56. 事実的処女と事実的童貞




 虎次郎は腕時計を見ながら美羽と向き合う。


「お兄さんが帰って来るまでまだ時間はあるよな」


「え、ええ。そうね」


 美羽も携帯のディスプレイを見ながら頷く。


 そして、若い男女が行く所と言えば一つしかなかった!!

 猫の私を連れて近場のラブホテルへ直行したのでした。




 ペットの私は早速、ホテルの一室で放し飼いにされましたよ。

 やっほー外よ! とはしゃいでキングサイズのベッドに飛び込む。


「お先にどうぞ」


 美羽は笑顔で虎次郎をバスルームへ行かせた。

 そしてすぐさま、ベッドの隅の方に座って表情を変える。


「どうしよう、タレ蔵ちゃん……」


 怯えた表情で私を抱っこする。

 美羽の素顔は多分、私しか知らないのかも知れない。

 細い肩を震わせた美羽は不安げに虚空を見つめている。もしかして、今まで彼氏と付き合っててセックスは初めてと言うんじゃあ……!


「にゃーん……(大丈夫よ、美羽)」


「わたし、本気で男の人を受け入れられるか分からないよ。初めてがこんなノリだなんて……」


 やっぱり初めてだったー!!


 バスルームからシャワーの音が聞こえてきている。虎次郎は何を考えてシャワーを浴びているのかはこちらは分からない。


 しばらくして、虎次郎がバスルームから出てくる。

 体や髪の毛を洗って、姿はバスタオル一枚。鍛え上げられた鎧みたいな筋肉の隆起が湯上りの湿気と熱気でピンク色に輝いている。


「きゃあっ!」


 おぼこな美羽は虎次郎の肉体を見るなり顔を真っ赤にして両手で目を覆った。そうよね、いつもは礼二のヒョロヒョロな肉体や保育園男児の小さな体に見慣れているけど、こんな逞しい男の人の肉体を見る事なんて縁が無かったものね。

 虎次郎は相手の意外な反応に驚いて頬を赤らめる。

 ちょっとちょっと、二人とも中学生や高校生みたいな反応しないで頂戴よ。

 甘酸っぱい雰囲気が部屋いっぱいに広がってきた。


「あ、あの……。美羽さんも風呂に入ってきたら?」


 虎次郎は照れながら美羽に体を洗うよう促してきた。

 そ……そろそろ! そろそろ……!?


「はい……。わかりました」


 美羽は覚悟したように頷くと、猫の私を置いてバスルームへしずしずと入って行ってしまった。

 見送る虎次郎は安心させようと優しい笑みを浮かべて手を振っていた。


 そして、


「……汚い毛色の猫だな」


 虎次郎にベッドから追い払われた私は、備え付けのソファーに寝そべる事にした。


 美羽がバスルームで体を洗っている間、虎次郎は備え付けのケーブルテレビを点けてエロDVDを見る事にしたようだ。


 エロDVDは『団地妻の痴態』というらしい。テロップでテレビの左上にずっと表示されている。


『ハァハァ、奥さん! ここがぬとぬとになっちゃってるよぉ?』


 運送屋のオヤジの男優と団地妻を演じる熟女の女優が生活臭満載の玄関で馬鍬っている映像だ。

 あ、コレ、見た事あると思ったら、パトリシアがいない時間に英二が見ていたDVDじゃない。

 後で隣の浪人生役の男優に見つかって3Pに突入するのよね!


 複数で淫らなセックスしている映像を見ている虎次郎の顔は始終真顔だった。

 特に興奮するでもなく、女優さんのほぼ無修正の恥部を見ても表情は変わらない。むしろグロテスクな貝類を見ているかの目つきで冷静である。

 重要な事だが、勃起はしていない。


 エロDVDに好みがあるのかしら?

 人間それぞれの性的嗜好って違うのか。余談だけど、美羽の父の英二はこの熟女DVDで興奮して勃起してたわよ。

 この女優さんは虎次郎の対象年齢ではなかったのでしょうね。


 虎次郎はチャンネルをザッピングして、何故か学園物のホモDVDを見つけた。


『貴様は、抱きたいか? 抱かれたいか?』


『ハイ、抱かれたいです!!!!』


 格闘技場みたいな部屋で学ラン姿の男が二人が向き合っている。

 テロップには『抱かれたい男道場』と書かれている。このホモDVDの話を、BL同人作家の天上院真弦が飼い主の玉五郎父ちゃんから聞いた事がある。

 学ランの先輩後輩がくんずほぐれつ凸と凸をぶつかり合わせて汗を飛び散らせる青春ストーリーよ。外見はオヤジだけど、二人とも学生って設定を忠実に守ってるの。

 また聞きなのだが、天上院真弦曰く、子育てに疲れて自殺したくなった時に見ると馬鹿馬鹿しすぎて爆笑した後はどうでも良くなるらしい。


『ハァハァ、ハアハアハア!』


『どすこーい! どどすこーい!』


 先輩役の男優が後輩役の男優のアスタリスク(*)に肉棒を突き刺して前後に動かして熱い稽古を展開している。ノーマルの生き物が普通に考えて、とてつもなく馬鹿馬鹿しいと感じる内容です。嫌悪感よりも先に、男優さんの真剣な演技と内容の下らなさで爆笑が巻き起こる事間違いなしです。


 そんな糞DVDを見ながら虎次郎は……。


「ふう……」


 タオル一枚の格好で一人、勃起して男泣きをしていた。何故?


 ガチャッ。

 バスルームのドアが開き、湯船で火照った美羽がバスローブを纏って出てくる。

 虎次郎は慌ててホモDVDを消して居住まいを直した。


「あのう、ドライヤーはどこに?」


 濡れたショートヘアから水滴が滴ってきそうな美羽はキョロキョロと室内を見回している。

 このラブホテルのバスルームは脱衣所が無いのか、髪を乾かしたりするドレッサーが愛を確かめ合う部屋の中に設置されていた。


「ほら、そこにドレッサーがあるよ」


「はうっ!」


 美羽は顔と全身をゆでだこみたいに真っ赤にしながら虎次郎の視線を潜り抜けた。

 乾きやすいショートヘアの癖に、あえてゆっくりドライヤーで髪の毛を乾かしている。美羽は冷静になれるまでそうしているようだった。


 美羽の細くて小さな背中を見つめる虎次郎は焦れている様子を見せようともせず、じっとベッドに座って目を閉じて精神統一をしている。

 蕪木虎次郎という男は、性欲に忠実な美羽の兄の礼二とは全く違うと美羽は感じている。まあ、私としてもこの男になら美羽を少し任せてやってもいいかもしれないと少しだけ思った。

 美羽がドライヤーを済ませ、何故か私はキャリーバッグの中に入れられる。


「ごめんね、タレ蔵ちゃん。こんな狭い所で悪いけど、ねんねしててね」


 ジッパーを閉められ、視界はぐっと狭くなるけど、四方がメッシュ素材だからベッド周りはよく見えてしまう。私は強制的に人間の交尾姿を見せられるようだ。美羽には可哀想だけど、眠くないし交尾を観察させてもらう事にする。


 美羽はバスローブ姿で虎次郎の座るベッドの傍へゆっくりと歩いて行った。


 はてさて、キャリーバッグ越しで申し訳ないんですけど、この私、タレ蔵が人間の交尾たるものを実況させて頂きたいと思います。


 虎次郎は精神統一をやめ、目の前に立っている美羽を見上げる。


「美羽さん……」


「あの、わたし、は……初めてなんだけど大丈夫ですか?」


 ドキドキという効果音が聞こえてきそうな緊張感が室内に漂ってくる。

 美羽は実際に男の人と抱き合うのは初めてである。


「……っ!」


 彼女の声を聞いた虎次郎はハッとしながら顔を急に赤面させる。

 そして、


「実は……俺も……女の人を抱くのは初めてで……」


 なんですってー!?

 虎次郎ってもしかしてでもなく童貞なんでしょうか?


 経験のない二人は何故、勢いでラブホテルに入ってしまったのでしょうか……?

 お互いの一言で無意味な時間が過ぎて行った。


「……くしゅん!」


 意味なく立たされていた美羽が冷房の風に晒されてくしゃみをした。


「こっちにおいで」


 虎次郎は布団をまくり上げて自分の傍に来るように導いた。


「はい……。お邪魔、します」


 美羽は頬を真っ赤にしてドキドキしながら虎次郎の胸の中に恐る恐る飛び込んだ。


「……体、抱き合えば温まるかな?」


 虎次郎の胸板の中で美羽はぼそりと刺激的な一言を呟いた。


 しばらく金髪の二人はベッドの中の布団に包まってじっとしていた。

 体をくっつけ合ってじっとしているだけ。


 沈黙が下りてきて、やがて静寂に……。

 ああーっじれったい!! さっさとやるならやる!


 もぞもぞと音がするのは私が入っているペットキャリーの中の音だけだった。


 そして……。


「虎次郎さん、わたしを大切に扱ってくれるのは分かるのですが、もっとその……遠慮せずに……」


 美羽は恥ずかしくて口ごもってしまった。


「じゃあ、いいのかい?」


「……胸、触って下さい」


 男初心者の美羽が何とかリードして仲を深めようと歩み寄る。

 虎次郎の大きな手にすっぽりと収まるサイズの小ぶりの胸をシーツから曝け出して突き出す。桜色の乳首が外気に曝された。


 ちょん……。

 虎次郎は恐る恐る美羽の胸の先端を人差し指で押した。表情は困惑気味で、顔色は真っ赤だ。なんてウブな男なのかしら……?


「あの、もっと大胆にしてくれてもいいのだけど……」


 美羽の表情も困惑が伝染っている。

 彼女は性の欲が強いのか、もっと先へ進もうと積極的に動こうとしている。


「やっぱり結婚前にこんな事は……!」


 真っ赤な顔をして顔を片手で覆う虎次郎は臆病だ。今更怖気づいている。


「何を今更言うのかしら? 誘ったのは虎次郎さんでしょ」


「美羽さんだって乗り気だったじゃないか」


 そして沈黙が過ぎて行く。

 なんて青少年みたいな青臭い雰囲気でしょうか。少々気まずくなってきているみたいですね……。


 場が白けそうになった時、美羽は思い切って布団を捲った。


「虎次郎さん、勝負ならどう? 裸と裸のぶつかり合いです」


 一糸纏わぬ美羽がベッドの中央でごろんと仰向けに寝転んだ。

 裸と裸のぶつかり合い言う割には、美羽は受け身姿勢でマグロ態勢をキープする。


「うっ……!」


 思わぬ据え膳を目にした虎次郎の目が眩んだ。

 美羽の股の間にある金色の陰りをチラ見した後は、彼女をベッドに押し付けるようにして倒れ込んだ。


「勝負なら受けて立とう。それが格闘を心得る者の礼儀というもの!」


 気合を入れ直した虎次郎は目を見開き、股間を美羽の下腹部に擦り付ける。


「勝負の方法とは?」


「どちらかを昇天させた方が勝ち」


 真剣な表情になった美羽は虎次郎を受け止めようと、彼の厚くて広い肩を抱いた。


 互いの肉体がぶつかり合い、皮膚と皮膚が擦れ合う。

 だが、まだ結合はせずに触れ合っているだけ。

 二人の荒い息が室内に反響して、会話をしない静寂を割っている。


「……勝負が見えないな」


 虎次郎が荒い息をしながら未だ体を擦り付けてくる美羽に答えた。


「それなら、舐め合いっこしましょ」


 余裕の表情の美羽は、態勢を立て直して半身を起こした。

 羞恥心は去った様子で、女豹の様な表情をしながらがばっと股を広げる。


「先攻は譲るわ。それで、わたしが声を出したら交代するの」


「わかった。君に従うよ」


 美羽が言っている事を理解した虎次郎は這いつくばり、美羽の股の間に顔を突っ込んだ。

 ピチャピチャといやらしい音を立て、美羽の秘部は舐め上げられていく。


「……ひ……んっ!」


 早速、美羽は根を上げて声を出してしまった。

 口に手を当て、自分から出した勝負の内容を少し後悔し始めたようだ。


 虎次郎はじゅるっと唾液とも粘液ともつかぬ液体を吸い込む。

 勝ち誇ったような表情で起き上がった。


「さあ、次は美羽さんの番だ」


 硬直した逸物を美羽の眼前に突き出す。


「ううっ……」


 虎次郎の持っている逸物はとても立派で、他の女のひとよりも華奢な美羽には受け止めきれそうもない大きさを誇っているのだろう。猫の私が牛山家の男のモノを毎度見てきていますが、その誰よりも大きいのです。

 本物の逸物を見慣れていない美羽は絶句し、暫し硬直している。


「まだ俺にも余裕はある。来いっ!」


 虎次郎は男らしくドンと構え、逸物を突き出したままの態勢で美羽を待った。


「うん……。いくよ……」


 美羽は恐る恐る虎次郎の竿を聞き手で掴む。

 試しに竿の先端をペロッと舐め、恥ずかしそうに顔を反らした。


「何だ? 自分から切り出しておいて恥ずかしいのかい?」


「違うもん。そうじゃないの!」


 美羽は目頭に涙を溜めながら抗議の声を上げる。真面目な顔で先端部分をペロペロと棒付きキャンディーでも舐めるかのように優しく舐め始めた。


 特に緩急もつけずに延々と美羽が虎次郎の逸物を舐めている。

 虎次郎は一切声を上げないので、途端に美羽が不安の色を隠せなくなってきている。

 これは愛し合うという行為ではなく、真剣試合をしているみたいだ。セックスって何なのかを少し考えさせられる前戯……。


「……はむっ!」


 意を決した美羽が虎次郎の逸物をまるでアイスキャンディーを口腔に入れるように頬張る。アイスキャンディーにしては太すぎる気もするけど。


「うっ……! これは!」


 虎次郎が美羽を突き放すように制する。

 そしていたわる様に肩を抱く。


「やった!」


 美羽が勝ち誇ったような笑みを浮かべると、虎次郎は切羽詰まった表情で肉迫する。


「早速で悪いんだけど、そろそろ出そうなんだ」


「え……?」


「挿れさせてくれっ」


 いきなり美羽を四つん這いにさせ、尻を高く突き上げさせた。

 初めてなのに、虎次郎はバックスタイルをご所望な様子……。


 虎次郎は美羽に覆いかぶさり、膣がどこかを陰茎を持ちながら探っている。


「違う、そこは……! あっ!」


 獣のような姿勢を取った虎次郎は既に正気を保っておらず、美羽の制止も聞かずにとりあえず見つけた穴に自らの肉棒を刺したのだった。


 穴を間違えられたのにもかかわらず、美羽は虎次郎の素早い腰の律動に喘いでいる。


「あっあっああん! お尻気持ちいのぉぉ……」


 そういえば美羽は、たまに性欲が抑えられないと、自らの尻穴をほじくってアナニーをやる位のアナニストに成長してしまったいけない女だった。

 という事は、虎次郎はヴァギナじゃなくてアナルに竿を突き刺したって事なのね!?


「うううっ……で……る……!」


 虎次郎は間違えた穴で射精をしてしまった。ピクンピクンと何度か筋肉を痙攣させながら、美羽の後孔に精を吐き出している。

 恍惚の表情で精子を出した後、虎次郎は名残惜しそうに穴からしおれた肉棒を抜き取った。


 美羽は悦楽の表情を浮かべながら、尻を突き出したままの状態で後孔から精液を垂れ流している。


「うふっ……うふうふ……」


 陶酔しきった美羽は尻穴をピクつかせて精液と腸液をだらしなく垂らしている。

 そんな美羽を見た虎次郎は、自分が穴を間違えたのに気が付きサーッと血の気が失せはじめる。


「ゴメン、美羽さんっっ! 俺が至らないばかりに」


 青ざめた虎次郎は脱力した美羽を抱きしめ、男泣きし始める。


 正気に戻った美羽は男泣きしている虎次郎に気が付くと、ギュッと抱き返した。


「気持ち良かったから許します」


 アナルを開発されていた女の懐は意外にも大きかった。

 そして、その日のペッティングは美羽の門限の5時を迎えそうだったので終わったのだった……。

 やっぱり美羽は未だ処女のままであった。


 私、タレ蔵の話はとりあえず一旦終わりにします。美羽の恋愛はまだ続きそうですので安心して下さいね。




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