滲む文字

 さる令嬢が手紙を瓶に入れ、海へと流した。


「あの人に届きますように……」


 それは家の事情で引き離された、恋人への手紙だった。

 本人が拾わなくとも想いが届くよう、手紙にはこんな風に書いた。


 ——この手紙を拾った方へ。

『私は誰のものになろうとも、生涯あなただけを愛し続けます』

 これから名を記す人に、この言葉を必ず伝えて下さい。——


 少女の目がしらから想いがあふれだし文字は少し滲んだ。

 コルクでしっかりと封がされ、少女の心は海へと託された。


 時は流れ、かつての恋人本人が偶然その瓶を拾う。


 すぎた年月は残酷に彼の姿を変えた。もう道ですれ違っても、彼女は彼に気づくまい。

 落ちぶれ酒に酔い、千鳥足で浜辺を歩いていた彼は、ちょうどいいところでその瓶を見つけた。

 中に何やら紙が入っているようだが、彼の用途には関係がない。


「へへへ……」


 彼は瓶のコルクを外すと、中に小便をした。

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