第219話「嫉妬」
一限目の授業が終わったあとの休憩時間。教室にて。
怜唯は優月たちから離れた席に座ってうつむいていた。
(惟月様は私より優月さんの方が好きだった……。私のことはどうでも良かった……)
怜唯は、惟月の筆頭信者として、羅仙界の人々から聖女扱いされていた。
だが、彼女のプライドは今回の一件でズタズタにされてしまったのだ。
怜唯のことを慕う同級生は数多くいるが、皆、どう声をかけていいか分からずにいるようだった。
そんな中、一人だけ怜唯の前にやってくる者がいた。
「レイちゃん……。一緒に優月ちゃんにごめんなさいしよ? わたし、レイちゃんと優月ちゃんがケンカしてるの見たくないよ……」
「穂高さん……。いえ……ケンカをしている訳では……」
今の自分は醜い嫉妬心で満たされている。ケンカではないが、よほどタチの悪い状況だ。
「レイちゃんと優月ちゃんはお友達だよね……? 優月ちゃんが惟月さまと仲良くなったらレイちゃんは悲しいの……?」
「それは……」
「わたし、惟月さまが危ない時なんにもできなかったから、優月ちゃんのことすごいなって思うよ……?」
惟月に好意を持っていたのは穂高も同じだ。
だが、穂高は優月に対して嫉妬していないどころか敬意を持っている。
怜唯は己の傲慢さを恥じた。
怜唯は心のどこかで、穂高より自分の方が大人だと思い込んでいた。
それが実際にはどうか。穂高の方がよほど寛大だ。
「怜唯ちゃん。真哉くん抜きで優月と話してみたらいいんじゃないかな?」
穂高と怜唯の会話を聞いて、千尋も加わってきた。
彼の言う通り、真哉に頼ってばかりいてはなにも解決しない。
「分かりました。なんとか話してみます」
「じゃあ、わたしも――」
「穂高は留守番な。ここは二人きりの方がいいって」
怜唯にくっついていこうとする穂高の肩をつかんで止める千尋。
そんな二人に見送られながら、怜唯は優月の席に向かって歩き出した。
一方、その頃。屋上では。
「ここにいらっしゃいましたか、惟月様」
「真哉さん。そろそろいらっしゃると思っていました」
真哉が惟月の前にひざまずく。
周りには誰もいない。
「天堂と恋仲になられたというのは本当のことですか……?」
「はい」
真哉から尋ねられて答える惟月の声にはあまり感情が籠っていなかった。
二人の関係を快く思っていないが故の質問だと察しているからだろうか。
「怜唯様のお気持ちにはお気付きになっていらっしゃらないのですか……?」
「いえ、なんとなくは分かっています。望むかどうかに関わらず、精神に作用する力を持っていますので」
やはり惟月は、怜唯から好かれていても、優月の方を選ぶということのようだ。
「人羅戦争での怜唯様の役割について、如月沙菜が持っている考えは間違っていないのですか……?」
「沙菜さんは優れた眼力の持ち主ですから、まず間違いはないでしょう」
この答えだけでも、惟月が怜唯以上に沙菜を重用していることが分かる。
「惟月様は、怜唯様より天堂の方が優れているとお考えなのですか……?」
「現時点での霊力の高さでしたら怜唯さんの方が上でしょう。ですが、優月さんの潜在能力には計り知れないものがあります」
真哉は惟月のことも尊敬している。惟月の持つ考えを否定する権利など自分にはない。
しかし、聞かずにはいられなかった。
「なぜ……、なぜ、惟月様はこうも怜唯様を蔑ろになさるのですか……!?」
真哉は半ばすがるように惟月を見上げる。
「私は彼女に興味がないのです。私の心に優月さん以外の女性はいません」
興味がないと言われたのは怜唯だが、真哉は自分が突き放された気分だった。
「……っ。失礼……いたしました……」
真哉は力なくその場を後にする。
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