第六章-動き出す騎士団-
第40話「不信」
霊京一番街。王城の広間にて。
「何ですって!?」
配下の騎士から報告を受けて目を見開く
金髪碧眼で毛皮付きのマントを羽織ったこの少女は、先日王位を継いだばかりの若き女王だ。
受けた報告の内容は羅仙界に人間が侵入したというもの。
主に上流階級の羅刹は、羅仙界は神聖な場所であるという意識を持っており、不浄な存在である人間の立ち入りは禁忌とされている。
この事態を女王として見過ごす訳にはいかない。
「人間が自力でやってこられる訳ないし、誰かが手引きをしたっていうの? それとも迷い込んだだけ?」
詳しい事情を騎士団員に尋ねる。
「どうやら人間たちは如月沙菜と行動を共にしているようです。おそらく手引きをしたのも彼女かと」
「――! 如月沙菜……。やっぱりあの人、危険なことを考えてたんじゃ……」
「陛下、侵入した人間と如月沙菜の討伐命令を」
「……分かったわ」
朱姫は不穏なものを感じながら霊神騎士団へと命令を下した。
四番街、如月邸の一室。
城崎との戦いからしばらく経ったが、今のところ沙菜の関係で危険なことにはなっていない。ある意味平和な日々が続いていた。
今日は、優月・龍次・涼太の三人と沙菜、それから『沙菜ちゃん、あーそーぼー』などと言って呑気に遊びにきた穂高が揃って、人間界から持ち込んだゲームで遊んでいる。
「あ、また勝った。優月さん手加減してくれてる?」
「い、いえ、そういう訳では……」
「優月は下手の横好きですからね。普通に全力でやって負けてるんだと思いますよ」
今は優月と龍次が対戦アクションのゲームをやり、涼太はそれを眺めている。順番待ちをしている穂高は携帯ゲーム機で猫に言葉を教えるゲームをやっている。
「沙菜ちゃん、沙菜ちゃん~。『もう知ってるニャ』って言われちゃう~……」
「まあ穂高さんの語彙力だとそんなもんですね」
沙菜と穂高、二人のやり取りを見て優月たちは声をひそめて話し合う。
「穂高はあの事件のこと知ってんのか?」
「知ってたらあんな風に懐かないと思うけど……」
「そ、そうですよね……」
あの事件とは、五年前にあったという沙菜が犯人とされている学園での殺人事件だ。
いくら穂高が純真無垢といえども、凶悪殺人犯とまで仲良くするとは考えにくい。何も知らないでいる可能性が高いのではないか。
「それか、おれたちを油断させる為に遊びにきてるってことも考えられるか……?」
涼太が言うように、穂高が沙菜とグルになっていて優月たちの警戒心を解く為にあのような振舞いをしているのだとしたら、その作戦は成功しているともいえる。
「ちょっと待って。だとしたら如月本人が……、なんていうか怪しい感じの行動をするのはおかしくない?」
確かに警戒心を解くなら、協力者を用意する前に自分が好人物を演じるのが先ではなかろうか。
話をしていても答えは見えない。
結局は何かが起こるのを待つしかないのだろうか。
「ねこさんは知らないもんね~」
膝の上に乗せた猫を撫でながら笑顔で話す穂高を見ていると、彼女が敵かもしれないなどと疑っていることが後ろめたくなる。
「優月ちゃん、次わたし~」
穂高が両手を出してきたので、ゲームのコントローラーを渡す。
「あ、飲み物なくなってますね」
テーブルの上を見て気付いた優月は、買い物に行く為に立ち上がった。
一つの街と化している如月家にはコンビニのような店も存在しており、敷地の外に出なくても買い物ができる。
「買い物だったら俺が行ってくるよ。優月さんは休んでて」
「えっ……」
優月に続いて龍次も立ち上がったが、優月としてはそれは困る。
「い、いえ、いつも迷惑ばかりおかけしてますし、このぐらいはわたしが……」
「別に迷惑なんて――」
基本的に相手の言うことには従うことの多い優月だが、このような場合は妙に意固地になってしまう。
優月にとって『譲る』ということは譲れないものなのだ。
「と、とりあえず色々買ってきますので……!」
注文を聞くこともなく、逃げるようにして部屋から飛び出す優月。
ただでさえ羅刹絡みで面倒事に巻き込んでしまっているのだから、雑用などは自分が全て引き受けなければ。そう考えている。
(何も聞かずに出てきたけど、龍次さんの好きなものって何かな……? それに涼太も……、牛乳買っていったら怒るかな……?)
沙菜の正体について話していた時からは一転して、日常的なことで頭を悩ませながら如月家の広大な庭を歩いていると――。
(……ッ!)
上空に強力な霊気を感知。
次の瞬間には、その何かが凄まじい勢いで落下してきた。
「よく躱したわね。でも次はないわよ、人間」
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