第126話「迷コンビ」

 任務の間の休憩として喫茶店でデート気分を楽しんでいた優月だったが――。

「奥の方にいる奴らの気配、また超能力者じゃないか?」

 涼太が目をやった方向には、先ほど口論をしていた男女。

 改めて注意深く探ってみたが、確かに彼らからは超能力者特有の気配が感じられる。しかも、その圧は今までの相手より数段強い。

 向こうもこちらを目の端で捉えながら話しているようだった。

栗原くりはら……。気付いてるか? あいつらの中に羅刹いるぞ」

「気付いてるに決まってるでしょ。私の感覚は羽田はねだなんかよりずっと鋭いのよ」

「お前、なんでそんなかわいげのない言い方しかできねーんだよ」

「うるさいわね……」

 ひそひそとしゃべってはいるが、十分こちらまで聞こえている。

 厳密にいえば優月は完全な羅刹ではないが、彼らの言う羅刹は優月のことを指していると見て間違いない。

「どっか広い場所に出て相手してやるか」

 主力は優月なのだが、涼太が先導して店を出る。すると超能力者の二人組も距離を空けつつ後をついてきた。


「さて、お前ら、おれたちの言うことを信用する気はあるか?」

 近くにあった公園に人がいないのを確認して、そこで超能力者二人と対峙した。

 涼太の問いかけに対し、先ほど栗原と呼ばれていた女が首を振る。

「信用する訳ないでしょ。あんたたち羅刹はさんざん人間を襲ってきたじゃない」

 赤みがかった茶髪と気が強そうなつり目が印象的な女だ。

「なんでお前が返事してんだよ。俺があいつらの相手だろ」

 栗原という女に文句を言うのは、髪はボサボサだが顔立ちは端正な男。確か羽田と呼ばれていた。

「はあ!? リーダーの私が答えるのが当然でしょ!」

「いつからお前がリーダーになったんだよ!?」

 優月たちをよそに、またしても口論を始める二人。

 放っておいたら話が進まないので、一応声をかけてみる。

「あ、あの……、わたしたちは今人間界で起きてる異変を鎮静化させるために来てるんです。それでレベル・テンの能力者の方と戦わないといけないんですけど……」

「あんたは黙ってなさい!!」

「お前は黙ってろ!!」

「すみません……」

 能力者二人の剣幕に優月は萎縮してしまう。

「大体あんたはね――」

「お前こそな――」

 お互い戦うために場所を移したはずなのに、一向に相手をしてくれる気配がない。


 数分間彼らの言い合いが続いたところで涼太がしびれを切らした。

「霊剣・紅大蛇!」

 左腕にはめたブレスレットから変化を解いた蛇腹剣を伸縮させて二人の間の地面に叩きつけた。

「――!」

 強い衝撃波を受けてさすがの二人もこちらに注意を向けることになる。

「天堂涼太だ。こいつが姉の優月。いい加減相手してもらうぜ」

 今回の戦いには涼太も加わるつもりらしい。目配せして優月を示した上で臨戦態勢に入った。

 確かに優月の能力は――敵が極端に弱い場合は除いて――複数の敵と戦うのには向いていない。涼太が片方を引き受けてくれた方が助かるには違いない。

 二対二――というよりは一対一の戦いをそれぞれ展開することになるだろうか。

「霊刀・雪華」

 優月も羅刹化と共に刀の変化を解き、戦える状態に。

 龍次をかばうように優月と涼太の二人が前に立つのだが、戦いに加われない龍次は歯がゆそうな顔をしている。

「ふん、いいわよ。相手してやるわ! 私は超能力者の栗原まい! こいつが羽田すばるよ!」

「だからなんでお前が全部説明してんだよ!」

 舞と名乗った女は炎の槍を、昴と呼ばれた男は氷の盾を、それぞれの手に出現させる。

「そうだ。試しに羅刹のレベルってのを測定してみようかしら」

 そう言って舞は携帯電話を取り出す。そして優月の方に差し向けた。――優月たちが能力測定機能をつけた霊子端末を使うときのように。

『対象のレベルはエイティーンです』

 測定結果を聞いて、まず声を上げたのは昴だ。

「エイティーン!? レベル・テンが最高じゃないのかよ!?」

 続いて舞が神妙な面持ちで考えを述べる。

「羅刹は別格って訳……? だったらなおさら引く訳にはいかないわね」

 レベル・テン――能力強度・十は超能力の限界だ。羅刹の霊力はそれ以上に達することができる。

 しかし、優月としては自分がそんなに高いレベルだと思っていなかったので、敵と同様かなり驚いていた。

 それにしても、優月たちが霊子端末につけたのと同じ機能を、人間がどうやって携帯電話につけたのか。

 いずれにせよ、こちらで一番強いのは自分だ。早く一人を倒して涼太に加勢しなければならない。

 まず、どちらがどちらと戦い始めるかだが――。

「見たとこ栗原って奴の能力が炎で羽田って奴が氷だ。女の方はおれがやる」

 奇しくも涼太と優月の魂装霊俱の能力も炎熱と氷雪だ。涼太の意見通り同系統の能力と戦った方が相殺によって余計な力の余波に巻き込まれる危険を避けられる。

 涼太が自身の前に立ったところで舞は目を丸くする。

「こんな小さい子が羅刹の仲間なの?」

 涼太に対して『小さい』は禁句だ。なんとか黙らせなくては。

「ま、待ってください。涼太は身長が低いのを気にしてるんです……!」

 言った後で失言だったと気付く。

「ほー」

 一瞬で優月の目の前まで移動した涼太は、かかとで優月のすねに蹴りを入れた。

「い、痛い……」

 涼太の移動速度には目を見張るものがある。羅刹化こそできないものの、流身と同様の原理の能力で身体を動かしたのだろう。修行を積んでいたのは優月だけではなかった。

 舞の前に戻った涼太は霊剣・紅大蛇を構える。続いて優月も昴の前に立ち、霊刀・雪華を構えた。

「組み合わせおかしくない? この小さ……、この子は羅刹じゃないんでしょ? 戦闘能力が高い私が羅刹の女の方と戦うわよ」

 舞は戦う相手に不満があるらしい。

 対する昴も反論する。

「誰の戦闘能力が高いって? 俺の方が強いだろが」

「あんたの能力は守りでしょ。敵を倒すのには向いてないじゃない」

「うるせえ、シールドバッシュって技知らねえのか」

「知らないわよ」

 またしても口論を始める二人組だったが、涼太は遠慮しなかった。

 霊剣・紅大蛇が、舞が手にした炎の槍を弾き飛ばす。

「――!」

「お前らのどっちが強いか知らねえが、おれたちの方が強いのは間違いねえぞ」

「言ったわね……」

 舞も涼太と戦うことに納得したらしく、再度炎の槍を出して投げ放った。

 涼太は、軽快な身のこなしで槍を避ける。元々の運動神経がいいだけあって、霊力が優月より低くても動きは悪くない。

 ひとまずあちらは大丈夫だろうと見て、優月は昴に目を向けた。

「言っとくが俺は、人間を喰う羅刹相手だったら女でも手加減しねえぞ」

 昴が鋭い目つきになって優月をにらみつける。やはり彼らも羅刹全体を人類の敵と見ているようだ。

「分かりました。大丈夫です」

 仮にも自分は革命軍の筆頭戦士として羅仙界の王を討った。今さら人間に手加減をしてもらおうなどとは考えていない。

 ようやく優月たちも、まともな力を持った超能力者と戦い始めることになった。

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