第46話「追憶:孤高の征伐士」

 ある日、雷斗は喰人種討伐の為、入り組んだ森の中を進んでいた。

 先日のことがあったので大物を狙うことはやめて、今回はC級の喰人種を探している。

 濃度の低い魄気をせわしなく駆け巡らせ喰人種の霊気を探す。そこへ別の霊気が。

「雷斗様」

 例によって大貴族・蓮乗院家の御曹司だ。

「何の用だ」

「喰人種の居場所をお探しなのでしょう? 案内して差し上げられるかと思いまして」

 確かに霊力の高い惟月であれば、魄気を展開できる範囲も広い。協力を得られれば助かることには違いない。だが。

「ふざけるな。これ以上貴様の力など借りる気はない」

「それは私が貴族の生まれだからですか?」

「…………」

「生まれ方に意味などない。重要なのはどう生きるか。――そうお考えなのではありませんか? 雷斗様」

 雷斗は血筋を信仰する考え方が嫌いだった。血筋の良し悪しによって態度を変える者たちを軽蔑していた。

 ならば、血筋の良い惟月を避けようとする自分はどうなのか――。

「知った風な口を……」

 二人が話をしていると、喰人種の方から姿を現した。

「あはっ、ラッキー。しょぼい霊気を見つけたと思ったら蓮乗院家のお坊ちゃんまでいるじゃないの」

 この軽薄そうな口調の女が、今回探していたC級喰人種だ。

 喜んでいるところを見ると、雷斗だけでなく惟月も喰らうつもりらしい。

 惟月の霊力は高いが、最近は前線から退いていると聞く。年齢を考えれば、まだ戦いに出ていなくてもおかしくないぐらいだが、以前はもっと大物の喰人種と戦っていたという話である。

 理由は諸説あるが、戦いにおいて不利になる事情を抱えているのだとしたら喰人種にとっては恰好の餌食だ。

「失せろ、蓮乗院惟月。こいつは私が斬る」

「元より戦いに手を出すつもりはありません」

 惟月は、数メートルだけ飛び退いたが戦域から去る訳ではないようだ。

 雷斗が戦っているところを見たいということか。

「劣血風情がアタシに勝てるつもり?」

 C級とはいえ喰人種は他者を喰らうことで力を増している。雷斗との霊力の差は歴然だった。

 雷斗は腰に差した汎用霊具、月魄刀げっぱくとうを抜き放ち霊気の弾を飛ばす。

 拳大のその弾は喰人種の肩に命中するが、傷一つつかない。

「あは、思った通り! 劣血風情の霊気なら防ぐまでもないわね」

 喰人種の女も抜刀し斬りかかってくる。

 刃を合わせる二人。

 相手はわずかな霊気しか持たない混血、完全に押し勝てるつもりでいた喰人種だが。

「――!?」

 突然、喰人種の刃が破裂した。

 何が起こったのか分からず距離を取る喰人種の女。

 ――雷斗は敵の刃に内在する霊子を操って内部から破壊したのだ。

 霊気の総量で確実に劣る雷斗が編み出した戦法が、敵性霊子を支配し自らの力とすることだった。

 これには敵対者を大きく上回る器を持っている必要がある。誰にでもできることではない。

「くっ、なんなのよアンタ!」

 早々に魂装霊俱を破壊された喰人種だが、まだ諦めてはいないらしい。

 雷斗が振るう刃を腕で受け止める。

 触れた瞬間は何も起こらない。だが、一拍置いて皮膚が裂け鮮血が吹き出す。

 喰人種の女は、再び距離を取る。

 敵性霊子を支配する戦法は生身の相手にも有効だ。敵の力を自分の力に変換する時間さえあれば、防御不能の強力な攻撃となる。

「アンタなんか霊法だけで十分よッ! 霊法六十三式・火炎流かえんりゅう!」

翻刃一閃ほんじんいっせん

 雷斗は、敵の霊気の流れを見切って一閃。

 炎の渦は逆流して喰人種の女を焼き尽くした。

 翻刃一閃――優れた眼力によって敵の攻撃の霊子構成を一瞬のうちに見切り、跳ね返す。特定の副霊源を用いない汎用戦技でありながら、雷斗の戦法の真骨頂ともいえる技だ。

 眺めていた惟月が感嘆の声を漏らす。

「すごい……。自身の霊気はほとんど使わずに……。これが雷斗様の戦い方……!」

 敵を大きく上回る器と支配力によって霊力障害を補って戦う。それが雷斗の戦い方だった。

 余裕で喰人種を倒し、刀を納める雷斗。

「これほどならば、あるいは……」

 惟月はそっと呟いた。

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