アルト公の想う者01


「くあ」


 日常が戻ってしばし。


 今日は体育があった。


 照ノは、海パンを穿いて、プールを楽しんでいた。


 温水プールだ。


 学院にはそんな物もある……というか完全に黒字経営であるため、「税金対策に金を明かしている」が事実の裏側に存在していた。。


「おや?」


 とは照ノの疑問。


 水着を着ながら、授業に積極的でない御仁がいた。


 それがクラスメイトなら放っておくところだが、


「エリス嬢……」


 彼女は例外に属する。


「泳がないので?」


「泳げないので」


「それはまた」


 苦笑する照ノだった。


「練習もしないので?」


「意味がありませんから」


 自然、


「――?」


 となる。


「一応、二次変換について調べてみたんですけど」


 スマホを差し出される。


「役に立ちませんね」


 然もあらん。


 文明崩壊を内在する情報は、検閲される。


「それで?」


「私の家は呪われているんですよ」


「呪い……」


 照ノとしては珍しいことではない。


 先の吸血鬼のガンドもそうだが、人を不幸たらしめる呪術は、二次変換でも、特に憂慮されるべき手段だ。


「真駒家は、繁栄に伴い、御流様みながれさまの呪いを受けます」


「御流様……」


「であるため、水中は鬼門なんですよ」


「どうにか出来ないので?」


「真駒の繁栄を無視するなら出来ましょうぞ」


「名家で?」


「田舎大名です」


 彼女の苦笑は、少し深刻だ。


「要するに悪魔の実を食べたと?」


「その解釈で間違い在りませんね」


 プールや風呂に入れない点では、たしかにその通り。


 シャワーが限界ギリギリらしい。


 清潔を維持する意味では、「最悪には至らない」というのがエリスの論拠。


「金槌でやんすか」


「そうですね」


 穏やかにエリスの微笑む。


「ふぅむ」


「ま、然程気にするものでも無いでしょう」


 彼女は言う。


「別段、死ねと言われるわけでも無し」


「そうでやしょうが……」


 思索する照ノ。


「照ノは優しいですね」


「はて?」


 キセルが欲しいところだった。


 さすがにプールには持ち込めないが。


「私の話を真面目に聞いてくださる」


「それくらいはまぁ」


 ガシガシと濡れた髪を掻く。


「そんな貴方だからこそ、良いのでしょうね?」


「何がでやしょ?」


「恋とか?」


「うへぇ」


「お慕いしたり?」


「うはぁ」


「照ノに恋人はいますか?」


「おりやせんよ」


「では付け入る隙もあるとのことで」


「うふぅ」


 さすがに困惑の一つもする。


 クリス、アリスに続きエリスだ。


 ジルも此処に加えて良いだろう。


「私じゃダメですか?」


「おっぱいが大きいのは得点でやす」


「いやん」


 ムニュッと、おっぱいが揺れる。


 ピチピチの学校指定水着が、むしろエロスだった。


「その点クリス嬢は残念無念でやんすが」


 その場にクリスがいれば、刺されていただろう。


 もちろん分かって照ノは言っているのだが。


「じゃあさ。私と付き合ってみない?」


「別段興味もありやせんな」


 それは照ノの根幹だった。


「クリス嬢にも面白くないでやしょうし」


「ツンデレ?」


「でやすな」


 軽やかな肯定。


「そんなのが好きなの?」


「からかい甲斐はありやすな」


 人が悪い……の典型例。


「じゃあ略奪愛に燃えるよ!」


「頑張ってくんなませ」


 照ノの応援には、心がこもっていなかった。


「余裕だね」


「今更でやんすから」


 それもまた事実。

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