エピローグ「神鎮める酒」


「む~」


「ほれ。『神殺し』でやんす」


 一升瓶を投げやる照ノから受け取って、器にも注がずラッパ飲みする玉藻御前。


 ここは玉藻御前の構築する別宇宙……名を殺生と云う。


 別名、玉藻御殿たまもごでん


 山桜の見える縁側で、照ノとクリスとトリスとアリスと玉藻御前が、花見をしていた。


 照ノと玉藻御前が酒を呑み、かしまし娘が茶を飲んでいる。


 ちなみにジルは、太陽光線を避けるために、結界レッドムーンに引っ込んでいる塩梅。


「どうでやしょ?」


「美味いのう」


「多少は気が紛れやんしたか?」


「む~」


 この話題そのものは、しこりとして残っていた。


 何のことかと云えば、アルトアイゼン製メタルゴーレムとの決着についての不満だ。


「自身で打ち破りたかった」


 と、玉藻御前は主張してやまなかった。


 昔から、神や鬼を鎮めるには酒が効く。


 そんなわけで酒を持って、玉藻御殿に機嫌伺に来たという顛末。


 照ノは、もう片手に持っていた一升瓶に直接口を付けて傾ける。


 日本酒(先述したが神殺しと云う)をまるで水のように呑みこんでいく。


 それから酒臭い息を吐いて感嘆。


「うむ。美味い」


 花丸を付ける。


 さて、


「なんじゃあの決着は……。有り得ないにもほどがあるじゃろう」


 玉藻御前はおもちゃを取り上げられて不満爆発だった。


 酒の力も手伝っているのだろう。


 ちなみに、どうやって決着をつけたかは、クリスとトリスとアリスにも告げてある。


 最初こそ意味を飲みこめなかったものの、かしまし娘は現在では理解している。


 というか、照ノの規格外っぷりは、今に始まったことではない。


「不理解はあっても不納得はありえない」


 そういう心構えが、ワンクッションおいて、照ノの突飛さを和らげた。


 特に照ノ自身は理解を求めて説明したわけではないのだが、それはそれとしてドン引きされなかったのも人徳だろうと納得。


 外れだが。


「せっかくじゃ。良い遊び相手がおったのに」


 一升瓶をラッパ飲みする玉藻御前。


「ですからすみやせん……と」


「謝って済んでも警察はいるぞや?」


「なら謝るだけ無駄でやすね」


 照ノも一升瓶をラッパ飲み。


「つまり御前は自身と拮抗する相手が欲しいのかい?」


「言ってしまえばそうじゃな」


「なんなら相手になるけど?」


 神勁を張り巡らせてアリス。


「おんしの実力はドッカンターボで面白くない」


「ありゃ」


「そうじゃ。クリス。奇跡倉庫を開くんじゃ」


「私の一存では無理ですよ」


「命の危機に見舞われば話は変わってくるじゃろう?」


「う……」


 蛇に睨まれた蛙。


「さぁさぁ」


 目をキラキラと輝かせて詰め寄る玉藻御前。


 無論一升瓶のラッパ飲みも忘れない。


「ラハトケレブとか」


「あう」


「アスカロンとか」


「うう」


「いや、やはりまずは神の御子を殺したセイントキラー……ロンギヌスの槍を味わってみたいのう……。どうかや?」


「私の一存では……」


「固いこと言いっこ無しじゃ。それともここで殺されるかや?」


「断じて御免こうむります」


「照ノ……」


 照ノは一升瓶のラッパ飲み中。


「なんとかなさい」


「小生が原因みたいなものでやすから口を挟む権利はありやせん」


 謙遜する照ノに、


「まったくじゃ」


 嫌味な玉藻御前。


「神罰を具現した蔵物もあろう? それならば天罰魔術で起動したメタルゴーレムに勝るとも劣らないんじゃなかろうかや?」


「照ノ~」


「やはは」


 照ノは軽く笑って流しグイグイと酒を呑む。


「曰く。女と小人は養い難し、とな」


「どういう意味です!」


「どういう意味じゃ!」


「自覚が無いのも困りものでやすなぁ」


 ラッパ飲み。


「ま、それがいいんでやすが」


 仮想聖釘。


 ヒョイ。


 仮想聖釘を避けた後……ぶわっと照ノは冷や汗を大量に流した。


 脅威だったからだ。


 仮想聖釘が、ではあるが本質をついてはいない。


 正確には避けた仮想聖釘が、一升瓶を破壊する可能性についてである。


「安全運転」


 と書かれた扇子を取り出し広げて、


「今この時のみ仮想聖釘は勘弁してくやさい」


 ヒラヒラと扇ぐ。


「どうせツンデレ乙とでも思っているんでしょう!?」


「然りでやすが……」


「ママ?」


 力も意思も込められていない無味無臭の声が、彼女をママと呼んだ。


 トリスである。


 ピタリと止まる仮想聖釘投擲直前のクリス。


「せっかくの景色を血でぬらす気?」


「それは……」


 ぐうの音も出ない。


 単純に、トリスが義を持っているだけのことだが。


「ツンデリッターのツンデレカウンターとしてトリス嬢は役に立ちやすなぁ」


「それほどでも」


 手に持った湯呑を傾けて茶を飲む。


「ヤンデレとツンデレは養い難し」


 ほのぼのとアリス。


「しかりしかり」


 ほのぼのと照ノ。


「暴力以外の方法で此奴を殺すにはどうすればいいのかしら?」


 クリスは、わりかし真面目に思案しだした。


「クリス嬢は可愛いでやすなぁ」


 瞬間湯沸かし機のように火照るクリス。


「ばばば馬鹿云うんじゃありません! い、いみゃさら私がそんな手に乗るとでもももも……」


「ろれつが怪しくなって言葉をかみかみの患者さんは、ツンデレという病に感染した恐れがあります。ただし美少女限定」


「不治の病だね」


「それがツンデレのカルマ」


「死ね!」


 仮想聖釘。


 ヒョイ。


 とっぴんぱらりのぷう。

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