第148話「英利の口利き」
道中、
「ここが霊京か。首都だけあって豪華な街並みだな」
「そうだね。ちょっと憧れてたけど、こんな風に来ることになるなんて思ってなかったな」
「全部終わったら、ゆっくり観光でもしていこうな、千秋」
「うん。兄さん」
千秋たちが最初に入ったのは七番街だ。
立派な屋敷が目立っているが、千秋たちの家とあまり変わらないような小さな家が並んでいる地区もあり、住民の生活にも落差はある。
「さて、騎士団に依頼をするには、どこに行けばいいんだ?」
「あっちに大きなお城が見えるし、あそこでいいんじゃないかな?」
千秋は、霊京の中心にある羅仙城を指差す。
「あれって王族が住んでるとこじゃないのか?」
「に、兄さん。この前革命が起こって王族とか貴族とかの身分制度はなくなったって聞かなかった?」
「あ、そうだっけ。だったら、今は革命軍の拠点になってるのか? まあ、どっちにしろ騎士団と関わりはあるだろうし、そこで相談してみるか」
緑枝町から霊京までの道のりに比べたら大した距離ではないが、街自体が広いので城に着くまでにも、結構歩かされることになった。
だが、ようやくここまで来たのだ。ここで依頼を受けてもらえるか否かで、自分たちの未来が変わる。
ドキドキしながら城の中に入ると受付台の向こうにいる女性から声をかけられた。
「いらっしゃいませ。本日はどのようなご用件でしょうか?」
まるで商店かなにかのような表現だ。
やはり王族が住んでいた時とは変わっているらしい。
「どうしても騎士団の力を借りたいんだ! 今すぐ断劾を会得してる人に会わせてくれないか!?」
春人の頼みに対して、受付の女性は少々困惑した様子。
「いきなりという訳には……。こちらの用紙に必要事項を記入して予約を――」
「急いでるんだ! 早くしないと千秋の命が……!」
おそらく自分たちの言動は非常識なものとなっているものと思われる。
千秋としては、なだめたいところだが、自身の命が関わっていることなので、止めるに止められない。
「あら? なにか騎士団に急ぎの用事かしら?」
城の奥から赤みがかった長い茶髪でスタイルのいい女性が歩いてきた。
羅仙界では珍しいミニスカートを穿いている。
「
受付の女性がかしこまった態度であいさつをする。
聞き間違いでなければ、今、隊長と言った。
「隊長さんか! 頼む、話を聞いてくれ! 世界の理のせいで千秋が死ぬことになりそうなんだ! 断劾の力がないと……!」
まくし立てる春人に、第五
「理……断劾……。確かに、ただごとじゃなさそうね。分かったわ」
千秋たちは詳しいことを知らないが、霊神騎士団第五霊隊は、市民に寄り添って活動することをモットーとしている。
切羽詰まった状況の千秋たちを放ってはおけないのだった。
城内の一室で、春人が英利に事情を話す。
「オレは予知夢で千秋が死ぬところを見てしまったんだ。それから、その原因を取り除くように行動したけど、結果は変わらなかった。師匠の話では世界の理で寿命が定められているせいだって」
「未来予知……。そういう能力があるのは知っているけれど、あなたにそこまでの霊力は……」
さすがに、にわかには信じがたいようだった。
春人も緑枝町の中では、そこそこ腕の立つ若者だったが、霊京にはさらに強い羅刹が大勢いると知った。彼らに使えない力を春人が使えるというのは疑われても仕方ない。
「本当なんだ! 理が関係してなさそうな未来は今までに何度も変えてきた!」
「そうね……」
立ち上がった英利は、春人の頭に手をかざす。
「なにか特別な力を感じる……。どうやらウソはついてないみたいね」
騎士団の隊長だけあり、特殊なものも含め、相手の力を測ることには長けているようだ。
「あんたは断劾を使えるんだよな? 千秋を狙ってくる喰人種を倒してくれ!」
「お願いします! 死ぬのは怖いですし、兄さんを悲しませたくもないんです」
英利は、二人の願いを聞くつもりはあるようだが、何やら思案している。
「死の運命を覆すとなると、私一人では手に余る……。優月ちゃんの力を借りるとしても厳しいか……」
答えを決めたらしい英利は、顔を上げて告げてきた。
「
騎士団の隊長より、さらに上の人物を紹介してくれるということになった。
部屋を出る直前、英利は千秋に尋ねてきた。
「その顔……どうしたの?」
「昔、誰かの炎で焼かれてしまって……。相手が誰だったかは分からないんですけど……」
「炎……。私一人で動かなくて正解だったかも……」
最後に英利は、意味深なことをつぶやいていた。
蓮乗院邸・応接室。
英利の口利きもあって蓮乗院惟月との面会が叶った。
惟月は、革命軍の総大将だった人物。田舎からやってきた者が、そうやすやすと直接関われる相手ではない。
無理を通してくれた英利には感謝の念が堪えない。
「お話は分かりました。理とは、世界自体がその在り方を決める力です。お二人だけで対処しようとしなかったのは英断だと思います」
中性的な容姿からイメージする通り、惟月の声は男性としては高めだ。
だが、凜とした強さも感じさせる。
「世界そのものが千秋を殺そうとしてるってことか……」
春人は、なぜ千秋がこんな目に、といわんばかりに低い声でつぶやく。
千秋としても、自分にそこまでの殺す価値があると思えなかったが、どうやら間違いのないことのようだ。
「雷斗さん、襲撃してくる喰人種の討伐をお任せしても構わないでしょうか?」
惟月は、壁に背を預けていた
貴公子然とした雷斗もまた、喰人種と戦う討伐士の一人だ。
そして、四大霊極の四番手であり、純粋に彼より優れた羅刹は世界に三人しかいないといえる。
「いいだろう……。元より喰人種を殺すのが私の役目だ」
いかにも冷たそうな空気をまとっている雷斗だが、惟月を経由しての頼みだったからか、素直に引き受けてくれた。
(こんなすごい人たちが助けてくれるなら、もう大丈夫だよね)
兄のことも頼りにはしていたが、田舎者の自分からしたら途方もない立場の人たちの力添えをもらえることになって、千秋は心から安心した。
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