67. 礼二の悪癖は他所の家でも発揮されるか?
ヤミーは一人で風呂に入れるのか? という疑問を元に、真弦と美羽はヤミーと一緒に風呂に入る。
ヤミーの姉の好絵曰く、ヤミーは一人では何もできない娘らしい。
風呂の介助まで好絵がやっていた事を聞かされており、美羽が心配して一緒に風呂に入る事にしたのだ。
ヤミーとは猫の吾輩がいないと場が持たないという事で、なぜか吾輩も風呂に入れられている。
吾輩は昔風呂嫌いだったが、今ではすっかり風呂に慣れた。
吉良家の風呂は広い家に見合った大人が3人まで入れるジャグジー付きの広い風呂である。湯船は円形で、余裕で人間が足を伸ばしてくつろげる大きさになっている。
真弦と美羽は二人で泡の浮いた湯船の中に入り、体を洗うヤミーを見守った。
掛け湯を浴びるヤミーの肌は陶器のように真っ白で美しく、水分を適度に弾いて光り輝いている。張りのあるお椀型の胸は朱を差して艶やかに色づいている。
同じように大きなおっぱいを持つ真弦のレーズンみたいな黒ずんだ乳首とは違い、ヤミーは淡いピンク色の乳首をしている。真弦のレーズン乳首は妊娠と出産による着色なので仕方がない事だが、こうも乳首で年齢が現れるのか。美羽はヤミーのピンク乳首を見て自分の乳首を自主的に隠していた。
「なんだ。あいつ出来るじゃん」
ヤミーは何の事もなく、泡の付いたスポンジで体を洗っている。瞳はDVDや前世の話をしていないので死んだ魚みたいだ。
「好絵ちゃんが過度に世話を焼いていただけみたいだね」
ヤミーの日常生活に対しては安心してみる。
真弦が安堵のため息をついていると、体を洗い終えたヤミーが湯船に入ってきた。
「何でしかコレ?」
早速、礼二が仕込んであった盗撮用の小型カメラを泡だらけの湯船の中から発見する。
小型カメラを覗き込み、盗撮されてると判明すると窓を開けて外に放り投げた。
「そこのおばさん達、レディの柔肌を盗撮しようだなんてけしからんでしね」
ヤミーは死んだ魚の瞳で真弦と美羽を交互に見つめた。まるで哀れな生き物を見ているような目だった。
真弦は横に激しく首を振る。
「ごめんね、それ、お兄ちゃんの仕業なの!」
美羽が即座に謝ってもヤミーの不機嫌は直らない。それっきり口を利かなくなってしまったのだった。
「そろそろ糞兄を警察に突き出したらどうなんだ?」
真弦は兄の監視を嘆き悲しむ美羽の肩を優しく抱く事しかできなかった。
礼二の悪癖は吉良家に来ても改善の余地は無かったようだった。
風呂上がりのヤミーは服を着ずに黙って突っ立っている。ほんのり桜色に色づいたメロンみたいな大きさのおっぱいから湯気が上がっていて妙に美味しそうにも見える。紅色になった乳房の先端からは水滴が落ちていた。
「ねえ、服着ないの?」
既に妊婦服を着た真弦がヤミーに話しかけるが、ヤミーは無言でタオルで体を拭いてからベビーオイルを全身に塗っただけで特に何もしない。
しばらく経ってもヤミーに返事はなく、裸でバスルームを出て行ってしまった。
「げ、あっちには礼二がいるのに……!」
「まずいよ真弦! 追いかけよう」
下着のままの美羽は慌てて服を着てヤミーを追いかけるが遅い。
ヤミーに追いついた時には全裸のヤミーが礼二と対面していた。礼二の真正面におっぱい丸出しの全裸のヤミーが突っ立っている。
「よう美羽、いい風呂だったか?」
礼二は年頃の娘が全裸で真正面にいるのに気にもせず、気楽に美羽に話しかけてきた。盗撮の件は特に悪びれた様子を見せていない。
……礼二の目は完璧に節穴のようだ。全裸の少女でさえ美羽の前では空気にも感じる。
「牛蒡男爵、そこをどけでし」
ヤミーは異性がそこにいるのに全裸でも恥ずかしくないようだった。彼女に羞恥という概念は皆無なのか、はたまた世間に無頓着なのかはよくわからない。盗撮は許さなかったのに何故なのだ? 意味が分からない行動をとる少女だな。
一つだけ確かなのは、礼二とヤミー双方は互いに眼中に無いみたいだ。
この異常な光景を追いかけてきた真弦と美羽はぽかーんとしていた。
唖然としている真弦と美羽を差し置き、全裸のヤミーは冷蔵庫を開けていちご牛乳を取り出していた。勝手にコップを見繕って注ぎ、腰に手を当てて一気にあおった。オヤジみたいだな。
「まるで自宅みたいな振る舞いだなあいつ……」
「他人様の家で行儀が悪すぎるわ」
真弦と美羽は互いに目を合わせると、ヤミー再教育を決意するのだった。
だが、薔薇園亜梨香だけしか興味がないヤミーが話を聞いてくれるのだろうか……?
「ただいまー! うわっ」
小学校から帰ってきた真弓は全裸で室内をうろつくヤミーに驚いた。やはり子供でも異常に感じていたのだろう。ぽかんとしていた。
さすがにヤミーをずっと裸にさせておくのは子供の教育上困るので、美羽が何とかして服を着せてやるる事にする。
真弦は保育園に子供達を迎えに行っているので一人でやる。
「闇音ちゃん、いつも服はお姉さんに着せて貰ってるの?」
美羽はヤミーに歩み寄ろうと、中二病の方のネームで呼んでやる。するとヤミーは素直に頷く。羞恥は全く無いようで風呂上りは裸が当たり前だと振る舞っている。
メロンが二つくっついた様なボリュームのある胸はプルリンと震え、貧乳である美羽を睥睨しているかに見える。美羽は頑張って耐えた。
「ボクは着たい時に服を着るでしから、暗黒ババアは出ていくでし」
客間の中でヤミーのネグリジェを持っていた美羽はカッチーンと固まって表情を凍らせた。
既に怒りの限界が来ているようだった。
バタン! ドアが閉まり、部屋の外から垣間見ていた吾輩の視界が遮られる。
怒った美羽がヤミーに何をするのかわからないが、これは珍しくて見るべきなので礼二に報告すべきだろう。
そう思って四肢を立ち上げると、既に礼二は小型カメラとノートパソコンを持ってドアの前に立っていた。盗聴は既にしているのか、耳にイヤホンを装備している。
早速妹バカの変態が現れたようだ。
ドアの外から漏れ聞こえるのは、ヤミーの嗚咽の混じった喘ぎ声である。
部屋の中で一体何が行われているのだろう? 美羽の教育者としての立場を利用したエロいお仕置きだろうか?
『あっあっ、おねえたま、許して……!』
ドアの隙間に差し込んだ小型カメラは調子が悪いのか、礼二の巧みな操作でもブラウザの砂嵐は改善されない。
「チッ」
舌打ちをした礼二は手動のドリルを持ち出してきて、こっそりドアに穴を開けようとする。
「ただいまーって、おい!」
小さい子供達を引き連れた真弦が帰ってくると、自分の家のドアに穴を開けようとする礼二を発見した。
礼二は客間の前から即座に追放される。
「我が家の備品を傷付けるのは許さんと何度も注意しただろう」
「ケッ!」
礼二は愛する妹の為には他人様の家の備品を壊そうと何しようと平気な様子をしていた。幸い、客間のドアは無事だった。
怒れる美羽に屈服したヤミーはネグリジェを着せられ、軽い食事を済ませて早々に客間で就寝する。
「はあー、やっと寝たね」
美羽は今日の任務を終えてニコニコ顔に戻っている。ストレスは解消されたようで、肌が心なしかつやつやになっていた。
「みんな、好子ちゃんが先に寝てるから静かに寝ようね」
そう言うと、美羽は真弦の子供達と一緒に各自の布団を客間に運んだ。これは美羽の「作戦」で、ヤミーが集団生活に慣れてくれる訓練にするそうだ。
子供達はこっそりヤミーの布団の周りに自分達の布団を固めていく。まさに大家族の部屋といった様相で空間がとても狭くなった。
「おやすみなさーい」
美羽は子供達をヤミーと一緒に客間に寝せると、さっさとリビングに戻った。
翌朝、吾輩は人間の団子の中で目を覚ました。
冷え込む夜中は生物の中心にいるとなかなか暖かいのだが、早朝になると誰かに蹴られたりしているので穏やかな眠りではない。
「うーんうーん……」
ヤミーは双子の光男と光太の足の裏に顔を挟まれてうなされている。昨晩は人形のようだった寝顔が今朝は歪み、哀れな容貌を見せている。
吾輩は誰も起きていない朝の廊下を闊歩するのが好きだ。冷えた廊下が心地よい。
犬みたいに肉球から爪をはみ出して歩く事もないので歩みは静かなものだ。
客間のもう一つを開けてみると、礼二が既に起きていてパソコンに向かいながらマスをかいていた。美羽が同室ではないので気楽なものだな……ん?
どうやら礼二は盗撮のカメラに反応してマスをかいているようだぞ。
一体どこでこれが……?
「ニャーン(礼二は今日もお盛んだな)」
ここは吾輩の家なので当然ながら礼二のいる部屋に入る。
礼二のパソコンのブラウザには美羽の幸せそうな寝顔が映されていた……。美羽よ、今日も兄はかなり終わってるぞ。
美羽は真弦の仕事部屋の床に布団を敷いて真弦と一緒に寝ているようだが、この事実を何も知らないようだった。……ん?
よく見ると美羽だけが裸の肩を布団から出して寝ていた。んん? 裸?
牛山兄妹はやっぱり何処かがおかしかった。
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