エレクトロキネシス10


「ビールとたこわさ」


「オレンジジュースと焼き素麺ー」


 照ノとアリスは、バーに顔を出していた。


 照ノの飲酒に付き合うためで、実際に照ノは……これは必然に相成るが、酒好きではあった。


 シメイが出され、グラスに注がれる。


「お仕事ですか?」


「それは終わった」


 ビールを飲みながら、バーテンダーと会話。


「天常様ならそうでしょうな」


「やったのはこっち」


 ヒョイ、とアリスを指差す。


 ジャズ音楽。


 暗い照明。


 白い髪が、深いオレンジ色を映す。


 美少女……この場合は美幼女か……ともあれアリスの手柄は確かなモノで、照ノとしても無視能わない。


 照ノはビールをグイと飲んだ。


 たこわさコリコリ。


「新参ですか?」


「在る意味でな」


 別種の回答なら、「新種の古参」ともいえる。


 人間の雛形オリジナル


 万物の名を知るアダムカドモン。


 完全な固有の人種であり、その神性は在る意味で人間の最上級と言ってよく、神性に片足突っ込んでもいる。


 その辺の破滅性については、精神的……形而上の疲労があるので、照ノとしても説明は億劫だった。


「ミスも魔術師で?」


「だよー」


 アリスは美味しそうにジュースを飲んでいた。


 たこわさコリコリ。


「で、給料も入るし、酒でも飲もうと」


「光栄ですな」


 カラカラと笑うバーテンダー。


「お兄ちゃんはお酒が好きだねー」


「人類の友にして、神への捧げ物でやんすからな」


 苦笑。


 だがマイナス面はない。


 実際に人も神も、酒は好物だ。


 照ノが嫌うには、好感度が高すぎる。


 ――酒が人類の友とは誰が言ったか?


「アリスも飲みたいー」


「二十歳を過ぎてからでやんす」


 グイと酒を飲む。


 喉越しの良いシメイが口内を幸せにする。


「それにしてもお兄ちゃんも人外だねー」


「元から人外でやすが」


 照ノは天津神だ。


 正確には、人間に分類されない。


 ある種で、アリスの方がまだ健全と言える。


 無論、アリスもアリスで人外一歩手前ていどは行っているが、理論上……あるいは理屈上は人間だ。


 ゴーレムの完全完成形。


「そうじゃなくてー」


「何か?」


「威力使徒を残念しないことー」


「相性の問題でやすな」


 それも事実だ。


 焼き素麺をズビビ。


 梅とシソの香りが口内に広がる幸せ。


「ジンリッキー」


 さらに酒を注文する。


「アリスは無理くさいー」


「慣れれば対処できやすよ」


「本当ー?」


「ええ」


 たこわさコリコリ。


 実際にアリスの神勁は、それほどの価値を有し、なおその応用性は戦いに於いて破滅的と取れる。


「フィジカルブーストはお互い様でやす」


「それはそうだけどー」


「お前様は下地が良いので」


「良いのー?」


「魔術師としてなら一級品でやすな」


「お兄ちゃんよりー?」


「さすがにソレは。小生はある種の究極でやすからな。比較できるほどではござんせんよ……。とはいえアリスも大概でやんすが」


 苦笑する。


 ジンの香りが口内を焼く。


「あくまで人間の範疇なら……でやんす」


「お兄ちゃんは神様だもんねー」


「ええ」


 穏やかに飲んで、頷く。


「概燃とかどうしろとー?」


「まだ人類には早いでやんす」


「神様ならいいのー?」


「神代から研鑽申しております由」


「ラッセルタイムー」


「過去はともあれ、経験の蓄積は、事実でしょうに」


「無敵艦隊ー」


「在る意味で、そちらの神さんの方がタチは悪うござんすが」


「クリスさんも大変だー」


「本心からそう思う候ひて……」


 善意から発する悪事もある。


 何のことかは言わないが。


「それにしても適性は驚かされますね」


「どうだー」


「素直に賞賛させてもらいやす」


「わはー」


 一丁前に嬉しいらしい。


 彼女自身、照ノへは好感触だ。


 ジンリッキーを飲む。


 アルコールが染み渡る。


「うーん。生きているって素晴らしい」


 ソレを言えば、魔導災害も生きてはいるのだが。


「南無阿弥陀仏」


「キリエ・エレイソン」


「甘露甘露」


「アリスも飲みたいー」


「大人に成ったら付き合ってやりやす」


 そんな感じの夜だった。

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