第6話 BOD

ドラゴンの住処に付いた俺は、すっかり暗くなってしまったので巨大な穴の横で焚火をしていた。焚火を木でつつきながらふと嫌な考えが頭をよぎる。

よくよく考えたらもしかしたらドラゴンなんていないのでは?

昨日寝ていた時も振動とか音とか聞こえてこなかったし、もうどっか別の場所に住処を移したとか、何処かで討伐されてくたばっていてもおかしくは無い。

俺が管理していた時はそんなに気にかけて無かったから、ドラゴンが何をしているのかなど全く分からない。

もっとちゃんと世界を見ておけば良かったと後悔しても仕方ない。



「はあ、やってしまったか…」



ため息が漏れてしまっていた。どうせ聞いている奴など居ないのだから気にしなくてもいいんだが、

独り言は虚しくなるのでなるべくしないようにしている。神だった時はずっと一人だったので頻繁にしていたが……。



「グオォォォォオウ」



と、唸り声が島に響き渡る。今帰ったと伝えているかのように唸るそれは、暗闇を切り裂いて島の周りを数度旋回した後、

俺が焚火をしている所の真上に羽ばたいて来て、ゆっくりとその巨体が目の前に降りてきた。警戒するように唸り声を発しているが、魔力を出していないからかすこし油断をしているようだ。



「グオォォォウ」


「初めましてかな。俺は元神様だった今はただの人間だ」



俺の目の前に鎮座するそれは、ドラゴンの最上位種『エンシェントドラゴン』の中でも特殊な奴がなれるであろう『ブラッド・オブ・ダークネス・ドラゴン』であった。

厨二病心をくすぐるネーミングだが、ちゃんとした由来はある。


遥か昔、まだ俺が神として管理していた時代。

人は繁栄の時を迎えていた。欲にまみれ、業を積み、あらゆる魔物を淘汰し、魔力に酔いしれ、全てを我が物顔で支配していた。

ひとえに、俺の管理ミスのせいで人が駄目な方に成長してしまった時代があった。さすがにこのままではまずいと対策を講じて進化させたドラゴンがそれだった。

その時は名前を付けて無く、ただ黒いエンシェントドラゴンと言っていたのだが、

暗闇を切り裂いて飛び、食事をするかのように人を食べ、殺し、黒い巨体を返り血で染めたその姿をみて、人がそう名付けて語りついたのだとか。

だから人は今は程々に成長をしている。過去の戒めを忘れないように。


と、そんな逸話があるのだが今はおいとこう。

俺は目の前のドラゴンに話しかける。いきなり襲ってこないと言うことはどうやら言葉はある程度理解できるようだ。



「いきなり現れて申し訳「バグンッ」……」



全てを言い終わる前に食われた。咀嚼されてグチャグチャになって飲み込まれてしまった。まぁ直ぐに復活するけど凄く痛い…。

意識は残っているので、自分がどうなっているかを把握する。

俺の体は胴の半ばから噛みちぎられて租借され、少し後に下半身が飲み込まれてきた。クッソいてぇ。これで死なないんだから本当にどうかしてるよな…。あー、どうしようこれ。体は直ぐに復元するけど、腹に風穴開けて脱出するか?

完全に復元するまで時間かかるし、と冷静に考えていると、フワッとした浮遊感を経験したのち、ゆっくり体内が脈打つのを感じる。



「寝床に入ったか」



上半身が復元した所でそう口にする。

割とマジでどうしようか考えてみる。

殺しても良いんだけど、ドラゴンとしては破格の性能で超優秀なんだよな……。

なんたって国を滅ぼせるわけだし……あれ?なんでそんな奴がまだ存在してるんだよ!

あ、そういえばあの後ドラゴンの処理ってしてないかも。やべぇ、確実に俺の責任じゃん!やってしまった感が否めないが、これはどうしようもない。

てか、今まで生きてこれていたことに驚きだわ!

何千年か何百年前の出来事だったか覚えてないけど、長寿な事は間違いないな。

殺すのは非情に惜しい!なんだか昔の顔なじみに会ったような気さえしてくる。

……今はお腹の中でグチャグチャにされているんだが。

しかしこいつなら名付けるのもありかな。

取りあえず脱出しないと話にならん。

と言うわけで、完全復元が終わった所で魔力を少しだけ解放するか。



体から魔力を解放して少し威圧を加えてやる。俺を食らった罰だ。

驚いて吐き出すがいい!

すると案の定グオオゥと苦しそうに唸った後、ドラゴンはビクッと体を震わせて、咽るように胃の中にいる俺を吐き出した。



「グルルウゥゥゥ」


「ったく、いきなり食うなよな…」



腹から出た後も威圧を加えておくことを忘れない。

グチャグチャにされたわけだし、少しだけ痛い目を見てもらわないとな。



「俺がだれかわからないのはまあ良いさ…でもいきなり食うのは失礼だろ?

と言うわけでお前、おしおきな」


「グルアァァァァ!!!」


俺の態度が気に入らなかったか、今度はブレスを吐いてくる。

ブラッド・オブ・ダークネス・ドラゴンでは長いのでBODブラッド・オブ・ダークネス・ドラゴンとするが、BODブラッド・オブ・ダークネス・ドラゴンのブレスは暗黒魔法と同じ効力を持ち、当たれば呪われるのだが、俺には効かない。

だが当たってやるのは癪なので、クリエイト魔法で土のドームを作り出す。

硬度を極限まで高めているのでそうそう壊れることは無い。

が、ブレスが効かないと分かったBODブラッド・オブ・ダークネス・ドラゴンは、前足でドームを押しつぶしてきて、俺はそのままドームごとつぶされてしまった。



「グルゥ!」



勝ち誇ったような唸り声を挙げるBODブラッド・オブ・ダークネス・ドラゴン。そんな唸り声を聞きながら圧死無効で無傷の俺は地面から起き上がる。



「もう終わりか?」


「グルオゥ?」


「そりゃそうだよな、普通の人は今ので死ぬはずだ。てか、飲み込まれてから出て来た事にもっと驚いて欲しいんだが、まぁ生憎と普通じゃないんでな」



その態度に怒るBODブラッド・オブ・ダークネス・ドラゴンは怒りの咆哮をあげる。



「ああ、はいはい。わかったわかった」



普通の人なら恐慌状態に陥るが、俺は特に怖く無いので平然としている。

体をグチャグチャにして更にはベタベタにされたし、もうなんだかめんどくさくなってきた。死にまくって得た魔法で格の違いを判らせるとしよう。



「死んでも恨むなよ?『サンダーボルトレイン』」


「グゥアアアアァァァァァァァァァl」



魔力を程々に込めて放った雷魔法は、俺の手から幾重もの雷を伴いBODブラッド・オブ・ダークネス・ドラゴンの真上に渦を巻く。そして数瞬の後眩い光を放ちBODブラッド・オブ・ダークネス・ドラゴンに降り注ぐ。

うむ。ドラゴンにはやっぱり雷だと思うんだ。

なんだかいい匂いがするが、気にしてはいけない。ってあれ?強すぎたか?



「やべ、威力調整ミスったかも。おーい大丈夫か?」



……返事がない。ただのドラゴンステーキのようだ。

死んでも恨むなとは言ったがこれではまずい、治癒魔法なんて使えないしどうしよう。取りあえずヒト化させて様子見するしかないか…。

治癒魔法覚えておけば良かったと今更後悔しても遅い。

ヒト化させるのは良いとしても名前どうしよう。BODブラッド・オブ・ダークネス・ドラゴンが残る感じの格好いい奴が良いよな…よし。



「お前の名前は『ヴラド』だ」



何処かの世界での鮮血公の様な名前だが気にしない。

俺が名前を付けたあといつも通りの光に包まれた。

三回目となると慣れたものだ。そして光が収まると、雷魔法での傷は消えており裸の女性…が…って女性!?

致命傷を与えていたはずだったが、ヒト化すると完全回復するらしい。なんとも便利な能力…ひとまず命の危険がないことに安堵する。

いやいやまてまて、明らかにオスだったろあの巨体!なんで女性なんだよ!あんなに声も野太かったのにおかしくね?

いや、もしかしたら雌雄同体なのかも?なんてあり得ないだろ!マジか…女性だったのか。ヴラドって名付けたのは男だと思ったわけでありまして、どうしよう…



「ん、うぅ」



やっべ、もう気が付いた。



「はて?ここは……」


「お、おう気が付いた…か」



平静を装って話しかけるが、ちょっと声が上ずってしまった。長年一人だった事の弊害か…くそぅ。



「主はあの時の人間!って、なんでわらわが人間になっておるのじゃ?もしや主が……」


「まあ、なんだ、俺が名前を付けたせいだな」


「名前をのう…む?確かに記憶に刻まれておるわ」


「そういう事だ」


「しかしヴラドとは、男っぽい名前を付けてくれたもんじゃのう」


「それに関してはすみませんでしたぁ!」



即座に頭を地面に付ける。いついかなる時でも謝るときは姿勢正しく誠意を込めて謝らねばならないのだ。



「うむ。まあよいわ」


「は、ありがとうございます。と冗談はここまでにして、まあ話は変わるんだが、俺がお前のマスターになった…何か異論はあるか?」


「無いと言えば無いし、有ると言えば有るのじゃが」


「なら取りあえず俺の話を聞いてから判断してくれ、ここではなんだから俺たちの寝床に移動するが良いか?」


「主の言う事には逆らえんようじゃし構わんよ」


「それは助かる。て、別に強制じゃないし逆らうと思えば逆らえるぞ?」


「そうしたら話が進まんじゃろ?」


「まあな、じゃあ付いてきてくれ…と言いたいところだが」


「なんじゃ?」


「服…ないか?」



今までの会話の中でもヴラドはずっと裸だったわけだが、今更ながら不味いと思い服がないかと問いかける。



「服か、主が着ているようなものの事じゃな?あるにはあるのじゃが…」



そういって周りを見渡す。



「もしかしてこの残骸の中に?」


「わらわが食べた人間の服の切れ端とか、適当に拾ってきた物なんかがあったと思うのじゃ」


「それはなんともバイオレンスな事で、まあ仕方ないから集めるか」


「すまんのう」



流石に裸のままでは仕方ないので服を探しに骸を漁る。ガシャガシャと踏みつけながら服の切れ端やらをかき集めると結構な量になった。

切れ端のままだとめんどくさいので、クリエイト魔法で布にしてまとめる。本当に便利な魔法だ。

布が手に入ったので、一旦ヴラドと一緒に外に出る。

竪穴の中はあまりにもあれな感じなので長くは居たくなかった。

階段を作ってもいいのだが、時間がかかりすぎるのでエレベーター式に地面を伸ばした。



「お疲れさまなのじゃ」


「ああ、じゃあこの布で服を作るから両手を広げてくれるか?」


「わかったのじゃ」



ヴラドに両手を広げてもらい、俺は布を押し当てる。イメージはメイド服で良いか。

万能魔法となっているクリエイト魔法で服を形成していく。ブラドの髪は黒なので、白を基調としたデザインにしておいた。



「よし完了だ。中々似合ってるぞ!」


「そうか?まさかわらわが人の真似事をするなど思ってもみなかったのじゃが、中々に良いものじゃの!」


「あまりにも凶暴だったら消滅させようと思ってたけどな」


「確かにあの威力の雷を連発されたら一溜りもないのう。加減してくれて助かった」


「加減と言うか、本気でやると天変地異になりかねないから抑えるしかないんだよ」


「流石は神様と言うところかの」


「まあその辺の話は寝床に着いてからじっくりするよ、紹介したいやつも居るし。

でもその前に唾液にまみれた俺の体をどうにかしたいな。べとべとで気持ち悪い…」


「それは申し訳ない事をした。人間ごとき一瞬で食べれると思ったからの、まさか腹から出て来たリ、魔法を打ってきたりとここまで強いとは思っておらなんだ」


「その話も追々な」



服を作り上げた後、話もそこそこに寝床に向かう。その道中に川で体を綺麗にしてさっぱりとしつつ、ヴラドにはエレアとルナのスライムが居ることを先に話しておいた。

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