そは堕天する人の業11
「で、人質は解放してもらえやすよね? 小生にはクリス嬢が必要でやんす」
「構わんさ」
いとも平然と、後ろめたい感情なぞ持たず、玉藻御前はクリスとジルを解放した。
「どういうことです!」
これは
母……クリス。
娘……トリス。
「意味不明だ」
と。
「何がでやんしょ?」
「何で聖書の一節を使った魔術錠に、密教の介在が認められているんです!?」
「まぁ数多のモードを並列できるのが小生の
他に言い様も無い事実であった。
「…………」
攻撃的な沈黙を発するカイザーガットマン母娘。
照ノは、ゆったりとタバコを味わいながら飄々。
「熱による神罰と云う点においてメギドの火とインドラの矢は共通していやす。こういった類似性を利用した
メギドの火もインドラの矢も火であり炎であり熱であり光であるならば、照ノのモードに合致する。
当然ソドムとゴモラの一節しか知らないクリスやトリスでは解けようはずもない。
「ま、ネタばらししてしまえばそれだけでやんす。お・わ・か・り?」
嫌味たっぷりに照ノはどや顔。
「初めてママの気持ちがわかったかも」
「どういう気持ちでやんす?」
「パパを滅したいって気持ち」
「小生は愛してやすよトリス嬢」
「ぶっ○したいです……」
「穏やかじゃありやせんな」
特に感慨も無いのか、照ノはとぼけてみせた。
「で?」
そして問題は解決していない。
むしろ悪化してさえいる。
何せ宇宙エレベータを使った魔術実験……天至と天罰は、天罰の方に天秤が傾いたのだ。
「まぁ後は好きにしてくれやっせ」
渾身の魔術錠を自身で解いた照ノは、もはや場の争いから興味を無くし、ぷかぷかタバコを吸う遊び人と成り果てている。
「クリス。トリス。はやく陣の敷設をしてしまえ。天常の気が変わったら面倒じゃ」
「…………」
しばし躊躇う神威装置の威力使徒。
大局から見れば味方…………とはいえ玉藻御前の意図通りに場が進行することに関して、警戒が先に立つのは当然だ。
「ほれほれ。どうしたかや? わらわが照ノの魔術錠を無力化してのけたのだぞ? 後は神威装置として天の御座に至ろうとする概念を打ち砕くほどの神罰を具現するだけであろう?」
ほくほく顔で玉藻御前。
「御前」
クリスが問うた。
「御前の目的は?」
「神罰の具現化じゃ」
「一神教徒でもないのにですか?」
「資格の有無なぞ些事じゃろう?」
「…………」
「こればっかりは一神教のモードを持つ貴様らに頼る他ないからのう。はよう陣取ってしまえ」
「パパ……」
「まぁ十中八九ロクなことになりゃせんでやすが抵抗は無駄でやしょう」
ホケッと重大事をあっさり口にする照ノ。
タバコの煙が、キセルの火皿から、ゆらゆらと立ち上る。
「ていうかアルトアイゼンの使徒に任せなくともいいんでやすか?」
「一神教のモードなら問題なかろうのう。天の御座の否定が由来なら問題ないじゃろ」
「でやすって」
照ノは、
「どうだ」
とばかりにクリスとトリスに視線をやる。
ちなみにジルは輸血パックにストローを指してチューチューと血を飲んでおり、アリスは全体を俯瞰していた。
さて、
「まぁ一応アルトアイゼンの目的と神威装置の目的とは合致していますし」
「この際選択肢は無いってことですね」
そんなわけでクリスとトリスは二次変換を以て場の支配を行使する。
六ヶ所の魔法陣が共鳴し合い、六つの光の柱が、闇の広がる天幕へと向かって伸びる。
イスラエルの国旗にも採用されている様に、
五芒星ともども魔術においては重要な記号だ。
宇宙エレベータ……プライドタワーの周囲六ヶ所の等間隔に光の柱が発生し、そして光の柱同士は光の線で結ばれ、プライドタワーの頂上から地上を俯瞰すれば、正三角形が対称的に重なり合っている図が見えたことだろう。
そうである以上、他の五ヵ所も一神教のモードに支配されていると捉えられるのは容易だった。
そして大掛かりな装置によって成る二次変換が駆動する。
天に上る人の傲慢さを戒める天罰の具現。
バベルの塔やイカロスのエピソードにもある通り天へと至るには反動が発生するモノだ。
あの時は
今回は、照ノにしてみれば、立場をちょうど逆にした形と相成る。
自身の……というより倭人神職会の意図に対する抑止力。
「誰が天の御座に至ることを許可したか?」
という意思。
唯一絶対の神の信仰において許されざる悪への断罪。
光に満ちた。
熱に満ちた。
火に満ちた。
連想させうるならば……照ノの行使する『メギドの火』がもっとも近い。
地上の六芒星は天幕に投射され、宇宙エレベータの頂上にて展開し、それは一つの砲門となった。
直径がプライドタワーのソレより二回りほど大きい魔法陣だ。
それが先述したように火を吐いた。
超高熱のプラズマビーム。
神罰の再現。
当然、魔術的意図も防御能力もプライドタワーは持っていない。
ただ、
「人を天に誘う」
という装置だ。
であるからこその不遜。
であるからこその記号。
であるからこその対象。
そして(結界内の……ではあるが)プライドタワーは神罰魔術によって蒸発した。
「したりしたり」
玉藻御前はご機嫌だ。
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