最凶の荒神VS最恐の妖怪09


「流星……!」


 再度炎のオーラを纏い、紅の羽織をはためかせ、玉藻御前に接近する。


 繰り出されたのは蹴り。


 それもヤクザキック。


 まともに受けた玉藻御前が吹っ飛ぶ。


 ビルの立ち並ぶプライドタワー周辺の建物を突き抜けながら。


 それで終わらないのが照ノだ。


「神代にて、常世を滅ぼす、炎の剣、ラグナロクにて、執行さるる!」


 魔術の言を呟いて、


「レーヴァテイン!」


 事象を、言の葉に投射する。


 二次変換。


 即ち『情報』を『現象』に変換する技術。


 一次変換でも三次変換でもない。


 意味を……意思を……意図を……物理現象へと昇華する技術。


 そうであるからこそ魔術と呼ばれるのだ。


 そして此度の魔術……、


「……シィ!」


 レーヴァテインは、直線的に巨大な炎の斬撃を具現した。


 炎の奔流。


 焔の激流。


 熱波が場を支配し、熱気が人を殺す。


 そんな殺人的な炎を貫いて、


「…………!」


 一条の熱線が、照ノの心臓を射抜いた。


「が……は……っ!」


 ボウ……と照ノが、炎に包まれる。


 概燃がいねん


 概念の燃焼。


 即ち、


「傷ついたという結果を燃やし尽くす」


 という魔術。


 そして照ノは事なきをえる。


「ほう」


 と感心する。


「一極集中をモノにしているとは」


「まぁ暇潰しの産物じゃがのう」


 飄々と玉藻御前は姿を現した。


「しかして天常よ?」


「何でやす」


「手加減が過ぎるな?」


「…………」


 沈黙。


 後の発言。


「本気を出せば、ここら一帯灰になりやす故」


 そして玉藻御前を睨む。


「それはそちも同じでやしょう?」


「然りじゃ」


 くつくつと玉藻御前が笑う。


「そちがプライドタワーを背にしている以上本気は出せんのう」


「なら諦めれば?」


「そうもいかぬ」


 きっぱりと玉藻御前は言う。


「わらわは天罰を具現する」


「何を以て、そんなにおんしを急き立てる?」


「秘密じゃ」


「でやんすか」


 それ以上の問答は、刹那においてだ。


「「流星!」」


 照ノと玉藻御前が、炎のオーラを纏う。


 そを以て最速。


 そを以て最強。


 そを以て最遠。


 引き延ばされた時間感覚の矛盾の中で、照ノと玉藻御前はぶつかり合った。


「何をそこまで駆り立てやんす!」


「何度も言うたろう!」


「秘密でやすか!」


「然りじゃ!」


「しかしてそれが真なるかな!」


「少なくとも娯楽にはなりえる!」


「どういう意味でやす!」


「それを言えないのは既に承知であろう!」


 照ノと玉藻御前は、超超音速でぶつかり合いながら、プライドタワーを駆け昇っていく。


「……っ!」


 時にプライドタワーの側面を蹴り、


「……っ!」


 時に空中の分子を蹴って昇っていく。


 蹴り。


 拳。


 貫手。


 投げ。


 それらを併用しながら、照ノと玉藻御前は相争う。


「小生と戦ってまで為し得るべきことでやんすか!」


「むしろ天常と戦えるだけでも暇つぶしには相違ない」


「面倒な!」


 それが照ノの本音だった。


 そして照ノは駆け上っていたプライドタワーの側面を蹴って宙に浮く。


 当然、宙を蹴って体勢を整えられはするものの、照ノは自然落下に任せた。


「人の世の、乱れて主の、憂えなば……」


 メギドの火を展開しようとした照ノ目掛けて、


「シィ!」


 流星を纏った玉藻御前が襲い掛かる。


 一直線に飛びかかり、照ノに一撃を与える。


「ぐ……はぁ……!」


 超超音速の蹴りは、まさに流星。


 そのまま駆け上っていたプライドタワーの高みから地上目掛けて照ノと玉藻御前は突っ込んだ。


 当然照ノが玉藻御前の蹴りをまともに受けながら……である。


 照ノの肉体は二分されて地面に激突したが、概燃で復元する。


 玉藻御前は元より痛痒を感じていない。


 人外の能力を持つ二人を、魔術師や使徒は畏敬と畏怖の目で見ていた。


「さて……魔術錠を解く気になっかたや?」


「げほ……」


 と咳をして、


「小生はまだやれやすよ」


 諦めない照ノであった。


「面倒じゃのう。概燃は……」


「かか」


 照ノが笑う。


「これ有る限り小生に負けはありやせん」


「心を折るしか無いのかのう」


「折れるものなら」


「狐火」


「アグニビーム」


 そして超高温の魔術同士がぶつかり合う。


 それは神話の再現。


 核兵器より強力な玉藻御前の狐火。


 それに抗しうる照ノのアグニの火。


 炎の頂点を決める戦いだ。


 放出される圧倒的な熱波は、陣地取りをしている魔術師たちに、冷や汗を垂らせるに十二分なソレであった。

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