第221話「恋の結末」
霊京一番街。霊園にて。
千尋は、片桐春人の墓の前で手を合わせていた。
傍らには千秋もいる。
「オレ、千秋ちゃんのお兄さんに認めてもらえるかな?」
「『俺に勝てる奴としか交際は許さない』とか言ってたけど、兄さん、千尋君よりずっと弱いから大丈夫だよ」
ちょっとおどけてみせる千秋。
断劾も戰戻も習得していなかった春人と、両方習得している千尋では、残酷なまでの実力差があったが、結果オーライといったところか。
「千秋ちゃんのお兄さん、悪いけどオレには千秋ちゃんを幸せにするなんて約束はできない。幸せは自分で決めるものだから。でも、二人で幸せになれる確信ならある。だから――」
千尋は空を見上げる。
「見守っててください」
聖羅学院。
「よー。ちあの兄貴にあいさつしてきたぞ」
予鈴に少し遅れて千尋と千秋が教室に入ってきた。
千尋は千秋を『ちあ』と呼ぶようになっている。
「千尋さん、千秋さん。おめでとうございます」
惟月が柔らかく二人を祝福する。
今日の惟月は氷血モードではない。
「み、みなさんの恋が実って本当に良かったです……」
優月は、かなりヒヤヒヤさせられていたため、なんとか丸く収まったことに心から安堵していた。
「優月さんが私の本当の気持ちに気付かせてくださったおかげです。ありがとうございます」
怜唯から感謝されているが、これはこれで恐縮する。
「い、いえ、元はといえばわたしが問題を起こしてますし……」
優月が真っ当な人間で、惟月と一対一で付き合っていたなら、怜唯もまだすんなりと受け入れられただろうし、真哉の怒りを買うこともなかった。
一時的に険悪な関係になったのは優月のせいだ。
「とはいっても優月と話さなかったら、如月は真哉に告白する気にならなかったんだろ? 真哉は真哉で如月と付き合えるとは全く思ってなかったんだし、優月も役に立ってんじゃねーか」
珍しく涼太が優月の擁護をしてくれる。
ちなみにここで言っている『如月』は当然ながら沙菜ではなく怜唯の方だ。
「確かにそういう面はあるが……。それにしても、怜唯様を苗字で呼び捨てとは礼儀がなっていないぞ」
真哉は涼太の口の利き方に文句があるようだ。
沙菜と区別のつかない呼び方をされて喜ぶ人もいないだろうが。
「しかし、優月さんには三人も恋人がいるというのに、怜唯さんにはようやく一人。やはり優月さんの方が格上ですね」
沙菜は美少女が嫌いで、優月には共感しているらしいが、ずいぶん迷惑な言動を繰り返してくれる。
「如月沙菜……。貴様……」
「草薙君、抑えて抑えて……」
沙菜に対して憎悪にも近い感情を見せる真哉を、千秋がなだめる。
「私が優月さんや沙菜さんに及ばないことはよく分かりました。惟月様の目は正しかったということだと思います」
謙虚に振る舞う怜唯だが、少し前までは優月や沙菜を下に見ていたといっても間違いではない。
客観的に見ればそれでも構わなかったのだろうが、真の謙虚さを手に入れたとでも表現できるか。
「ねーねー。沙菜ちゃんのこと好きな人はいないのー?」
「いる訳ねーだろ」
無邪気に尋ねる穂高だが、涼太につっこまれる。
沙菜は相当な面食いのようだが、言動が恋人を作りたがっている人間のそれではない。彼女に美男子の恋人ができることはなさそうだ。
とはいえ、良くいえば飾り気のない性格だからこそ、優月と友達になれたのかもしれない。
「穂高。一応言っとくけど、お前も振られたんだからな?」
穂高の認識を確かめるように、千尋が言う。
「そっかー。でも、わたしが惟月さまのこと好きなのはいいよね?」
「片思いでいいならな」
穂高はそれで満足そうだった。
「真哉は、優月さんに言うことないのか?」
龍次はさすがに真哉が優月を殴り飛ばしたことを許していない。
涼太のように加減しているならともかく、歯が折れるほどだったので、人間界の常識を持っている龍次にとっては過激すぎる暴力だった。
ケンカを始める訳ではないが、一言ぐらい詫びてほしいと思っているようだ。
「謝罪の言葉だったら、ないな。天堂が惟月様を浮気相手にしていることには変わりない」
人間界の常識と羅仙界の常識が対立してしまっている。
優月としては、自分ごときのために他人が反目し合うのは避けたい。
「い、一応、浮気じゃなくて本気なんです……」
「浮気する奴の
全く話にならない言い訳をしたら涼太につっこまれた。
見るに
「惟月様! 本当にこんな奴を伴侶にしていいのですか!?」
惟月の答えは、優月にとって人生最大の賛辞だった。
「優月さんは、強くて優しくてかっこいい理想の女性なんです!」
エピローグ-それぞれの恋- 完
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