋な真似はしない。



「有難う御座います。これで連絡の問題は解決しました。後はヴリトラの寝床にある素材を取ってからですね」


「だな」


「では向かうとしようかの」


「ええ」



俺たちは寝床を離れてヴリトラの寝床だった場所に向かう。



「相変わらず骸ばっかだな」



ヴリトラの寝床に魔法で降りてきた所でそう呟く。



「それは仕方ないことじゃ」


「色んな種類の骨がありますわね」


「骨の素材には困らなさそうです」


「さて、じゃあ素材になりそう物とか、なんか売れそうな物を探すか」


「わらわが集めた光物も中にはあると思うのじゃ!」


「ならそれも含めて探すぞー」


気合を入れて骸の山をガシャンガシャンとかき分けつつ、頑丈そうな魔物の骨や人が装備してたであろう武器などをかき集める。

たっぷり一時間ほど探した後、一か所に集めた素材達の確認を行う。



「えー色々と探した結果、なんか色々見つかったので整理したいと思う」


「私が取り込める物の量も決まってますので、何を持っていくか吟味した方が宜しいかと」


「見つけた量が量だからな」


「わらわが長年集めてきた残骸じゃから凄い量があるのう!」


「ええ、こんなにあるとは思ってませんでしたの」



見つけてきた物の量は、大半が魔物の骨を占めており、同族である筈のドラゴンの骨も混ざっていた。

他には人が装備していた剣や槍などの武器類、革から金属に至るまでの防具類、アクセサリーもちらほら混ざっていた。



「基本的に売れそうなのはこのアクセサリー類と、武器防具か。素材はまだわからないから置いとくとして、アクセサリーは取り込んでくれ。

容量に空きがあれば武器と防具も質がよさそうなのは頼む」


「かしこまりました」



エレアに質が良かったアクセサリー数十点と剣を数点、防具を数点取り込んで貰う。



「多く売る必要ないから高価そうな物だけ売って、後は俺が素材に戻して建材として使うか。素材を売るのは量が多いしやめておこう」


「全て売りに行く必要ないですものね」


「ドラゴン形態なら運べなくは無いが量が量だけに厳しそうじゃの」


「後の作業は俺がやっとくから、三人は街まで行ってくれ」


「それはいいのですが、街に行くなら鞄とか荷物入れに物を入れないと怪しまれるのでは?」


「あ…」



すっかり忘れていた。アイテムを収納する能力は人にない。

鞄にそういう魔法をかける事は出来るから、それを所有している人はいるからどちらにしろ鞄は必要か。



「鞄作らないと駄目だな、すぐ作るから待っててくれ」


「お手数おかけします」



俺は革装備をクリエイト魔法で一枚に戻し、そこから貴族が使いそうな革の鞄を生成した。



「じゃあこれで頼む。エレアなら鞄から取り出すように手から出せるから問題ないよな」


「はい大丈夫です。しかし武器や防具は如何致しましょう?」


「あー、馬車を借りれたらそれに全て出して売りに行けばいい。アクセサリーだけは鞄からで」


「承知しました」


現時点でのエレアの収納力は家一つ分位だ。島の魔物を狩り終わった時に確かめている。ちなみにその収納したアクセサリーや武器防具なのだが、クリエイト魔法と水と火魔法を駆使してなるべく綺麗にしている。

防具とかの中の肉片を洗い出すのは些か苦労したが綺麗にはなった。




「準備はこれで大丈夫か?」


「「「大丈夫です(わ)(じゃ)」」」


「よし。じゃあ後は三人で街に行って…あ、ヴリトラに乗って行ってもらうがドラゴン形態で街に近付き過ぎるなよ?あと服はちゃんと着るように!」


「わかっておるわ。安心せい」


「あと、三人は貴族に使えるメイドと言う設定か、ルナをお嬢様にして仕えている設定のどっちが良い?」


「それなら三人ともメイドで良いと思いますわ。お嬢様とか出来ない気が致します」


「そうか?ルナがそう言うなら三人ともメイドの設定で頼む」


「「「イエスマスター」」」



準備が整ったので、俺たちは一旦ヴリトラの寝床を出る。

すこし開けた場所でヴリトラがドラゴン形態になる。そしてその背中に二人を乗せ、行ってきますと飛び立っていった。

俺はその光景を三人が見えなくなるまでずっと見つめていた。

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