第二十九章-地獄からの侵攻-
第197話「宣戦布告」
霊京五番街。聖羅学院。
ここのところ平和な日々が続いていた。
今日もいつも通りウトウトしながら授業を受けている。
「おい、天堂
「え? あっ、聞いてませんでした……」
担任の中鏡に怒られて、クラスメイトから笑われる。
授業態度は大きく変わらないが、人間界の学校にいた時より明るい生活だ。
今のままの力ではダメだと感じて学院に転入したということを忘れかけていたが、ここにきて初心を思い出さざるをえない事態になった。
(――! この気配……!)
霊京の上空に強大な神気が現れたのだ。
他の生徒も気付いたらしく、皆一斉に窓の外を見た。
「なんだあれ!?」
「赤い界孔……? 獄界につながってるっていう!?」
空にはこれまで見たこともない巨大な界孔が開いている。
その前には、無数の冥獄鬼の姿。
この間も凪や白煉といった冥獄鬼と交戦したが、ここまで大勢で目立つ場所に出てくるなどとは、まるで――。
「羅仙界の民よ。これより我々は霊神騎士団及び羅仙革命軍を殲滅する。命の惜しい者は関わらぬことだ」
宣戦布告だ。
声の主は白煉。
現在の羅仙界を支配・守護している者たちを全員殺すと言っている。
一体、何があったのか。
混乱していると、それに追い打ちをかけるように教室内が炎に包まれた。
教室だけではない。霊京全体が火の海と化している。
「案ずるな。この炎は罪なき者を焼きはしない」
白煉の言葉通り、クラスメイトの大半は炎の影響を受けていないようだ。
「うわッ!」
炎に触れた龍次が悲鳴を上げる。
「龍次さん……!」
白煉は羅仙革命軍を標的にすると告げた。龍次もその中の一人ということか。
「先輩! こっちへ!」
羅刹化した涼太が、霊刀・村正を使って床に血の円を描く。
「
涼太が血閃で作り上げた結界で龍次は炎から守られることになった。
「優月! お前はどうなんだ!」
「わたしも熱さは感じるけど、耐えられないほどじゃないかな……」
「とりあえず、熱を感じる奴は全員ここに入れ!」
涼太が呼びかけるが、それに応じる者はいなかった。
「騎士団や革命軍が狙いなら、わたしは行かないと」
優月を始め、真哉たちも同じ考えを持っているようだった。
「元々、冥獄鬼は羅刹の敵だ。全力で攻めてくるなら、迎え撃つまでだ」
真哉が教室を出ようとすると、千尋が声をかける。
「それぞれの隊長のとこ行くってことでいいかな?」
「それが副隊長としての務めだろう。怜唯様はここでお待ちください」
真哉に呼びかけられた怜唯は自分で結界を張って身を守っている。
この教室内で標的と見なされた者は、優月・龍次・涼太・真哉・千尋・怜唯の六人だけと思われる。
「……? 惟月さんは……?」
「そういえば今日は見てないな」
結界越しに会話する優月と涼太。
惟月は一般の生徒とは立場が違うため、いつも同じ教室にいる訳ではない。
「革命軍を殲滅するっていうんなら、また惟月さんは狙われてるんじゃ……」
「惟月の近くには多分雷斗がいるだろ。それより、上にいる奴らの動きを見とけ」
界孔の前に集まっていた冥獄鬼たちは、街中に散っていく。
本気で戦争を始めるつもりか。
「行くぞ千尋!」
「ああ!」
「待って千尋君。わたしも――」
千秋が千尋の後についていこうとするが。
「ダメだ、千秋ちゃん」
千尋は千秋を止める。
「どうして……」
「あいつらは今の千秋ちゃんが戦って勝てる相手じゃない。無駄に戦って死ぬことは、騎士の使命じゃない。君が戦うのは、本物の騎士になれてから……分かるよね?」
「う、うん……」
千秋が引き下がると、真哉と千尋は隊長の元へ向かった。
「熱を感じてない奴はここで待機だ! 下手に冥獄鬼と関わるな!」
中鏡が生徒たちに指示を出す。
「こわいよー……」
見ると、穂高は隅の方で膝を抱えて小さくなっている。
「穂高ちゃん! 熱さを感じるなら結界の中に――」
「ううん。熱くない……」
龍次が心配して声をかけたが、冥獄鬼から敵とは見なされていないようだ。
「だったら、大丈夫だよ。あいつら騎士団と革命軍と戦うって言ったでしょ? つまり、久遠様や雷斗、如月とも戦うことになる。絶対負ける訳ないよ」
「うん……」
龍次の励ましを受けても、穂高の表情は暗いまま。
安心させてやるには、敵を追い払う以外ないか。
「あの、先生。わたしは行ってもいいですよね……?」
「天堂姉……。まあ、お前の力ならいいだろ」
教師の許可は得られた。
「優月さん。無理して戦わなくても、ここは他の人に任せても……」
「ありがとうございます、龍次さん。――でも、龍次さんや涼太が熱を感じるなら、やっぱりわたしが戦わないといけない相手だと思うんです。街に降りてきた冥獄鬼にはそんなに強くないのもいるみたいなので、無理のない範囲で戦ってきます」
龍次を上手く説得する話術は持っていないので、さっさと教室を飛び出すことにした。
羅刹化し、霊刀・雪華を携えて。
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