第49話「追憶:羅刹の頂点」
惟月から力を譲り受け、喰人種・真羅君景を撃破した雷斗。
雷斗は力を貰った対価として惟月に協力し、代わりに喰人種と戦うという契約を交わすこととなった。
二人は今、五番街の蓮乗院家に向かっている。
破壊されてしまった月詠家に代わり、雷斗が生活をする為の部屋も用意するとのことだ。
「何故、私にここまでする? 本当に戦いを任せる為だけか?」
「『だけ』と言っては語弊があるかもしれませんが――、少なくとも雷斗様を罠にかけるなどというつもりはありません」
微妙にはぐらかされてしまった。惟月の言葉にはこういう傾向が強いように思える。
門前まで来たところで一人の少女と出くわした。
「惟月様じゃないですか。今お帰りで?」
後ろ髪を高い位置で括り、金色の着物を纏ったその少女は、惟月に軽く挨拶した後、隣にいる雷斗を見て目の色を変える。
「そっ、そちらにいらっしゃるイケメンは……?」
少女の問いに惟月が答える。
「前にお話しした月詠雷斗様です。征伐士として私に協力していただくことになりました」
惟月による紹介を聞き終わるかどうかというところで、少女は目にも留まらぬ速さで雷斗の前に跪いた。
「如月沙菜と申します! お噂はかねがね。私を、私を下僕にしてください!」
いきなり何を言い出すのかこの女は。
惟月も他の者たちとは違った接し方をしてきたが、それとは比較にならないふざけた発言に雷斗は唖然とする。
「……。――断る」
「いや、断られてもなります! マゾヒストの誇りにかけて、これほどの逸材は見逃せません」
最早、『下僕』の定義も『誇り』の定義も分からない。
ただ、なんとなく不快なので霊子弾で吹き飛ばしておいた。
「ぐふっ……、容赦ない一撃……。さすがは雷斗様、分かってらっしゃる……」
お互い初対面で何が分かっているというのか。
これ以上構ってやっても仕方ないと、不愉快な女は無視して邸内へ。
邸内では、惟月の兄・蓮乗院久遠と対面することになった。
「惟月か」
「はい、ただ今帰りました、久遠さん」
惟月は自分の兄を名前で呼ぶ。
久遠は王室の配下である霊神騎士団の団長だ。
雷斗がもし本当に父の魂装霊俱、霊刀・村雨を取り戻そうとするなら、いずれ超えなければならない存在といえる。
もっとも弟の惟月に力を借りている時点で、そんなことは夢のまた夢だろうが。
「君は……」
久遠は雷斗に視線を向ける。
「征伐士の月詠雷斗様です。これから色々と力になってもらおうと」
久遠は惟月の答えを聞き、わずかに顔をしかめた。
惟月の霊気が弱まっていることに気付いたのだろう。
「蓮乗院久遠様。お初にお目にかかる。弟君から譲り受けた力を以って征伐士稼業を代行することとなった」
やはり心のどこかに騎士団長を敵視している部分がある為か、どのような口調で話すべきか迷ったが、とりあえず尊敬語は使うことにした。
「惟月、お前が戦いを好まないことは分かっている。だが、霊力まで他人に渡してしまって良いのか?」
惟月が持っていたはずの霊力を雷斗が持つことによって、果たすべき責務が果たせなくなるとでも言われているように思える。
そこで雷斗は――。
「私の実力に疑問があるご様子。一つここは手合わせをしていただけまいか」
「手合わせ……。つまり君に征伐士として十分な力があれば、何も心配することはないということか」
久遠はうなずき、蓮乗院家の修練場にて一戦交えることとなった。
「あの少年、一体何を考えているんだ……? 勝負になる訳がないだろう……」
「惟月様から力を貰って調子に乗ってるんじゃないか?」
修練場の端の方で使用人たちが話しているのが耳に入る。
勝ち目がないことは理解しているつもりだ。しかし、騎士団長の力というものがどれほどのものなのか、この目で見、肌で感じてみたいとの思いが勝っていた。
「手加減は無用。私を殺すつもりでこられたい」
霊剣・雷公花を抜き、久遠と向かい合う。
「分かった。私も全力を出そう」
久遠が腰に差した霊刀・
「断劾――刹那十式・
次の瞬間には、雷斗の全身が斬り刻まれ鮮血が吹き出した。
その場で膝を突く雷斗。
(やはり手も足も出ない……か)
だが、何をしたのかは分かった。時空に干渉することで無数の斬撃を放つ時間を一瞬に圧縮したのだ。斬撃の回数はおそらく幾億にも上る。
「ほら見ろ。相手にならなかったじゃないか」
「いや……、ちょっと待て。久遠様の断劾を受けて、なんで生きてるんだあいつは……」
「生きてるどころじゃない。片膝を突いただけだなんて……」
観戦していた使用人たちがどよめき始める。
「雷斗君といったな、君の力は確かなようだ。疑ってすまなかった」
羽織を翻して修練場を後にした久遠の頬には一筋の赤い線が。
――まさか。飛天瞬塵破による無数の斬撃をかいくぐらせて、反撃を加えていたというのか。
久遠は雷斗に対し末恐ろしいものを感じた。
残った雷斗と惟月は。
「いかがでしたか? 私の兄は」
「強い……途方もなく」
雷斗の傷を治しながら惟月は尋ねる。
「超えるのにどの程度かかるでしょうか?」
「……少なくとも十年はかかるだろうな」
「ふふ、十分です」
この日から雷斗は惟月と共に征伐士としての活動を始めた。
その先に何があるのかは、まだ見えない。
第七章-始まりの時- 完
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