2-11 アポイントメント
「で、なんでオレが調べないといけないわけ」
人間、両手を合わせて拝まれたからといって何でもかんでも出来るというわけにはいかない。
「おい、浩人、里佳ちゃんがこうやって頭下げて頼んでんだろうが」
「親父は関係ないだろうが」
「兄ちゃん、ボクからも頼むよ」
「泰人、なんだよおまえ」
「お兄ちゃん、お願い」
「杏がどうして」
「浩人くん、里佳ちゃん泣いてるから」
「真知子さんまで、って、こいつ全然泣いてねえじゃん」
四面楚歌。事ここに至っては手の施しようがない。
「わかったよ、やりゃあいいんだろ」
「ありがとう、ヒークン」
満面の笑みを前にしてもう何も言えない。
「畜生……」
昔の不倫相手の墓を探す。それも、墓地だけしかわからないのに。そんなことができるのかどうか。そもそも何から、どこから手を付けたらいいのか。
「相手の名前は聞いてきたのかよ」
「まだ」
「それもオレが調べるのかよ」
「あ、それはいい。私がやっとく」
「なんだ、その偉そうな態度は」
「浩人、おめえは本当、心が狭いっつうか、小っちぇえ野郎だな」
「親父は口出すなよ」
「なんならボクが」
「泰人もいいから」
「とりあえず、金子さんのところには明日また顔出そうと思うの」
「そうしてくれ。あー、もういいから、ちょっとオレコーヒー淹れてくる」
「浩人、オレの分もな」
「兄ちゃん、ボクのも」
「お兄ちゃん、杏のも」
「あ、浩人さん、ワタシのもお願い」
「ヒークンありがとう」
「本当に、なんなんだよ、おまえらは」
次の日、昼過ぎに届いた里佳からのメールは簡単な内容だった。
「名前と命日だけかよ。こんなんで分かるんだったら苦労しねえよ」
どこから調べるか。昨夜のうちにネットで色々と検索しておいた。一発で見つけられる裏ワザみたいなのはなさそうだ。霊園の管理事務所に探してもらったという例はあるようだ。
「まずはそれからいくか」
浩人はパソコンの画面に表示された電話番号をスマホに入れた。
「泰人、車借りるな」
「え、ちょっと待ってよ、父さん帰ってきたら使うかもって」
「ワリイ、例の里佳の用事だって言っといてくんねえか」
「わかった、父さんにはそう伝えるよ。で、どこ行くの」
「八柱霊園。夜には戻る」
急いで出て行く浩人を見送った泰人は、机の上のメモを見つけた。どうやら何かを見つけた痕跡がある。
「兄さん、やるなあ」
泰人は穏やかに微笑んだ。
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